かくれんぼ 17
「まったく存じ上げませんでした。あの子が、ずっと好きな人ができた、そう言ってそちらのお嬢さんの写真を毎日のように見せてくれて、色々な話をしてくれていましたもので」
「ええっ!」
私は心臓を掴まれたような気がした。
「だ、大丈夫?」
ありさがふらつく私の肩を押さえてくれる。
「あの」
老婦人が私の目をしっかりと見て聞く。
「本当に、息子とは、その何も関係が」
「ありません!」
普通の人だと思ってたのに、まさかそんなことを言われるなんて!
「この間初めて話をしました! 後ろから声をかけられて返事しただけです! 名前も知りませんでした! 何も話したこともありませんし、知り合いでもありません!」
一気に思っていることを全部ぶつける。
「どれだけ気持ち悪かったか、怖かったか! なんでそんなことされなくちゃいけないんですか!」
「申し訳ありません」
私の怒りが通じたのか、老婦人がまた静かに頭を下げた。
「疑っているわけではないのです。ただ、もしかして、もしかしたら、そういうことであってくれないか、できればそうであってくれれば……そんな勝手なことを思ってつい言ってしまいました。本当に申し訳ありません」
頭を下げて小さく小さくなってしまった老婦人は気の毒ではあったけど、やはり被害者の私の方がずっと気の毒なはずだった。
「いやいや、どうぞ頭を上げてください」
どうして副理事長がそんなこと言うのよ。言っていいのは私だけのはずだ。
その気持が通じたのか老婦人はじっと頭を下げたまま動かない。
「あの、頭を上げて下さい」
私がそう言うと、やっとのようにゆっくりと頭を上げた。
なんとなくすっきりした。
「それで、一体どうさせていただけばよろしいのでしょうか」
「え?」
いきなりそんなこと言われても……
気持ちが悪い思いをしたとは言え、結局今のところは被害は特になかったのだ。
だが……
「あの、息子さん、どんなこと話してました?」
「は?」
「あの、私のこと」
「ええと」
老婦人は少し言いにくそうにしながら、
「この間はお誕生日だったのに、照れてまだプレゼントを受け取ってくれていない。渡せたら家に連れてきて母さんにも会わせるから楽しみにしてて、と」
言葉がなかった。
「ですが、それは全部息子の勘違いだったと分かりました」
「勘違い!」
ありさが憤慨して立ち上がる。
「あの、失礼ですが、勘違いとは違うと思います。ストーカーです。勝手にこの子と、それから一緒にいるからって私のことまでなんやかんや知ってるようでした。犯罪ですよ!」
きついが、本当のことをありさが老婦人にぶつけた。