彼は考え疲れた
ドームの表面には、発着場が存在した。この先に国を覆うドームがある。発着場は広々としており、配置されていたであろう乗り物は一台も無い。 アイゼは通路を歩きながら、先行するヴァ―ナに尋ねる。
「君は俺たちを「幽閉体」と呼ぶけど、いったいどんな存在なんだ? 今までの口ぶりから察するに、俺たち以外にも存在しているようだけど」
「技術の喪失によって、その身を機械の中に閉じ込められた人類の総称。貴方の身体のよう人体を模した機械を作れるほどの技術を有していた国には、たまにいる。幽閉体。この名前も、あなたのような人たちによってつけられた」
「その人たちは?」
「私が殺した」
ヴァ―ナは歩みを止めずに淡々と云う。いったいどれほど生きてきたんだろう。
立ち振る舞いからは読み取れない。気にはなるが、それは訊いてよいことなのか、判断に迷う。もし自分が彼女と同じ立場だったら、あまり聞いてほしくないかもしれない。理由は明瞭に表せないが。
「君……あーえっと、ヴァ―ナ? は俺たちとは違うのか?」
「私は機甲オートマタ。頭からつま先まで機械」
アンドロイドと違うのか? それとも名称が違うだけで、同じような存在なのかもしれない。アイゼの身体は流線形と呼べそうなフォルムに対し、ヴァ―ナは身体中に歯車などの機構がせり出しており、ポンチョの上からでもそれがわかる。
「その言い方だと、俺も該当しそうだな。頭からつま先まで機械だし」
「私とあなたのどこが違う?」
ヴァ―ナは不思議そうに問い返す。特に深く考えていない発言だったため、云いながら考える。
「違うというか、自我があるか、無いか、みたいな差があるんじゃないのか? こういう場合」
「あなたと話している私は、自我に該当すると思う」
「だから、それはヴァ―ナに元から埋め込まれているもので、自我とは違うものじゃないのか?」
云いきってから、失礼だったかもしれないと焦った。
「あなた達人間だって、初めから埋め込まれているものだらけ。何が違う?」
ヴァ―ナは当然とばかりに云う。少なからず、アイゼは驚いていた。ヴァ―ナは自らが有する自意識を、当たり前のものとして捉えている。
「あ、掃除の」
通行人を押しのけそうな勢いで、掃除ロボットが向かってきた。最初に見た機体とは別のようだ。二人は端に避ける。俺の国はそうじゃなかった気がするんだよな。
機械と云えば、あんな感じの存在だ。自我なんて備えることはあり得ない存在だったはず。だが、隣を歩くオートマタの存在を、ただの機械と切り捨てることが出来ないことも事実だった。人の形をしているから?ならば、エレベェタガールのロボットだって同じだろう。いや、足が一本ではあったが。振り返り、遠くに消えていく掃除ロボットを視界に捉える。もしかしたら対話する手段がないだけで、彼にも自我、意志、それに類するものがあるのかもしれない。ありふれた思索にふけっていると、ヴァ―ナが横目でこちらを窺っていた。
「気を悪くしたなら謝る」
「いや、気にしてないよ。自分の視野の狭さを憂いていただけ」
詮無いことを考えた。そもそも、人間が碌に存在しない世界でヴァ―ナの立ち位置を知る必要はない。アンドロイドを運用する側が、もう存在しないのだ。
「そういえば、条件の話だけど」
「不満なら受け付けない。条件は絶対」
気を取り直して訊いたことを、ヴァ―ナは突っぱねる。そこに異論を唱えるつもりはない。ただ理由が気になった。
『ヴァ―ナの『仲間殺し』が終了した時、アイゼはヴァ―ナの手によって殺されなければならない』
「文句じゃないんだ。ただ、俺もミナと同じ『暴走体』って云われても、いまいち納得できないというか、ほら、俺は意識あるし」
ミナはどう見ても自意識と云ったものが消失しているように見て取れた。いや、少し情緒の変化らしきものもあったようなので、完璧に無いわけではないのか。
「戦闘時の負傷でウイルスが少量混ざってしまったみたい。私の目的はウイルスの根絶であり、アイゼも今は大丈夫でも今後はどういった影響があるか分からない。だから私のそばに置いておきたいってこともある」
ヴァ―ナはの説明はあまりにも淡々としていて、どうしても実感が湧きにくいが、この約束を違えたら、被害を被るのは自分だとは理解できた。そして言葉にできないが、死ねる保証があるというのは、魅力的に映ってしまった。
「そういえば、どうして俺は意識を取り戻したんだろう」
ヴァ―ナに声を掛けられた程度で意識が戻るはずなら、とうの昔に戻っていても良い気がする。
「飽きたんだと思う、考えることに」
ヴァ―ナが簡単に答えた。
そうなんだろうな。
不思議と腑に落ちた。
ここまで読んでいただき本当にありがとうございます。
この地点で物語の三分の一が終わったところです。実はもうこの作品は完成しており、未完で終わるということは決してありません。完結するまで毎日投稿します。気に入っていただけたなら、二人の旅を最後まで見届けてもらえたら幸いです。




