かくれんぼ 12
「大学の上部に連絡? 何をです? 学生の恋愛についていちいちそんなことする必要があるんですか?」
「こうたり」には本当に何が問題なのか分かっていないようだ。
その事実が恐ろしい。
「いや、あなたね」
しらかわ女史が黒帯職員をチラッと見る。
いざとなったら助けてよ? そう言ってるようだ。
黒帯職員が分かったというように少しだけ首を上下に動かした気がする。
「申し訳ないけど、それは学生の恋愛には聞こえないの。あの、いわゆるストーカーの言い分のように聞こえます」
思い切ったように女子が言う。
「ストーカー?」
「こうたり」が意外で仕方がないという顔になる。
「僕が何をしたって言うんです?」
「いや、だってね」
「嫌がっている彼女につきまといでもしたって言うんですか?」
「いや、あのね」
言われてしらかわ女史が困った顔になる。
確かに、今の状態ではつきまといがあったとまでは言えない。
何しろこちらが認識したのは2度だけなのだ。
だが「こうたり」は私と交際している、愛し合っていると信じ切っているようだ。
「どうすればいいのかしらねえ……」
しらかわ女史も困りきっている。
「とにかく、もう近づかないで下さい!」
私はきっぱりと言った。
ここではっきり言っておかないと「こうたり」の中ではずっと私は恋人のままだ。
そんなのは嫌だ、気持ちが悪い、怖い。
「私はあなたのことは知りません。知りたくもない。はっきり言いますが嫌いです。もう二度とこんなことしないでください!」
「こうたり」は深く傷ついた顔でこちらを見る。
「どうしてそんなことを言うんだろう……僕が君に何かした?」
「何かしたかって、そんなことをされて喜ぶ人間がいるはずないでしょう!」
私は一つ大きく息を吸うと続けた。
「なんで私の誕生日を知ってるんですか? なんで私が好きなものを知っているんですか? なんでずっと一緒にいたなんて嘘をつくの? 私はあなたのことなんてなんにも知らない、知りたくもない」
「こうたり」は傷ついた表情のまま黙ってこっちを見ている。
「はっきり言います。これ以上続けるなら警察にいきます。やめるって約束して下さい」
「私も証言する!」
ありさも一緒に言ってくれた。
「これ、この部屋にあんたが入ってきてから言ってたこと、全部録音してあるから!」
驚いたことに、この状況でありさはそんなことをしていてくれたのだった。
「なんかあったらと思ってやっといたけど、よかった、やっといて」
ありさはどこかの副将軍のように、ケースを派手にキラキラとデコったスマホを「こうたり」に差し出した。
「もう言い逃れも逃げ隠れもできないからね!」
私は親友の行動に心から感謝した。