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幽閉の身で死出の旅路へ  作者: 久米 藍
二章
15/52

穴のあいた絢爛豪華

一つの建物の前に止まる。傷一つなく、新築と見まごうほどでありながら、外観はほかの家と比べて質素だ。実際新築だったのかもしれないが、どの建物も遺跡と呼べるほどの年月が経過していると思えば、新築など存在しないのだが。


「本当に少し前まで人が住んでたみたいに見えるな」


アイゼがそう云うと、ヴァ―ナは窓から屋内を覗く。


「ここのドームはかなり経年劣化に抗っている。かなりの技術力があったみたい」


「それにしては、建物はなんていうか、古い? 違うな……何が違うんだろ」


「木で組み立ててある」ヴァ―ナは軒を支える柱に指を添わせる。


「木。それはまた、古風だな」


「家の中もとても綺麗」


吐息を吐いてヴァ―ナは云う。


「外観と似たような感じか」


「絢爛というより、温かみがある。技術力が進んだ国では、古代の技法を尊んだりもする」


「そういう意味じゃ、俺の住んでいた国はそこまで技術革新が起きてなかったのかな」


「あくまでそういう指標もあるという話」


ヴァ―ナは咎めるようにそう云うと、戻ってくる。道は入り組んではいるが、表通りから外れなければ、真っすぐ前へ進むことができた。商店にしても行政機関らしき建築物にしても、住居の豪華絢爛、アイゼから見れば過剰に思える装飾で一色だ。

石橋を渡れば水のせせらぎが聞こえ、公園を歩けば動物たちの足音が響く。しかし、途中からただ一点、豪華とは程遠い要素が家屋に付けたされる。


「なあ、田舎者の流行知らずならいいんだけど、建物を穴だらけにするのが最先端の装飾だったりするのか。それとも、さっきの話にあった古代趣味?」


アイゼは辺りの建物を訝しむ。先の住居群を抜けてから、辺りの建物どれもに穴が開いていた。決して大きいものではなく、何かが突き通ったような狭い隙間だ。それこそ,銃痕のような。


「今まで、そういったところは見たことが無い。でも、ドームで雨風の影響を受けないから、全くそういった文化が興らない、とは云えない?」


ヴァ―ナは困ったように答える。そんなものは存在しないと、断言しないところにヴァ―ナの旅をしてきた日々の長さを感じる。とはいえ、これだけ意匠にこだわる国が、辺り一帯の前衛的な穴を受け入れるとは考えにくい。


「じゃあ、やっぱりそうだよな?」


「うん」ヴァ―ナは言葉だけで肯定する。「ネイゴは狙撃手だった」


鋭い風が顔に掛かった。怖気を覚える感覚に従うまま、姿勢を低くし、四つん這いになり頭を地面に擦りつけるほど近づけた。ヴァ―ナは元の姿勢のままだった。弾丸が一直線に彼女に向かっていくのを視界に捉える。もちろん、それ以上のことはできないが、己が弾丸を目で追えていることに動揺した。この身体の恩恵ということだろう。

ヴァ―ナは片足を引いて半身になり余裕をもって躱す。胸を掠めてゆく凶弾だったものをジトと眺めている。弾丸はちょうど彼女の真後ろに鎮座していたサンボに直撃する。弾は跳弾し一つの民家に飛び込んだ。


「アイゼ」数舜前に狙撃された者とは思えない口ぶりで、ヴァ―ナは呼びかけた。それがアイゼの意識を現状に戻してくれる。


「悪い。ボーっとした」


もう行動を開始しているヴァ―ナの後ろに着くようにして、一番手近な民家に前転のように飛び込む。その間に第二射は飛んでこなかった。

屋内は外観ほど派手さはなく、一般的なもので構成してある。顔の半分が吹き飛び、耳が一つピンと立った恐らく動物の人形。キッチンに並んだビンは全て割れている。


「射撃位置は確認できた。国の中心部の時計塔。これから予定通り、建物を経由しながら近づいていく」


「……了解」


ヴァ―ナは的確に情報を与えてくれ、アイゼはただ頷く。

狙撃手であることは割れていたので、狙撃を二人で常に警戒していた。それでも、アイゼには事が起きてから避けることに精いっぱいで、敵の位置把握など意識が及ばなかった。雲泥の差だ。わかっていたことだが、ここまで役に立たないと、いたたまれなくなった。

落ち込む心を無理やり奮い立たせる。ここで気落ちなどしたら、それこそ足を引っ張る。発破を掛ける意味合いも込めて、ハリバンを構え勢いよく立ち上がった。


 まぶしい。


陽射しが顔を照らす。

光は小さな穴から差していた。幅が十センチにも満たないほど穴だ。屋内からだと、家に空いた穴の位置が良くわかる。

この一軒だけをとっても十数の穴があることを、差し込む光が表している。そして、光は全て同じ方向から差し込んでいた。狙撃が飛んできた向きだ。


 まずい。これって。


光を嫌うような動作でその場を離れると、狙撃が来た。それは家に空いた穴から寸分の狂いなく飛び込んできて、ほんの少し前にいた場所の床が抉れる。


「あり得るかよ。こんなこと」過剰に避けたせいで、体勢を崩して床に転がってしまう。


無様に転がりついた先も、光が床を照らしており、肩に一瞬光が当たる。予想通り弾が肩口吸い込まれるように向かってきた。流石に、今度は最小限の動きで避けるよう意識する。銃弾は肩に肉薄してから、床を穿った。体制が崩れ、背中を打ち付けそうになる。その先にも光があり、このままでは第三射がお見舞いされる。全力で身体を捻った。


「そのまま」


ヴァ―ナがアイゼの肩を掴んで静止させる。

かなり長い間、壊れたように固まる。冷や汗でも掻きたい気分になるが、汗腺は無い。


「……………やっと止んだか?」


「起き上がる時は慎重に」


「ありがとう」と礼を云うと、ヴァ―ナは頷いた。また助けられてしまった。


床にめり込んだものを確認すると、ただの銃弾ではなかった。銀の糸が絡みついている。


「これって、一緒だよな?」


「私が纏うものと同じ」


ヴァ―ナはサンボの鎖を鳴らす。

つまり、通常では考えられないほどの威力を有しているはずだ。

ヴァ―ナやミナが武器に纏わせていたように『ネイゴ』という男は銃弾に銀糸を纏わせる。


「やっぱり、避けて正解だったってことだな。この身体を過信しなくて良かった」


余裕を演じるために吐いた台詞だった。身体がこわばり指が上手く動かせない。引き金に指を掛けるのを躊躇ってしまう。これ以上ヴァ―ナに負担を掛けられない。


「……強くなっている。流石ネイゴ」


「優秀なのが困るんだけどな」


どこか嬉しそうに云うヴァ―ナに、苦笑いを零す。もちろん顔は変わっていない。


「仕切り直し、建物を経由してターゲットを目指す」


ヴァ―ナの槌が振り下ろされた先の壁は、紙のようにたやすく潰れて通り道になった。


「できる限り姿勢を低く」短く云ってヴァ―ナは行動を開始する。


建物から建物への移動が一番危険なはずだと、一層気を引き締める。こんなところで死ぬのはごめんだ。

ハンマーの届く位置まで近づくために、行動を開始する。


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