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幽閉の身で死出の旅路へ  作者: 久米 藍
四章
38/52

勝算の行方

森林の中。山の中腹の辺りで、アイゼは大層に育った木に背を付けて潜む。地面が急な斜面であるため、その場にとどまるだけでも一苦労だった。辺りにはこれと瓜二つな大木が林立している。

アイゼは身を隠しながら索敵を行う。


見つけた。


ヨオギは林立の間を、銀触手を使って通過している。体積を考えれば窮屈そうにしてしかるべきだが、進路の木々をなぎ倒しながら進んでいる。どうやら虱潰しにこちらを探しているらしい。


すごい怒ってる。嚇怒この上なしといった様子だ。


まあ、あと少しで殺せたって時に逃げられたら、イラつきもするか。


震える触手が、ヨオギの苛立ちを表しているような気がした。あまり長居するべきではない。そう判断して、ヴァ―ナの元まで帰還する。

ヴァ―ナが隠れている木と隣り合う木に寄りかかる。報告を始めた。


「居た。前方三百メートルってところだと思う。木を全部なぎ倒しながら隠れられる場所を潰しているみたいだから、後退していけばかなりの時間は稼げる」


アイゼはヴァ―ナに変わり偵察を行っていた。ヴァ―ナは可動域が狭まったとぼやいていた右腕を逆の手で思い切り引っ張っている。


「こちらを探知しているような様子ある?」


ヴァ―ナの身体中に空いた穴が銀糸で塞がれている。アイゼの負傷をふさいだ時とは違い、ヴァ―ナの意志関係なくウイルスが穴をふさぐようだ。

その姿に思わず顔を反らしてしまうそうになる。


「いや、そんな様子もなかった。やっぱり、ヨオギにも効果あるみたいだ」


今、サンボはヴァ―ナと合一していない。ウイルス反応で居場所を知られることを避けるためだ。

森林の梢がこすれあい、空を覆っている様子をアイゼは仰ぐ。


「俺たちは森のどこに居るんだろうな。多分、オータに連れていかれた森と繋がっているんだろうけど」


「この国は周囲を森に囲まれていた。都市部の建築の上から眺めた時、そうだったはず。つまり、私たちは国の端の方にまで追い込まれた」


ヴァ―ナは尋ねる。「アイゼ、残段数は?」


思いがけずうめき声を洩らす。それでヴァ―ナはある程度察しているようだが、アイゼは一応サイドバックの中をさらう。手のひらに当たる感触の数はあまりに頼りない。


「四発だ。通常弾の話な。爆弾は一個で、銀弾が二発……あと……それだけ」


「そう」ヴァ―ナにしては項垂れている。「銀弾。使わせてごめん」


「あの状況で使わなくて、いつ使うんだよ」


アイゼはこれで、ヨオギに対する唯一の有効打が二発しかない。


「……腕、やっぱり動きそうにない?」


アイゼは自分の左腕を見つめ、動かそうと意識してみる。「……ダメみたいだ」 


深刻さに飲まれないように苦笑してみせる。


「ヴァ―ナこそ、大丈夫なのか。右肩」 


「可動域が狭くなったのは本当。でも戦闘に支障をきたすようなことは無い」


ヴァ―ナは気づかいは不要だと示すように腕をぐるぐると回した。

現状を確かめれば、確かめるほど、悪化の一途を進んでいた。視界が狭まっていくような感覚を覚える。

銀弾をヨオギに撃ち込んだことで、ヴァ―ナは離脱する時間を経て、アイゼと合流を果たした。

本当に運が良かっただけだ。

十回やれば九回は死んでいるような状況だった。拾った命だからこそ、素直に喜ぶこともできない。


「とりあえず、この国から逃げ出して隣国まで逃げるのはどう? そこでまた弾丸やらを調達して再度挑戦するのは」


「この森を抜け出した後、平地で見つかったら対抗できない。けど、銃弾とサンボ、どちらも欠けている今、それが一番だと思う」


とりあえずの目的はできた。森を抜けるために走り出す。


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