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膝枕

 そこへ、菊之助様が来られたがまだ膝枕をしたところだったので、上様はそのままで迎えられた。


 「上様、そのようなことをしてはお里殿にご負担がかかります。怪我をされているのでございますよ」 菊之助様は咎められた。


 「私の怪我は背中だけですので、大丈夫でございます」 私は菊之助様に笑いながら言った。上様は、そんなことはおかまいなしにニコニコされていた。菊之助様はいつもの呆れ顔で横へ座られた。


 「お里殿? 具合はいかがでございますか?」


 「はい。昨日の夜は少し痛みましたが、本日は幾分良くなったように思います」 と、話していたところへ今度はお清様が入って来られた。それでも、上様は起き上がられる様子がなかったので、私は仕方なしにそのままお迎えすることになった。


 「まあっ 上様、少しは恥じらいを持ってくださいまし」 と、お清様も呆れ顔です。すると、菊之助様がおっしゃった。


 「お清殿もこれに慣れて頂かねばなりませぬな。上様は、この体勢になられると動きたがられなくなるのでございます」 と笑いながらおっしゃった。


 「私は慣れるまでに時間がかかりそうでございます。私の方が恥ずかしくなってまいります」 とお清様が困ったようにおっしゃった。


 「で、このままで聞くが二人そろってどうした?」 と上様が当たり前のように聞かれた。


 「はい。お里には、このまま見習いを終了させようかと思っております。残り期間もあとわずかでございますので」 とお清様がおっしゃった。


 「そうか」 と、上様がおっしゃった。私が、何か言いたそうにしているのに気付かれたのか「お里はどうしたいのだ? それでいいのか?」 と聞いてくださった。


 「はい。私のキズは幸いこうやって座っていれば、痛むこともほとんどありません。2日程だけお休みを頂ければ、見習いに戻って最後まで期間を終えたいと思っております」 


 「側室の生活も大体わかったことでしょうし、無理をされなくてもよいのですよ」 と菊之助様がおっしゃった。横で、お清様も頷かれていた。


 「このまま終わってしまうのは・・・」私はまたわがままを言っているかもしれないと、途中で話を止めた。


 「菊之助、お清、お里の言うようにしてやってくれ。2日休みを取った後、どうしても無理そうであれば私が判断する」 上様は起き上がってからそう言ってくださった。


 「承知しました」 菊之助様とお清様は同時にそう言われ、頭を下げられた。


 「よろしくお願い致します」 と私も頭を下げてお礼を言った。


 「ところでお里、本当に座っていれば痛みはとれてきたのかい?」 とお清様が聞かれた。


 「はい。私は傷の具合が見えないので何ともわからないのですが、痛みの方はだいぶとれてまいりました」 と答えた。すると、上様が隣から付け加えられた。


 「先ほど、包帯を変えたときには腫れも少し引いておったし、安心していたところだ」 とおっしゃった。菊之助様とお清様が顔を見合わせられた。そして、お清様が不思議そうに聞かれた。


 「包帯の交換のときに、傷を見られたのですか?」


 「ああ そうだ。私が交換したのだからな」 と上様がおっしゃったので、お清様は私の方を見られた。


 「はい。上様に軟膏を塗り直して頂き、包帯を変えて頂きました」 と申し訳なさそうに言った。


 「とても上手に出来てなあ。私も匙になれるのではないかと思っていたところだ」 とその場の雰囲気などおかまいなしに、上機嫌でおっしゃった。


 「はあっ・・・ やはり、私は慣れませぬ・・・失礼いたします。お里、また様子を見にまいります。上様のおられないときに・・・」 と大きなため息をついておっしゃってからお部屋を出て行かれた。その様子を、菊之助様と私は苦笑いで見送った。


 「上様が包帯を変えられるとは、私もさすがに驚きました」 3人になると菊之助様がおっしゃった。


 「お里のことは出来るだけ私がしてやりたいのだ」 上様はまだ上機嫌のままだった。


 「上様? でも、お清様もさすがにやりすぎだと思われているようですし・・・やはり明日からは・・・」 と言おうとすると、こちらを向いてニコリと笑われ「ダメだ」と一言おっしゃった。


 (これはあきらめるしかないわね)


 というわけで、次の日も上様に包帯を変えて頂くこととなった。


ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

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