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最終日

 とうとう、見習いの最終日がきてしまった。お滝様からは、あれ以降何も聞けないままだった。何となく、お滝様も私には近づかないようにされている気がする。今日が終わってしまえばもうお三方にもお会いすることもないのだろうと思うと、少し寂しいような気もした。


 最後の朝の総触れに向かう準備をしているときに、おりんさんと今までを振り返った。


 「お里様、長いようであっという間だったような気がします」


 「はい。私も、初めは緊張していましたが上様がお夕の方様として会いにきてくださったおかげで、気を張らず過ごすことができました。そして、おりんさんがずっと近くで見守っていてくださったことが何よりの心の支えでした」 私はそう言っておりんさんを見た。そして頭を下げた。


 「本当にありがとうございました」


 「お里様・・・そのように言って頂けて私は嬉しいです。ですが、これからも私たちは一緒ですよ。同じ時間を過ごすことは短くなるかもしれませんが、何かあったらいつでもかけつけますからね」 少し涙ぐんだ目でおりんさんは私に微笑んでくれた。


 「はい。ありがとうございます」 私も少し涙がにじんだ。


 「上様に怒られても、私たちは友ですからね」 ニコッと笑われた。


 「はい・・・友ですね」 私も笑い返した。


 「それでは、まいりましょうか」 そう言われたので、私は黙って頷いた。


 御鈴廊下まで行くと、お三方に出会った。だけど、相変わらずお滝様は私の方を見ようともされなかった。お雪様は私の方へ近づいて来られた。


 「お里様、御中臈気分は充分に味わうことが出来ましたか? 明日からまた御膳所で頑張ってくださいね」


 「はい。短い間でしたが、ありがとうございました」 私は、頭を下げてお礼を言った。


 「お里様は最後まで、そんなかんじなのですね。いつ私たちに反撃されるか楽しみにしていましたのに・・・」 お敦様が微笑みながら言われた。


 どういう意味か考えている間に時間がきたようだった。私たちは、いつもの場所に座った。襖が開き、いつものような足取りで上様が廊下へ入ってこられた。私は、この2週間見てきた上様の足下を同じように見つめた。私の前を通り過ぎようとされた時、一瞬上様の足が止まった。私はドキッとしたが、すぐにまた歩を進められた。

 それぞれがお広座敷に並び、いつものようにお清様が挨拶をされた。その後に


 「本日で見習いの4人は、期間を終了致します」 と付け加えられた。


 「ご苦労であった」と、上様が抑揚なくおっしゃった。私たちは、頭を下げた。頭を上げた時に、上様の優しい微笑みが目に入った。


 (本当にこれで終了なんだわ)


 私は改めて思っていた。


 「私からは他に何もない。以上」 そうおっしゃって、上様がお部屋を出て行かれた。いつもなら、御台所様も続いてお部屋を出て行かれるのだけれど、今日は御台所様がそのまま座られていた。すると、御台所様の横に付いておられる侍女の方が話し始められた。


 「この後、お敦様、お里様は残られますように。御台所様よりお話がございます。あとのお方は、お部屋へお戻りください」 すると、お雪様とお滝様がキッと私の方を見られた。お敦様は我関せずといったかんじだった。あとの方は、いつものようにバラバラに解散されるのではなく、御台所様に一礼してからお部屋を出て行かれた。私は、頭の中で色々なことがグルグルとしていた。


 お滝様が私の前を通られるときに「きっと、あなたはお役に立てないと言われるのよ。もしかしたら、お暇を言い渡されるのかもしれないわ。あなたみたいな人が・・・そうとしか思えない」 と吐き捨てるように言われた。私は、そんなことは気にもならなかった。この先のことを考えると不安と緊張でいっぱいになった。


 (どうして私が呼び出されるのかしら。何か粗相をしたのかしら・・・御台所様にご迷惑をおかけするようなことは、この2週間していないと思うんだけど。やっぱり、上様のことよね・・・私がお近くにいることをご存知で、今後近づかないように言われるのかしら。もし、そう言われたらそれを拒否することはできない・・・そうなれば、もう2度と上様のお傍にいることはできない。どうしたらいいのかしら・・・)


 私は泣きそうになりながら考えていた。気が付くと、皆さんお座敷を出て行かれていた。おりんさんが、私の後ろに座られ軽く背中をさすってくれた。私はおりんさんの方を振り向いてから、目を合わせて頷いた。おりんさんも少し緊張されているようだった。いつもは、ご側室はじめ沢山の女中達でいっぱいの広座敷が、いまは御台所様のまわりに私たちだけだった。とても広く感じるこの空間に沈黙が流れていた。


ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

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