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幽閉の身で死出の旅路へ  作者: 久米 藍
二章
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生身の頃の鎖

 第二章

 ユズウリ帝国は大国だった。死の霧が蔓延する以前から高い国力を有しており、ひいては軍事力、陸軍国と云われるに相応しいものだった。陸軍歩兵隊に属するヴァ―ナの階級は少尉であり小隊長だった。三十六名からなる小隊を引き連れ、中隊から離れて行われた作戦行動中に敵兵器の奇襲を受け、全隊員は全滅。その際、敵軍の手による精神汚染攻撃を受けたと思われる。

 帝国は滅んでしまったらしい。軍事大国とはいっても、それは霧が蔓延してからは枷にもなった。帝国は内政の安寧より奪略を優先した。戦争で成り上がった意地があったのだ。戦闘はオートマタが担うとしても、ドームの外を移動できるオートマタを生産するにも莫大なコストがかかるため、資源も人材も多くを投入する羽目になり、国民には満足に食料すら行き渡らなかった。たとえ戦争に負けなかったとしても、いずれは内部から自壊しただろうというのが、ヴァ―ナの見解だ。

ヴァ―ナは部下だった三十六名、いや、その場で破壊した一体を除外し、三十五名を根絶するために旅を始めた。彼らを総じて『暴走体』と呼称している。いままでで計十二体の暴走体を破壊しているらしい。

 これまでの旅路で訊きだせた彼女のことだ。









「ああ、もう、なんで……おかしいだろ……景色変わんないなぁ」


 アイゼはヴァ―ナに聞こえないようにぶつぶつ呟く。

ずっと景色が変わらない砂漠の中を、目的地に向け二人で歩いている。距離感がつかめなくなる同じ色の砂山が鎮座し、山の天辺から滑り落ちてくる砂に神経を逆なでされながらも、山を越えると、写したように同じ砂山が現れる。砂粒がバイザーに当たり、鬱陶しい音が聞こえた。

ドームの外に出てから、半年が過ぎようとしていた。アイゼに時計のような機能も、星を見る技能もないが、ヴァ―ナの体内には寸分たがわぬ暦があるらしく、彼女の言葉を信じるなら、それだけの期間が過ぎたことになる。


「はあ、あ、はあ、はあー、ぐっ、」


 呼吸などしていないが、そう口に出してしまう。筋肉が疲労などしないが、足が震えてくる。砂が足を取り、歩きづらくて叫びたくなる。細かい流砂を蹴り上げたくなるが、もう何度も怒りに任せて蹴り飛ばし、存在しない「体力」を無駄に消耗しただけだったので、敢行しない。


「……」


 無言でアイゼの前を歩くヴァ―ナの足取りは、決して緩まない。小走りすることもなければ、立ち止まることも無い。常に一定のリズムで歩く。彼女が連れまわしている円柱型の機械「サンボ」という名称のそれは、砂の上を引きずられ続け、新雪のように平らな砂に一本の線を引いている。

 アイゼは彼女が手にしている物を見遣る。


「それ、そんなに面白い?」


「なかなか興味深い。貴方の故郷の文化はかなり異質。フルメタル・ガンズなんて遊戯が親しまれているほど資源も心も余裕があった国なんて、殆どなかったはず」


ヴァ―ナは雑誌から目を離さずに答えた。アイゼの故郷から状態の良い雑誌の山が保管されている場所を見つけたらしく、道中は暇さえあれば目を通している。文字は読めないが写真を見ているだけでも楽しいらしい。たまにアイゼが音読してやったりもしている。

「アイゼが載ってる」とヴァ―ナが雑誌に掲載されている写真を見せてくる。いちいち見せなくても良い。

 アイゼは彼女の背中に縋りつく勢いを持って、何とか機甲オートマタのペースに付いていった。


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