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痛手

 少しすると、お清様と戸板を持ったお役人様が3人こちらに急いで向かって来られた。そのうちの一人は菊之助様だった。心配そうに見られている菊之助様に笑顔を向けた。ゆっくりと戸板に乗せられる時、どうしても背中を触られたので痛くて顔が歪むほどだったけれど、あまり痛そうにしては皆さんに心配をかけてしまうので、出来るだけ我慢した。戸板の上にも何枚か敷物を敷いてくださっていたので、乗せられてしまうと痛みはおさまった。

 部屋まであげてもらうのかと思いきや、廊下を歩き出された。私は天井しか見えなかったので、どこに連れて行かれるかさっぱりわからなかった。しばらく、戸板の上での移動が続き次に襖を入って部屋に入り戸板を下ろされたところは、お夕の方様のお部屋だった。そこでは、すでに布団が敷かれお常さんが心配そうに私を覗きこまれた。


 「お常さん!」 私は、つい安心したような声を出してしまった。お常さんは、優しい目をして頷かれた。戸板から布団に降ろしてもらうときにも、激痛が走った。布団の上では、背中をつけずに横向きに寝かせてもらえたので、だいぶ楽だった。


 「ご苦労様でございました。あとはこちらでさせて頂きますので、大丈夫でございます」とお清様がお役人様におっしゃった。お役人様は、頭を下げてからまた戸板を持って廊下を歩いていかれた。菊之助様も一緒にお部屋を出て行かれた。早速、お常さんとおりんさんが打掛を脱がせてくださり、帯を緩めてくださった。何かが背中に擦れるたびに痛みを感じた。


 「もうすぐ匙がまいりますからね」 お清様がおっしゃった。


 「はい。ご迷惑をおかけして申し訳ございません」 私は口だけでお詫びを言った。


 「いえ、お里が次郎様を助けてくれなかったら、大変なことになっていました。ありがとう。どちらにしても上様が会いに来られるでしょうから、こちらの部屋の方が何かと便利でしょう? 菊之助殿と示し合わせて、こちらに運ばせてもらいましたよ」 お清様が優しいお顔で言ってくださった。


 「ありがとうございます」 


 そう話をしていると、廊下をドタドタと走る音が聞こえてきた。お清様は私をみて、ネッというお顔をされた。私もそれに苦笑いで返した。襖が開くと同時に上様が飛び込んでこられた。


 「お里!!」 畳まで走ってこられ、私の手を取り覗き込まれた。


 「上様、背中を少し打ったようですが私は大丈夫でございますよ」 私は笑顔を向けた。


 「そうか・・・」 上様は私がしっかりとしゃべれるのを確認したからか、少し落ち着かれた。お清様は、また後でまいりますと言って、お常さんとおりんさんに後を頼まれてお部屋を出て行かれた。

 すると、おりんさんが上様の前で手をつき頭を下げられた。


 「上様、お里様、申し訳ございません。私が付いていながら、このようなお怪我をさせてしまいました」半泣きになっておりんさんは言われた。


 「おりんさん、本当にやめてください。あの状況では、仕方がなかったのです。私も咄嗟に体が動いたので・・・次郎様がお怪我をされるか、私が怪我をするかしかなかったのですよ。おりんさんが、責任を感じることは何もございません」 私は、必死で言った。


 「でも・・・」 おりんさんは相当責任を感じておられる様子だった。


 「おりん、お里もこう言っておるのだ。お前がそうやって自分を責めるとお里も悲しむ。今後、より一層お里を守ってくれればそれでよい」 上様は優しくおりんさんにおっしゃった。


 「はい。ありがとうございます。今後もお里様に尽くしてまいります」 おりんさんは真剣な顔でそう言われた。


 「ああ そうしてくれ」 上様もそうおっしゃった。しばらくすると、菊之助様がお部屋に来られた。


 「お里殿、先ほどの状態を見たときは驚きました。大丈夫でございますか?」 菊之助様は心配そうに私の顔を覗きこまれた。横から上様が少し近付き過ぎだと言わんばかりに手で菊之助様の体を後ろへ押された。菊之助様はハッとしたかんじで後ろへ下がられた。


 「菊之助様、ご心配おかけしました。頭も打っていないので大丈夫でございます」 と私は苦笑いで答えた。すると、菊之助様がおりんさんの方を見られ少し声を荒げられた。


 「おりん! お前が付いていながらどうしてこのようにお里殿がお怪我をされるのだ!」 そう言われたおりんさんは、「申し訳ございません」と頭を下げられた。私は、その様子を不安そうに見ていた。それに気付かれた上様がすかさずおっしゃった。


 「菊之助! このような場で声を荒げるな! その話は先ほど済んでおる。状況を聞くと、おりんのおった場所からではどうすることも出来なかったことだ。おりんもこれまで以上にお里を守ってくれると言っておる。何より、お前がおりんを責めるとお里が心配するであろう。おりんを責めるよりも、敏次郎を助けたお里を褒めてやれ!」


 「はっ! 申し訳ございません。お里殿も、申し訳ございませんでした」 菊之助様は上様と私に頭を下げられた。


 「菊之助様、お気になさらないでください」 私はこれ以上、場の雰囲気が悪くなることが心苦しかった。すると、上様が指示を出された。


 「おりん、この後のことについてお清と相談をしてきてくれ。菊之助は、私はしばらく出来るだけここへいられるよう手配を頼む」 上様がそう言われると、お二人は頭を下げてからお部屋を出て行かれた。


ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

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