かくれんぼ 13
「ありさ」
驚いたことに「こうたり」はごく普通の友人に話しかけるようにありさの名前を呼んだ。
「なによ! あんたにそんな呼び捨てにされる覚えなんかないからね! やめてよ、きもい!」
ありさが動揺を見せる。
「いや、困ったもんだなと思ってさ」
「なにが!」
「君はいっつもそうだよね。僕に親友を取られた、そんな風に思ってるから、いつもいつもそうやって僕を目の敵にする」
「はああああああ!?」
ありさは心底驚いたように叫んだ。
「私が何? あんたを目の敵? はあ?」
「いつもいつもそうじゃない」
怒りのせいかブルブル震える手にスマホを握るありさとは反対に、「こうたり」はごくごく落ち着いた様子で続ける。
「僕が隣に座らないように、いつもさっさと彼女の隣に座るだろ? まあ女の子ってそういうところあるからって、いつも許してたらとうとうそれか。いくら心が広いからと言ってもね、物には限度ってものがある。ついでだから言っておくよ、これからはそんなことはやめてもらうからね」
もしも、「恋人との中を邪魔する幼馴染に対する態度」という台本でもあったとしたら、まさにこんな演出になるのではないか、そう思えるほど完璧な言動だった。
「今度からは彼女の隣の席は僕のものだからね? 分かったかい? 分かったら遠慮してくれよな」
あまりの言葉に何をどう言っていいのか分からない。
自信たっぷりにそう宣言する「こうたり」の他の4人は、何も言えずに固まるばかりだ。
何をどう言っても通じない。
それどころか却って思い込みを深くしてる、そのようにすら見える。
「分かったらもう今からやめてくれよな? じゃあ僕らもそろそろ帰ろうか」
恐ろしいことに、私を見て手を差し伸べてきた。
まるで、淑女をエスコートする紳士のように。
「……、い、いや……」
私はソファの背に邪魔されてそれ以上後ろに下がれないことに焦れながら、隣で固まっているありさにすがるようにした。
「仕方ないなあ。君もちょっと大人の女性として自覚が足りないよ? いつまでも女友達の背中に隠れるようにしていたら、本当の幸せを逃してしまうってそろそろ分からないとね」
にこにこしてそんなことを言う「こうたり」は、それだけ見ると本当に物語の中のヒロインの相手役そのものだった。
「あ、あの、こうたり君!」
やっとのようにしらかわ女史が絞り出すような声を、ひっくり返りながら出した。
「あなたはどう思っているか分からないけど、彼女は嫌がっているから、それは見て分かるから、とにかく手を引っ込めて、ね?」