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演奏

 次の日も朝早くに起きて朝食を済ませ、朝の総触れに向かった。御鈴廊下に並んで座っているとき、お雪様がお敦様にお話しされているのが聞こえた。


 「広座敷に座っているときだけれど、上様の視線を感じることがありますのよ。こちらの方をみて、少し頬を緩められることがあって・・・もしかしたら、私お手付きになるかもしれないわ」


 「まあっ 気のせいじゃないかしら?」 お敦様が冷静にお返事されていた。


 (うぬぼれているわけじゃないですけど・・・上様、バレています)


 総触れが終わり、部屋へ戻るときにお清様が私たち4人を呼び止められた。


 「一旦部屋に戻ってから、もう一度ここへ集まりなさい。今日は少しあなたたちのことを知るためにお茶会でも致しましょう」


 「はい」 私たちはそれぞれに返事をして、一旦部屋へ戻った。部屋に戻ると、こういう時は一度着替えをするものなのですよとおりんさんが教えてくれた。そう言って、今の季節に合った着物に着替えさせてくれた。


 「おりんさん、お茶会って・・・」


 「はい。以前私たちと練習した通りにすれば大丈夫ですよ」


 「わかりました。ありがとうございます」 私は少しホッとした。上手くできるかはわからないけれど、とりあえずやってみようと思った。もう一度広座敷に集まった私たちは、お清様のお手前でお茶を頂いた。他の3人さんが、私が作法ができるのか、興味深く見ておられるのが伝わってきた。私は、頭の中で教わったことを思い出し、何とかやりとげることが出来た。それを見られたお滝様が、ちょっと悔しそうな顔をされた。


 (出来ないことを期待されていたのだわ)


 その時広座敷の奥の襖が開いた・・・上様が入って来られたのだった。お清様が驚かれて「上様!!」と、少し声を裏返された。私たちは急いで手を付いて頭を下げた。


 「私もたまにはと思って様子を見に来ただけだ。気にすることはない」 と、笑顔を見せずにおっしゃった。お清様は、私の顔を見て呆れたお顔をされた。私も他の方にバレないように苦笑いをするしかなかった。お雪様が急に張り切られたように、お清様に言われた。


 「お清様? お耳汚しになるでしょうが、そちらのお琴をお借りして演奏をさせて頂いてもよろしいでしょうか?」 お茶席に来たときに用意されていたお琴を見て言われた。


 (何故お琴があるのかな?とは思っていたけれど・・・)


 「こちらは、後でお琴を披露してくれるものに演奏させようと用意していたのですが・・・」と言って、上様の方を見られた。上様は無表情のまま頷かれた。それを確認してお清様がお雪様にお許しを出された。お雪様は上様に一礼して「お雪と申します。よろしくお願い致します」と挨拶された。上様はもう一度黙って頷かれた。お雪様は立ち上がって琴の前まで行かれ、綺麗な音を奏でられた。とても優雅で美しい音色に素直に感動した。演奏を終わられると、私はお声をかけた。「お雪様、素敵でございました」と言うと、お雪様は今まで見たことのない笑顔で「お里様、ありがとうございます」と言われた。

 その時、お滝様が私の方を見られて言われた。


 「お里様、側室の見習いとしてお琴くらいはたしなんでいらっしゃるでしょう? ぜひ、お里様のお琴が聞いてみたいです」 と言われた。


 (えっ? お琴ですか? じつは・・・小さい頃習っていたんです。なぜか本当にやりたいバイオリンだけはやらせてもらえなかったんですけどね。でも、ほとんど忘れていますけど・・・)


 私はお清様を見た。こういう時、お清様は黙っておられる。側室同志の言い合いなどには、関与されないことを徹底されている。上様をチラッと横目で見るとお滝様を睨んでおられた。


 (このままでは、上様が怒られるかもしれない・・・ここは出来るかわからないけれど、やってみよう)


 「わかりました。お雪様と違い、本当にお耳汚しになってしまうかもしれませんが・・・」 そう言って、席を立ちお琴の前に座った。


 (上様、心配そうなお顔がバレてしまいます。といっても、さくらさくらしか今は思い出せないわ。この曲っていつに出来た曲なのかしら・・・まあ、どうにでもなってください)


 そう思って、弾き始めた。頭の中をフル稼働し、一生懸命昔の記憶を思い出しながらなんとか弾き終わった。手を膝の上に戻し、大きく息をついた。そして、上様に向かって頭を下げた。上様は頷いてくださった。


 「お里様、初めて聞いた曲ですが、とても綺麗な音色でございましたね。ねえ、お滝様」 お敦様が言われると、お滝様は「ええ」と苦笑いをしながら言われた。そのとき、お清様が


 「上様、そろそろ中奥へお戻りにならないと・・・」 と、促された。


 (いいかげんに、部屋から出て行ってくださいということね)


 「ああ」不愛想にそう言われた上様はサッと立ち上がって、お部屋を出られた。私たちはその間、頭を下げていた。


ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

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