確認
部屋に戻ると、おぎんさんがおられた。
「あら、おぎんさんどうされたのですか?」 私は、こんな夜にどうされたのだろうと思った。
「上様がお会いになりたいと申しておられます」
「上様が・・・私はまた上様にご迷惑をおかけしてしまったようですね」
「お里様? まだまだ上様のことがおわかりになっていないようでございますね」 おぎんさんは笑って言われた。
「ほんとに」 おりんさんもそう言って笑われた。
「私は上様のお言葉を伝えて、お部屋へご案内するだけでございます。後は直接、上様とお話ください」
「わかりました」 私は、何をお話になるかわからなかったけれど、会って上様に謝らなければならないと思った。打掛を脱がせてもらい、お夕の方様のお部屋へということだったので、おぎんさんについて行った。おりんさんは、もしものときのため部屋で留守を預かってくださるということだった。
(お清様にバレたら、今度こそ怒られてしまうわ)
お夕の方様のお部屋の前に来ると、おぎんさんは私はここでと小屋の方へそのまま行かれた。
「失礼いたします」 と言って、頭を下げた。
「お里、はいれ」 中から上様のお声がした。私は襖を開けて中へ入り、上様の前に座った。久しぶりに上様の姿をお近くで見た気がした。少し沈黙が流れたので、私から話そうと思った。
「上様? 先ほどの総触れでの件ですが、私はまた上様にご迷惑をおかけしてしまいました。今までの習わしを変えるようなことを・・・申し訳ございません」 私は、頭を下げた。
「お里のために習わしを変えることなど造作もないぞ。そんなことは気にするな」
「いえ・・・でも・・・私は、上様に側室になるにあたって知らなくていいことを知ることがあると言われた上で、見習いをさせて頂くことにしました。なのに、実際その場になると・・・」
上様はとても優しい目をされたまま、黙って私を見ながら聞いてくださった。私は少し安心して続きを話した。
「気持ちがモヤモヤとして・・・一度は理解しようと思ったのです。実際に今日の朝は、こんなことではいけないと気持ちも切り替えておりました。ですが、上様にお会いして・・・また気持ちがモヤモヤしてしまいました。自分が上様を独り占めしたいという醜い気持ちが出てしまったのです。申し訳ございません」
私は正直に気持ちを言い、頭を下げた。
「お里? そちらへ行っても良いか?」 上様は優しく尋ねられた。
「はい」 そう言うと上様は私のすぐ近くに座られた。そして俯かれてから、もう一度尋ねられた。
「触れてもいいか?」
(上様は朝のことを気にされているのだわ)
「もちろんでございます」 そう言うと、上様は両手で私の手を取られた。そして、撫でられて大きくため息をつかれた。
「ああ お里に触れたかった・・・」 そう呟かれた。 「上様・・・」
「お里、正直に気持ちを話してくれて嬉しいよ。私は昨日の総触れで、私の役目を目の当たりにして嫌われてしまったのかと思っていたんだよ」 上様は私の手を見つめながら話された。
「私が上様を嫌うことなどありません」 私は上様のお顔を見て言った。
「うん それはさっきのお里の話を聞いてわかったよ。ありがとう」 そう言って、ゆっくりと抱き締められた。私も上様に手を回すと、上様は腕に力を入れられた。そして、少し力を緩められて私の顔を見つめられてから
「今はお夕じゃないからな」 と言って、キスをされた。私は久しぶりの感覚に顔が真っ赤になってしまった。
「またそうやって可愛い顔をする」 そう言ってクスッと笑われてから、おでこや頬にもやさしくキスをされた。
(こうやって私のことを大切にしてくださる上様が目の前にいるだけで、私は幸せだわ。上様を信じていれば・・・モヤモヤする必要なんてない)
「上様? もう私は大丈夫でございます。上様を信じて、また明日から頑張れます」 私は心からそう思えた。
「お里、無理はしないでくれよ。私は、お里が目の前で笑っていてくれることが幸せなんだからな」
(上様も私と同じことを思ってくださっている)
「はい。では、二人の時は思い切り甘やかしてくださいませ」 そう言った自分が急に恥ずかしくなり、また赤くなって下を向いた。
「もちろんだ」 上様は、力強く抱きしめてくださった。
「上様? 今夜は寝間へは?」 私は時間が大分経っていることに気が付いた。
「今日はもともと自分の寝所で休む予定だったのだよ」
「では、お清様のお言葉を遮らなくても良かったのでは?」
「いや、そういうことは早い方がいい。それに、みなの前で私が意見した方が、みなも納得するであろう? お清と示し合わせて習わしを変えたなどと、あとで詮索されなくていい」
「上様はすごいですね。色々なことをお考えになられて」 私は沢山のことを考えられて行動される上様を改めて尊敬した。
「私の行動力の源はお里だからな」 そう言って、笑顔を向けてくださった。
「上様、そろそろ私も戻らないとおりんさんに迷惑をかけてしまうかもしれません」
「そうだな。でも、また明日からはお夕の姿でしか近くに寄れないからもう少し・・・」 そう言って沢山キスをしてくださった。
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