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幽閉の身で死出の旅路へ  作者: 久米 藍
三章
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修行の成果

天を突くほどに高い建造物。内部の階段は横に異様に広く、横に二十人並んで歩いても通れるほどだ。踊り場もその限りだった。それだけ多くの人間が同時に階段を利用していたのか。エレベータもあったが、アイゼが乗ると軒並みケーブルが切れて使えなかった。


上に逃げてしまったはずのビニーを追いかけるために、アイゼは階段を上り続けていた。

階段を上りつつ、排莢してから右手を後ろ手にし、腰の後ろに巻き付けてあるサイドバックに手を突っ込む。そこで気づいた。


「……長期戦だからな。気づくべきだった」


使える弾丸は入っていなかった。銃器店が存在する国から持てるだけ持ってきたり、自作などして騙しだましやってきたが、遂に尽きてしまった。ビニーの足を止めるためにかなり消費していたのだから無理もない。弾が無ければ無力だ。


「……今のまま合流しても、足引っ張るだけだよな」


ヴァ―ナとの合流は遅れるが、仕方なしと階段から離れる。銃器を取り扱っていた店を探すことにした。


建物内を適当に散策しながら、銃器を取り扱っている店を捜索する。この国には渡り廊下が建物間に無数に伸びている。そして、住居区に隣接しているのは多くが店が密集した区画だった。案の定、商店区画らしき場所に行きついた。問題はこの国が銃器を取り扱っているかだが、居住区で銃の残骸や空薬きょうが散見したので、一般人が銃器を携帯できる国だった可能性が高い。


店舗の看板や内装に注視しながら、通りを廻る。


「食料品店、書物屋……ここは? ケースの中になんかの骨があるな。ああ、動物売りの店か。食い物じゃなくて飼うんだよね。こっちは、なんだこの看板の絵、爆弾かな。そんなもん売ってどうするんだ? 建物の爆破解体とかしたのかな。個人で? まあいいや。で、こっちは刃物を扱う店なのか。いいね。どんどん物騒なエリアに入ってきた。銃器を扱う店ならこの近辺だろう」


果たして、数分後にそれらしき店を発見することができた。看板は読めないが、中にある棚には銃を立てかけたラックが所狭しと並んでいる.。棚は並列の体は取っているように思えるが、その実、雑多な様相だった。荒らされた結果というよりも、元々の内装が雑然としたものだったのだろうと、納得できるような感じだ。食事処にしろ、衣売りにしろ、この国の店はどこも雑だ。テーブルの並びも服の飾り方も。


「……騒がしいところだったんだろうな」


呟きながら暖簾を潜って、中に侵入する。銃器が盗まれていないことでも、ここが荒らされたわけではないことが窺える。つまり弾薬が期待できた。銃が掻っ攫われるということは弾も同様だからだ。

数々の銃器を前にすると、身体を流れていないはずの血が騒いでしまう。思いがけずガンラックから手に取ってしまいそうになるのを必死に自制する。この瞬間もヴァ―ナは追跡を続けているはず、早く援護に向かわなければ、また滞在時間が伸びてしまう。

カウンターの前に来る。カウンター裏にケースが並んでいるのを発見した。やっぱり、弾薬とかは店員が管理してるよな。


カウンターに足を掛けようとした折、既視感が頭を過ぎた。


――動くな。


そうだ。あの時は別のものに気を取られたんだよな……せっかく思いだしたんだ。


カウンターに足を掛けて、サイドバックから銀色の弾が入っている楕円型のパンマガジンを取り出して銃の側面に叩きつける。

この銀色の弾はネイゴが使用していた銀弾だ。戦利品として使っている銃。正式名称が分からないため、ハリバン二号、通称ハリバンと命名した。その薬室に四発だけセットされていたのだ。「威力は暴走体の身体を貫けるはず」とヴァ―ナは云っていた。その威力は自身の身体で体験済みだ。つまり奥の手とも云える貴重なものだ。こんなところで使うつもりは無い。念のために過ぎない。

カウンター内に銃口を突きつけ、隅から隅まで、机下の隙間まで確認する。そこには銃身が短いライフルが隠れていた。強盗対策だったのだろうか。


銀弾。使いたくないんだよなぁ。そうだ。これ使おう。


案の定、ライフルのマガジンには弾が入っている。


「よし」


ライフルの安全装置を外し、コッキング、天井に向けて引きがねを引いた。


フルオート式の連続する慣れない反動に少し苦戦しつつも、天井が穿たれ、木くずが肩に降り注ぐ。手ごたえが無い。


予備の弾薬をケースから取り出そうとした折、天井から何かが降り注いだ。それは頭巾で頭部を覆っており、アイゼを踏みつける形で落ちてきた。アイゼは銃身で受け止め、押し出す力で投げ飛ばすと、頭巾は銃が展示されている棚に背中から倒れ込んだ。倒れた棚がさらに棚を倒す。

