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幽閉の身で死出の旅路へ  作者: 久米 藍
一章
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知らなかった負い目

コンクリート打ちの飾り気のない室内に、空気をつんざくような音が轟く。撃った弾丸は、的に空いた穴に全て吸い込まれていき、後ろのコンクリートを砕き跳弾した。続けて二発、三発と撃ちこんでいく。最初は不快だった音にも慣れてきた。店の裏側には射撃場があった。連れてきた張本人はアイゼをほったらかしにして、射撃に興じている。


「俺のことも全く覚えていないと……まあ、薄情とは云わねぇが」


――好きでこうなったわけじゃないんだから、あまりいじめないでくれ。


目線を的に向けたまま呆れたように云う彼に、アイゼはきまり悪そうに答える。

ここに向かう途中で記憶を失っていることは看過された。こちらから言い出したわけではなく、彼が言い当ててきたのだ。彼は自身をバダトと名乗った。アイゼは最低限の警戒以外はやめることにした。名前を知っていること、記憶が無いことをすぐさま見抜いたこと、記憶を失う前の自分を知っていることは確かなはずだ、と判断した。

ハンマーを担いだヴァ―ナが、すぐそこまで迫っているかもしれないと不安にもなる。そ

れでも、今は何でもいいから情報が欲しかった。 確かなものが欲しい。


――バダトは銃の扱いが上手いな。


会話を接ぎ穂を得るために素直な感想を云うと、バダトは射撃の構えを辞めて、無機質な顔をこちらに向ける。


「……俺たちのチームの中で一番腕が立ったのはお前だよ」


――チーム?

 

疑問を口にすると、バダトはある場所を指さす。そこには変哲もない木製の机があり、机上には雑誌がある。椅子から立ち上がり、それを手に取る。かなり朽ちかけているが、塵にはならず本の形を保っていた。表のマガジンラックにあった雑誌と同じものだったが、号は違う。中身をパラパラと流し見る。ある一枚の写真に目が留まった。

五体のアンドロイドが群がり、一つのトロフィーを掲げている。その中には目の前にいるバダトの姿がある。そして、

ショウウインドウに写ったマネキンが真中にいた。


「俺たちはフルメタル・ガンズって競技で、それなりに有名だった」

 

謎が解けた気分だった。何故バダトと対峙したとき、自分が銃をすぐさま活用できたのか。身体にしみこんでいたのだ。バダトは自身の身体を示した。


「操作用のアンドロイド{偽体(ギタイ)}に脳波を写して身体を操って、古臭い銃器を使って……本物


のな、撃ち合うんだ。実弾で。お互い丈夫な偽体だから、思い切り撃ちあえるし、万が一壊れても肉体は何ともない。高い修理代はかかるがな」

バダトの顔は表情が分からないため、声音でしか判断がつかないが、恐らく楽しそうに紡いでいた言葉を切り「って触れ込みだったんだがなァ」と銃を雑誌が置いてあった机におもむろに置く。

バダトの話を聞きながらも写真を見つめ続ける。写っているのは五体だ。アイゼにバダト、他に三体いる。

異様に首と手足が長いアンドロイドがおり、ほかの二体にも見覚えがある。

彼らを指さして、バダトに尋ねる。声は震えていただろうか。


――こいつらは?


「だからチームだって云っただろ。仲間だよ」


アイゼの様子に気づく風もなく、バダトは呆れたように答える。続けて彼らの名前を暗唱しているが、頭に入ってこなかった。雑誌を乱暴に閉じる。数ページが抜け落ち、床にばらまかれた。拾う気にもなれない。彼らの行く末に思いを馳せそうになり、頭の中を絶叫で埋め尽くす。当時の事はまったく思いだせないが、納得することがあった。何故、彼らが破壊されそうな時、走り出すことができたのか。

結局見捨ててきた。

仕方がないと、自身に言い聞かせる。記憶を失っているあの現状ではどうすることもできなかった。たとえあったとしても、結果は変わらなかったはずだ。彼らには抵抗する意思が無かったのだから。

俺は悪くない。どうしようもなかった。


「あいつらもお前と一緒にふらふらしていたと思うが、どうした?」


――知らない。


肉体だったならば、全身の産毛が逆立っていたはずだ。次は心で思う。


本当だ。


あの時は、彼らのことなんて知らなかった。

思考を中断するため、瞳を閉じる。瞼も眼球も存在しないが、視界がブラックアウトする。大きく息を吐こうとすると、肺など存在していないことがわかる。この身体は外部から何も吸引していない。

視界を開くと、バダトは無言でこちらを見つめていた。それに少し驚いて不自然にならない程度に顔を反らす。


「まあ、あいつらも諦めちまっていたしな。どっか行っちまったか」


バダトの顔を見ることができなくなった。


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