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幽閉の身で死出の旅路へ  作者: 久米 藍
四章
31/52

囲われていない国

「……どうなってるんだ? オータもヨオギも全然見つからないじゃないか」


アイゼのぼやきに、ヴァ―ナが食って掛かる。


「それは暗に私のことを非難している?」


「……そういうわけではない」


「別に私の探知に不備があるわけじゃない」


「はあ、気を張り続けるのも疲れてきたぞ」

 

地区から別の地区に繋がる橋の上を歩いている。橋を吊り下げたロープがかなり劣化しているようで、重量的に数十人分の重さであるところの二体を乗せたせいで、こちらの不安を煽るような軋みが歩行に合わせて鳴り響く。

幽閉体と機甲オートマタは、探索し終えた地区から、別の地区へ向かっている所だった。


暴走体が見つからないのだ。


ヴァ―ナの探知は半径数キロ圏内にウイルス感染者がいると、その存在を知覚できるというものだ。かなり大まかな位置しか判明しない。

今まではそれでも問題は無かった。それだけの距離が縮まれば、暴走体の方もヴァ―ナの存在を把握し、あちらから近づいてきてくれたのだ。だが、今回はいつまで経っても件の二体は一体も姿を現さない。


「本当にこの周辺にいるはずなんだよな? 今更ヴァ―ナの探知を疑うつもりは無いけど」


アイゼが気を使いながら尋ねると、ヴァ―ナは眉を潜ませる。


「……考えられるとしたら、オータとヨオギ、どちらも負傷して動けないか、雪に埋まって身動きが取れていないか、後は……思いつかない」

「二人で殺しあった結果、どちらも身動き一つとれないほどの、それも銀糸の修復がままならないほどの重傷を負い、そのまま雪に埋もれていった……その線が一番あり得そうなんだよな」



「やっぱり、雪を虱潰しに彫っていくしかない……かも?」


ヴァ―ナは乗り気ではないようだ。もちろんアイゼも同じだ。一国の土地の雪を全て掘り返すのにいったいどれほどの時間がかかるのか、分かりたくもない。


「暴走体が全快の状態を望むしかないとは……」


橋を通り終え移動を続けていると、トンネルがあった。中は途中から婉曲しており、出口は見えない。所々崩壊が進み、通路には陽が幾筋も差し込み通路にまだら模様を写している。しばし歩き通路を曲がると、出口の光が見える。

そこからは石垣に挟まれた舗道、といっても敷き詰められた石材はかなりが剥がれており、代わりに雪が詰まっている。


「この通路の突き当りは民家の集合場所みたいだな」


「でも、やっぱり廃墟」


アイゼが街並みを眺めつつ当たりを付けると、ヴァ―ナは民家に近づき窓から中を覗いた。好きだよなそれ。


彼女の背中を眺めつつ、答える。


「正確に云えば、俺たちが旅の中で見てきた建物は全て廃墟だったけど、ヴァ―ナの云いたいことは分かる」


奥の方に屋根に雪を積もらせた建物が見える。サイズからして民家と考えるのが妥当だった。倒壊して、木材に戻っているものがほとんどで、残っている民家も灰白の壁面が、家の縁に積もっている雪と同化して、境目が曖昧になっている。色とりどりだったのだろう屋根は、全て白一色になり、まるで白い箱だった。

舗道を歩きながら、アイゼは云う。


「ドーム内にある廃墟は、まあ、不自然なくらい綺麗で時間が止まっているみたいに思うけど、この国? の建物はいかにも長い月日を経たれっきとした廃墟って感じだ」


ヴァ―ナは辺りの光景を物珍し気に眺めている。


「ドームに囲われてないから、何処までが国の範囲だったのかも分かりにくい」


「もしかしたら、俺たちが通ってきた雪山から廃墟が飛び出していた地点から、すでに国だったのかもな」 


そこら中に不自然に盛り上がった雪模様が広がっている。ヴァ―ナはそれらを観察しながら、縫うように通過していく。


「この国、どういうこと?」


「どういうことって云うのは、また同じ話か?」


この国にたどり着いてから、もう何度も上がったトピックだ。アイゼは少し考えてから答える。


「それはやっぱり、ドームがあまり高性能じゃなくて、途中で壊れたからこの国はこんな状態なんじゃないのか」


「もしくは、何かしらの損害を受けて、ドームが破壊された可能性」


「一番考えられるのは、やっぱり暴走体の二人だよな。それらが争って、ドームを壊した。でも、俺達散々ドームに穴開けてきたけど、いつも勝手に修復されてたよな」


「そもそも、二人が争っていたとして、今だ双方が生存しているのが解せない。暴走体が相対した場合、どちらかが死ぬまで殺しあうはず」


「結局は、ヨオギとオータを見つけ出さないと分からないな」


アイゼは頭を振った。とりあえず、今は身体を動かし続けることに注力する。

経過した日数を考えれば、単純にウイルスの進行具合も著しいはずだった。あまり頭を使うことに意識を割いて、不意打ちなど食らったものなら目も当てられない。


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