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幽閉の身で死出の旅路へ  作者: 久米 藍
三章
21/52

頂を覗かせない塔

一か月ほど前、二人は砂漠の世界で相対していた。

アイゼが振り抜いた銃床を、ヴァ―ナは最小限の動作で躱し、幽閉体の頭にハンマーを叩きつけた。

アイゼは砂に頭を突っ込んだ。ただでさえ音のない世界で、静寂がさらに遠くなる。


「……り」


ヴァ―ナが何か云っているのが聞こえたので、両手を付いて頭を砂から引き抜いた。彼女はアイゼにハンマーを突きつけて立っている。


「勝負あり」


 ヴァ―ナはどこか得意げだ。


「ハンマー使うなんて聞いてないぞ」


「あなただって、銃を撃とうとした。聞いてない」


アイゼの抗議に、ヴァ―ナはにべもなく言い返す。


「撃ってない。構えただけだ」


「……それで勝って嬉しい?」


「嬉しくはない。けど、いい加減一本くらい取らないとさ」


「心の精進が足りない」


「無い肝に銘じておくよ」


アイゼの態度にヴァ―ナがハンマーをくるくると回転させた。表情は変化していない。いつも無表情だが、この行動の意味するところは分からない。とりあえず良いことの前触れではなさそうだ。


「……もっと頑張るよ」意気消沈気味に云う。


とりあえず納得したのか、ヴァ―ナはハンマーを引き上げる。アイゼも身体を持ち上げた。

アイゼはこうして、折を見てはヴァ―ナに格闘稽古をつけてもらっている。暴走体との戦闘では一撃で身体を破壊されるかもしれないことを考えると、むしろ近距離を避けることが重要だが、いざ実践においては近距離にならざるを負えないことが多々あった。そのため、旅路の道中でヴァ―ナに手合わせをしてもらっている。主にストレスがたまった時や暇すぎるときに。一石二鳥だ。

結果に満足いかずとも仕方ないと、移動を再開した。

しばらく歩いていると目に着くものがあった。


「あれって、ドームか? めちゃくちゃ高いけど」


アイゼが尋ねると、ヴァ―ナがどこの国から持ち出してきたのか、装丁が古びた本から視線を上げた。


「私もあれほどのものは見たことない」


数十キロメートルほど前方に空を貫く白い光がある。はるか上空からストローが差し込まれている様を想起した。


「あそこにいる暴走体は誰なんだ? もうわかる距離だろ」


「ビニー、女性型。部隊の斥工兵だった。当時の武器は二丁のオートマチック拳銃」


「……斥候兵って、偵察兵だよな。これまた手ごわそうな相手だな」


斥候兵は少人数で敵部隊へ接近し、隠密に情報を収集する偵察任務を帯びる兵科だ。


「私の部隊に弱い奴はいない。何度も云わせない」


「わかってるよ」


幽閉体と機甲オートマタは新たなドームに侵入した。


ドーム内の中心にそびえたつ塔から、蜘蛛の足のように伸びるストリート。その一角を歩く二人は、国の景観を呆然と眺めた。異常だった。アイゼは呟く。


「……ここまで高い建物は初めてだな。良く崩れてないもんだ」


どの建物も一階と二階で壁面の素材や色が違う。まるで、全く異なる一軒家同士を、上下で重ね合わせたように、別々の泥団子を無理やり一体化させたように形がいびつだ。それがはるか上空まで連なっている。そのあまりの高さに、アイゼはまるで自分が峡谷の中にいるのかと錯覚しそうだった。建物の窓から窓へ橋らしきものが渡されていて、街路にはゴミとしか形容できないものが積みあがっている。日用品や要らなくなったものを窓から捨てていたのだろう。


「アイゼ、あれ」ヴァ―ナが指さす。


峡谷の果てに、塔がある。周りの建築物がどれだけ規格外の高さなのかを理解できた上で、その塔はこの国で一番高いと云いきれるほど、それは規格外だった。

故郷の建物より全然高い。

この後、特に難航することもなく、暴走体ビニーを発見することが出来た。しかし順調だったのはそこまでで、そこから長い鬼ごっこ始まった。

初めてビニーと相対した時、問題が起きた。ビニーは追いつめられると、逃走するのだ。これまでには無かったケースであったため、二人とも混乱してしまった。元来の機動性の高さに、暴走状態が上乗せされたビニーは軽業師のように縦横無人に建物から建物へ逃げ回る。ヴァ―ナはサンボを使って何とか追従できるが、アイゼはそうはいかなかったのだ。



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