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幽閉の身で死出の旅路へ  作者: 久米 藍
二章
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ドームの意義

 ドームの巨大さに騙されたようで、二人は入り口にたどり着くだけでもかなり時間を労した。入り口はドームの素材と変わらないと見える門構えがあり、花びらを模して華美だ。その華美な門にヴァ―ナは大穴が空け、通る。


「この穴。少しずつ修復されていないか?」


 アイゼが穴を観察しながら尋ねる。ヴァ―ナは二枚目の門に穴をあけるところだった。


「ドームは自動修復するものが殆ど。だから私から離れると、ドームを破壊する手段を持たないアイゼは閉じ込められる可能性がある」


「……君からは絶対に離れないよ」


 門は計五枚重ねられていた。かなり厳重な作りだ。アイゼは塞がったドームに触れる。


「やっぱりこれだけの厳戒態勢じゃないと、死の霧ってものの阻止はできなかったのか?」


 ドームが作られるきっかけとなったのは「死の霧」と呼ばれる、いわゆる毒が世界中に蔓延し、それを回避するためにドームと云う技術が世界中で共有されたらしい。もちろん国ごとの技術力、天候や風土によって細かい違いはあるようだ。その中には強度も含まれる。


「原則、ドームの壁が一枚あれば防ぐことはできるはず。死の霧も少量ならドーム内に侵入しても内部の空気清浄が働いて問題ない。この国がこれほど厳重なのは、死の霧を回避するための保険という側面もあるはずだけど、一番危惧していたのは、他国からの侵略だと思う」


 かつて兵士だったヴァ―ナは気まりが悪そうに云って、背中にハンマーに触れた。


「当時のよくあることとして、ほんの少しの領土しかドームで覆えなかった国は、他国からの援助を求めることは珍しいことじゃなかった。最初こそは協力し合っていたけど、助ける方も余裕があるわけじゃない。資源を届けるための移動手段も開発しなくちゃいけないから。近隣国が不仲なら最悪、資源を奪ってでも生き残ろうとする。だけど、攻め入るためにドームを破壊したら最後、大きな穴をあける必要がある。そうなったら、もし戦争に勝ったとしても、人材も資源も死の霧に破壊されつくしているから、なんの戦果も得られない。攻めた方も力を使い切って、どちらも滅ぶ。これが基本だった。私の国、ユズウリ帝国も例に漏れない」


 最も、内部の資源を少しずつ食いつぶして最後は死んでいくのは変わらない。とヴァ―ナは付け加えた。


「世界は死の霧をドームで回避したことはいいけど、その時点で詰んでいたってことか」


 ヴァ―ナは「その認識で間違ってはいない」と云った。


俺の故郷はどうして滅んだのだろう。攻められたのか、ゆっくりと衰退していったのか、どうせなら後者がいい。確かめる気も術もないが。

通り抜けた先には一本道が伸びている。路を挟むようにして広大な花畑が広がっていた。床材は焦げた色のブロックが敷き詰められ、歩き出せば扉をノックしたような音が、つま先から広がる。道幅は狭いが、その分往来を挟んでいる花畑が広大で、何処からか吹く風に多種な花びらを散らしていた。


「綺麗だな。花びらが顔面に張り付くのは鬱陶しいけど」


「むしろ快適そうに見えるけど、こっちは眼に入って鬱陶しい」


 そう云いながらもヴァ―ナはどこか嬉しそうで、アイゼも同感だった。綺麗だと思えたことが妙に嬉しかった。あえてゆっくり歩きながら、景色を眺める。砂漠とはまた違った、華やかな美しさに見入ってしまう。

 花の道を抜けると先は居住区らしく、これまた華々しい様相の一軒家が不一定間隔で並び、軒を連ねている。美しいといえば美しい。遠目には周りの建物からひと際、背が高い時計塔も見えた。


「花畑は本当にきれいだったけど、建物は少しごちゃごちゃしてるな」


「そう? 私は綺麗で住みたいと思う」


 ヴァ―ナの少し弾んだ声に、いまいち納得できない気持ちで一軒家のデザインを眺める。角という角は渦巻き状に丸められており、外壁には余すところなく装飾が施され、本来無地であったろう部分を浸食している。ここまでの徹底ぶりはすごい。隣の家屋にも目をやると、違和感を覚えた。


「ヴァ―ナ。あの建物少しおかしくないか?」


 一つの建物の前に止まる。

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