アイゼは間髪入れず撃つと、頭巾は横に転がって回避し、勢いのまま立ち上がった。顔から肩にかかるまでの頭巾らしきものをかぶっていて、下には革の紺の履物を履いている。先ほどあった衣売り店にも似たようなものが展示されていた。


「お前、誰だ」


「……」


アイゼが銃を突きつけ尋ねても、アンドロイドは何も云わない。

人型は頭巾と履物のあいだ、腹の部分だけは露出している。金属性のシックスパックに腹斜筋をなぞるように紅色がさしている。


「お前らが襲っている子、あの子から手を引け」


人型がようやく発した声音は、意外なほど元気だった。快活な男を連想した。普段の話し相手がダウナーな声音をしているからそう思えるのかもしれない。彼がビニーのことを云っているのはわかった。


「何か事情を知ってそうだな」


何やら訳アリな存在のようだが、それはこの状況に決着をつけてから確かめることにする。アイゼは返事代わりに発砲し、頭巾は倒れた棚に身を隠して回避した。

頭巾はガンラックから銃を取り出し、撃ってきた。アイゼはカウンターに身を隠す。売り物になんで弾が入ってんだよ。あいつが準備してたのか。それともただこの店の店主の管理不行き届きだっただけかもしれない。


カウンター裏にあるケースに、無数の弾痕が刻まれた。散弾だ。

アイゼはカウンターにライフルを乗せ、構える。頭巾はその時には棚に身を隠していた。撃って棚を抉るが、当たっていない。相手の反撃も当たらない。それを何回か繰り返した。

 

これでいい。


頭巾は散弾銃を捨てて、手近にある銃を手にした。弾が切れたのだ。アイゼも同様に弾が尽きたライフルを放り、ハリバンを手にカウンター裏にあるケースから弾薬を探す。頭巾が手にした銃は口径の小さいマシンガンであり、撃ってきた。アイゼは身を隠す。あの程度の口径の弾薬なら対して怯みもしない。だが、アイゼが当たっても平気であることがバレることが何よりまずい。チャンスが無くなるからだ。カウンターの内に壊れたケースから様々なサイズの弾丸がこぼれてくる。床に転がった中から、サイズが合う二発をハリバンに込めた。

カウンターから身を乗り出し、頭巾目掛けて疾走すると、頭巾はこちらの突飛な行動に多少の戸惑いを見せつつも、冷静に銃を構え、発砲した。アイゼは避けるそぶりもせず、突貫し、全身に衝撃が降り注ぐ。ともすれば気が飛んでしまいそうなほどに。それでも、その程度だった。

うなじからお決まりのアラームが鳴り響く。ヒットを知らせる音だ。


「おまえ、それ」


頭巾は分かりやすく狼狽していた。アイゼは頭巾の懐にもぐり込んだところで、ハリバンの後部、銃床で頭巾の顎を突き上げた。頭巾の足が地面から浮き、その隙に腹を踏みつけ、床に叩きつける。頭巾を見下ろし、詰みとして、頭巾が手に握っているマシンガンを打ち抜いた。


「よし、俺の勝ちだな。知ってること洗いざらい吐けば命は取らないでやる。そもそも、お前に命があるのかは知らないけどな」


頭巾の存在に気づいたのは、天井が軋みを上げたからだ。それだけなら、ただの老朽化で済ませられるが、その軋みには音を最小限にしようという意思があったことで、逆に気づけた。


「カウンターに隠れるもんだから、銃が有効なのかと思っちまった。俺をだますための罠かよ」


頭巾は先程までとは打って変わって、軽い調子で云った。こちらが素のようだ。


「…………それでも、散弾だと吹っ飛ばされるからな。お前が持ち替えてくれて助かった」


「平気なのは俺だって同じだ。銃なんかじゃ傷一つ付かないぜ。どうする。ボードゲームでもして白黒つけるか?」


倒れた拍子に頭巾が剥がれていた。その人相は、分からない。顔に該当する部位はちゃんとあるが、表情が無い。バイザーが張り付けられた顔。


 俺と同じ顔だ。


頭巾の腰を蹴ってうつ伏せにする。「痛てッ」と聞こえたが気にしない。うなじ部分を注視する。


ルビー色でくすんだ、ランプのようなパーツが取り付けられていた。アイゼは自身のうなじに手を当てる。


「お前、俺と同郷だろ」


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