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気がかり

 背中さえ、触らなければ座ることも出来たので、お常さんが運んで来てくれた夕食も上様と一緒に食べることができた。おりんさんは食事をする私たちのお世話をしてくれた。


 「おりんさんは私がこちらで寝泊まりをしている間はどうされるのですか?」 私は聞いた。


 「はい。上様がお泊まり頂ける日は、私は自分の部屋で休ませて頂きます。上様がお泊まりになられない日は、お里様と一緒にこのお部屋で寝させて頂きます」


 「そうですか。よろしくお願いします」 


 「上様、お里様、私はこれで下がらせて頂きます」 そう言って、頭を下げられた。


 「ああ おりん、ご苦労であったな。ゆっくり休むがいい」 上様がそうおっしゃった。


 一礼をして、おりんさんが部屋から出られるとすぐに、菊之助様もまた明日の朝に来ると言ってお部屋を出て行かれた。上様と二人きりになったので、私は聞いてみることにした。


 「上様、おりんさんが元気がないようで心配でございます。菊之助様とも気まずいようなかんじでございますし・・・」


 「ああ そうだな。でも、大丈夫だ。おりんのことは菊之助にまかせておけばよい。お里は何も気にすることはないぞ」 と上様は明るくおっしゃった。


 (菊之助様に任せておいたら、ますます落ち込まれるのではないかしら。昼間あんなに大きな声で叱っておられたのだから・・・おりんさんも、さっきは菊之助様の方を見ようともされなかったようでしたし・・・)


 やはり考えれば考えるほど不安になってしまった。


 その夜は、背中がジンジンと熱くなかなか寝られなかった。上様にそのことを言うと、お常さんが様子を見にきてくれた時に氷と手ぬぐいを用意するよう言ってくださった。冷やした手ぬぐいを刺激しない程の優しさで包帯の上から当ててくださった。でも、寝返りをうとうとすると背中に着物がすれて痛みが走る・・・疲れ切って寝てしまっても、うなされてすぐに目が覚めるということを繰り返していた。


 「お里、痛むのか? 大丈夫か?」 上様は心配そうに、私が目を覚ますたびに顔を覗きこまれた。


 「申し訳ございません。このままでは、上様がお眠りになれませんね」 私がいつうなされて目を覚ますか心配そうにされている上様が寝られないのではと心配になった。


 「私は大丈夫だ。どうしてやることも出来ず・・・すまないな」 上様が申し訳なさそうにおっしゃった。


 「上様がお近くにいてくださるだけで嬉しいです」 私はいつ目を覚ましても目の前にいてくださることに幸せを感じた。


 「そうか、寝られそうなら寝るがいい。もしどうしても、目がさえてしまったなら二人で話でもしようか」


 「上様? こうして一緒にいて頂いているだけで、痛みも和らぎます」


 「そうか、だったらよかった」 そう言いながら、上様は何度もキスをされた。本当にそうしていると痛みを忘れることができた。


 次の日、包帯を変えようと上様が言ってくださった。私は、そんなことをしていただくことへの申し訳なさと恥ずかしさでいっぱいだった。


 「上様? やはり、おりんさんかお常さんにお願いしてもよろしいですか?」 少し頼むように上様に聞いた。

 上様はニコッと笑った後に、「ダメだ」と一言おっしゃった。おりんさんが、お匙が作って置いていってくれた軟膏と、新しい包帯とガーゼを持ってきてくれていた。私は、おりんさんに助けを求めるような顔をしてみた。


 「上様、私もお手伝いさせて頂きます」 おりんさんが言われた。上様はすぐに「いや、大丈夫だ。おりんは下がっておれ」 と言われた。その返事を聞いて、おりんさんは私にギブアップといった顔をされた。私はそのお顔を見て、諦めたのと同時におりんさんがいつもの笑顔に戻られていたことに少し安心した。


 「上様、その前にお里様のお体を拭かせてください。それが終わりましたら、お手当の方をよろしくお願いいたします」 おりんさんがそう言ってくれた。


 「・・・それも私ができるがな・・・まあいい。その間は縁側におるゆえ、終わったら知らせよ」 と言って、上様はお部屋を出て行かれた。


 「かしこまりました」 そう言っておりんさんは頭を下げられた。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

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