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上様が出て行かれると、お清様が私たちに向かって話をされた。
「あなたたちは側室見習いとして、この2週間過ごしてもらっていますが、上様のお手付きになられなければ側室として部屋を持ってもらうことはありません。側室になれない場合は、今まで通りの仕事場で以前の仕事をしてもらいます。見習いになったからと言って、あまり期待をしないように」 はっきりとした口調でおっしゃった。
「見習いの間にお手付きになることもございますか?」 お雪様が乗り出すように聞かれた。
「ないことはありません。今回はすぐに側室になられなくても、今後お声がかかる可能性もあります」 お清様が答えられた。
「すごい自信でございますね」 お滝様が鼻で笑うようにお雪様に言われた。お雪様は、少しムッとしてお滝様を見られた。
「お二人とも、お見苦しいですわ」 そう言って、お敦様が優雅に扇子を口に当てて笑われた。私は、誰にも同調することなくその会話を聞いていた。
「それでは、残りの時間しっかりと勉強してください」 お清様はそう言って部屋を出て行かれた。
場の雰囲気が悪いまま、私たちもそれぞれ部屋へと戻った。部屋へ戻って、おりんさんにお茶を淹れてもらうとホッとした。
「お里様はお琴もお弾きになられるのですね。驚きました。皆さんの驚く顔もおかしかったです」 おりんさんが嬉しそうに言われた。
「以前、少しだけ触ったことがある程度で弾けていたのかどうか怪しいものでした」
「上様も驚かれていたようでしたよ」
「私は、緊張をしていて演奏中は上様を拝見する余裕はありませんでした」 そう笑顔で言った。
段々と見習いの生活も慣れてきた中、やはり何もせずに過ごしていることが苦手だった。開いている襖から廊下を眺めていると、廊下を行ったり来たりしながら雑巾がけをしている女中に目がとまった。一往復するたびに、腰を叩いていた。
(雑巾がけは、本当にしんどいものね。以前の世界では・・・!!!)
私は、あることを思いついた。おりんさんに言って、長い棒と板、それから釘と金づちを用意してもらった。おりんさんは不思議そうに「これでよろしいですか? 何をされるのですか?」と言われた。
「ちょっとあることを考えまして・・・」 とニヤッと笑ってみせた。そして、棒と板をちょうどいい角度に固定し、おりんさんに手伝ってもらって釘で固定した。板の後ろに雑巾を広げてあてて、両端を布切れで巻いて板と雑巾をくっつけた。
「出来ました!」 そう言って、おりんさんに見せた。それでも、おりんさんは不思議な顔をしていた。
「これは?」 おりんさんは、考えても思いつかないようで尋ねられた。
「ちょっと廊下までよろしいですか?」 そう言って、おりんさんと廊下まで一緒に行った。「おり・・お鈴、これをこうやって廊下を掃除してみてください」 そう言って、棒を渡した。おりんさんは、立ったままで廊下の端まで雑巾がけをされた。
「まあっ! すごくラクですね。いちいち腰を屈めなくていいので、お掃除も早く済みます」そう言って、スイスイと廊下を雑巾がけされた。私は、以前棒がついたもので床掃除をしていたのを思い出して作ってみた。おりんさんの姿を見て、さっきまで廊下を掃除していた女中さんが目を丸くされていた。
「良かったら使ってください。結んであるひもをはずして、雑巾だけ洗えばまた綺麗につかえますから」 女中さんに私が言うと、おりんさんがそれを女中さんに渡してくれた。
「よろしいのですか? ありがとうございます」 女中さんは私に頭を下げてお礼を言ってくれた。
「どういたしまして。お役に立ててうれしいです」 と私も頭を下げた。そして、部屋に戻った。
「お里様はすごいですね。感動しました」 おりんさんがそう嬉しそうに言ってくれた。
「偶然思いついただけですから」 私は少し役に立てたことが嬉しかった。
(本当は私が考えたものではないけれど、この世界でも役に立つのならよかったわ。また、何かあれば考えてみようかしら)
少し余裕が出てきたのか、そんなことを考えたりしていた。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。