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幽閉の身で死出の旅路へ  作者: 久米 藍
三章
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利用した思い


大小さまざまな瓦礫が視界を覆っていた。どうやら埋まっているようだと寝ぼけた頭で理解する。瓦礫の隙間から差し込む光がないことから、夜であることがわかる。外に出ようと試行錯誤するが、全く動けない。


「アイゼ、自分で出てこれる? 私が入用?」


瓦礫の向こうから届く声に、アイゼはのんびり答える。

「太ももの部分の瓦礫を無くしてもらえると助かる」


「ふん」ヴァ―ナが振り薙いだ。


破片を身体からはたき落としながら「助かる」と礼を云った。


アイゼとヴァ―ナは山積みの瓦礫の中にいる。少し呆然とした後、あれだけの塔が崩れたのだから、こうなるのも当然だと納得した。瓦礫の雪崩は付近の建築物をなぎ倒している。塔と住居の瓦礫が混ざり合い、川のようだと思った。


「ビニーと、クラクスはどうなった?」


「落ちてきたところを破壊した」


アイゼが尋ねると、ヴァ―ナはそう云って、問題ないと付け加えた。胸を撫でおろす。ビニーだけに逃げられるなんて心配をしていたが、杞憂だった。クラクスがしっかりと抱きしめていたのだろう。良かった。


ヴァ―ナはアイゼを睨んだ。何事かとアイゼが竦んでいると、ヴァ―ナは口を開いた。

「顔」



そう云われて、アイゼは思いだした。口元に手をやると、顎の付近が、目測で破いた紙の端のような跡を残して、無くなっている。


「だから、私は賛同できなかった」


「……俺達だけじゃビニーを殺すことはできなかったんだし、仕方ないことじゃ」


ヴァ―ナの不機嫌な主張に、アイゼは尚もやんわりと抗議すると、ヴァ―ナはもどかしいといった様子だった。


「それは理解してる。だから、最低限のリスクにするために、塔の中腹ほどで爆破すればよかった。それでも十分隙は作れた。私には理由が分からない。クラクスが何故やり直すことに拘ったのか。それに賛同したアイゼも、理解不能」


理解不能だとヴァ―ナは云うが、今、アイゼは自分の中で納得のいく理由を心の底からサルベージできた。


「ヴァ―ナ。クラクスとビニー、何処にいる?」


「そこ」


話をそらされたとでも思ったのか、ヴァ―ナは不満を少量顔ににじませつつ、指さす。 気持ち瓦礫が膨らんでいる所がある。そこまで移動して、尻を付かずにしゃがみ込み、手を合わせるでもなく、話しかけることもしない。


「俺がなんで、こんなに二人に肩入れするのか。その話なんだけど、俺自身、何でここまで付き合ってんだろうって、ヴァ―ナに云われてから疑問に思ったよ」


「……それは遅すぎる」


アイゼが苦笑すると、ヴァ―ナはきまりが悪そうにする。云い過ぎたとでも思っているのかもしれない。


「考えてみたんだけどさ。多分、俺は満足のためにやってたんだと思う。今回のことを」


「……? 満足」


「クラクスとビニーを助けることが出来たら、どんなに気持ちいいだろうなって。俺が最後に死ぬときに嬉しいだろうなってさ」


喋りながら、失意のどん底に落ちていく。とことん勝手なものだ。


「それは悪いこと?」


先程までと打って変わり、ヴァ―ナの表情は落ち着いていた。アイゼはヴァ―ナに視線を向ける。


「悪いことだろ。二人のことを利用したんだ」


「最後の最後で満足していたいって欲望は、人間なら持っているものだと思うけど。クラクスだって、やり直したいっていう願いのため、気持ちいい最後のために私たちを利用した。同じ」


ヴァ―ナはアイゼの隣に坐り、ポンチョの裾がアイゼの肩に当たる。彼女はポンチョの襟に青いリップを引いたような口元を埋め、物思いに耽るように身体を左右に揺らした。

「私にもあると思う。そんな側面が」


本当に、事あるごとに彼女が機甲オートマタであることを忘れそうになる。


 


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