かくれんぼ 11
例の黒帯の男性職員は難しい顔をして「こうたり」を見ている。
単に口数が少ないのか、それとも顔には出さないが怖がっているのかは分からない。
それとも今のところ力でどうこうするチャンスがないから、それで動けずにいるのか。
「あ、あのね、こうたり君」
他に動く人間がいないので、仕方がないようにしらかわ女史が口を開く。
「はい、なんでしょうか」
間違いなど何一つやりません、そんな晴れやかな返事であった。
「あのね、言いにくいんだけど、こうたり君の勘違いじゃないかなと」
「勘違い? 何がですか?」
「あの、彼女と、その、お付き合いしている、恋人だというのは」
「なんでそんなことを言うんですか」
「こうたり」は深く傷ついた顔になる。
「見てて分かりませんか? 僕たちがどれほど深くつながっているのかを」
誰にも分からない絆を「こうたり」はただ一人しっかりと抱きしめるように言う。
「失礼ですが、しらかわさんには、これまでこういうつながりを持てた方はいらっしゃらないんでしょう」
しらかわ女史に直球に失礼な言葉をぶつける。
「分かります。今の若い者は、とかそうも思ってるんでしょうね。そりゃ時代が違えばそういう感覚も違います。それは僕にも分かります」
さらに深く傷を抉る。
「ですけどね、自分にそういう相手がいない、そういう経験がないからといって、他人の恋愛にそんな形で口をはさむというのは、いくら学生課の方でも失礼だと思います」
しらから女史は何をどう受け止めているのか、何も言えずにじっと目の前の理解不能は男子学生を見つめるしかできないようだ。
「とにかく、僕たちは一目でお互いがお互いを互いの半身だと理解できたんです。それで今までずっと一緒にいたんですよ、離れることなく」
離れることなく
どういう意味なのだろう……
考えることすらしたくない……
「あの、こうたり君」
恐る恐るしらかわ女史が口を開いたのは、学生課の責任者としての責任感か、それともこれ以上言いっぱなしにされて傷つけられるのを恐れるからかは分からない。
「不愉快にさせてしまったらごめんなさいね。でもね、はっきり言います。あなたの言葉を聞いていて、彼女の言うことは本当だった、本当に彼女はあなたのことを知らないのだとはっきり分かりました」
途中で言葉を切ることなく一気に言う。
「だから、このことは大学の上部に報告して、問題を取り上げなくてはいけません。分かるわよね?」
「しらかわさん……」
よかった、分かってもらえた。
私はソファに座ったまま動けずにいるありさにもたれるようになって、安心で体の力が抜けていくのを感じた。