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お清、対面

 お仲様が部屋へ向かわれる姿を見送ってから、おりんさんが「さあ、入りましょう」と促された。部屋に入り、上様の前に座ってから私は話始めた。


 「上様、一体どうされたのでございますか?」


 「お里に会いたくてな。この格好なら、そこらを歩いていても目立たないだろう?」


 (別の意味で目立ってしまうと思うのですが・・・)


 「本当は、お里を驚かせようと思っておったのだが、ここへ来たらお里はいなかったのでおぎんに様子を見に行かせたのだ。そしたら、だいぶ困っていたようだからちょっと画策したのだよ」 と、楽しそうに話された。


 「でも上様? 上様はお仲様とお会いされたことがあるのに、バレてしまったらどうするのですか?」 私はそのことが不安だった。


 「お仲は私の不愛想な顔しか知らないだろう。だから、とびっきりの笑顔で接してやったのだ。私のあんな笑顔は想像することもできないだろうからな」


 「はあ・・・」


 「お里それよりこちらへ来い」 そう言って、上様の横を示された。私は、ちょっと気が抜けて立ち上がる時に膝を普通に付いてしまった。


 「痛い!」 一瞬激痛が走って声を出してしまった。上様はそういうとき、すぐに気付かれる。


 「どうした?」 すぐに心配そうな顔で尋ねられた。


 「いえ、何もございません」 私は笑いながら上様の方を見た。すると、真面目な顔をされて言われた。


 「何もないことはないだろう? お里」 そう言って、ご自分が立ち上がられ私の方へ近寄られた。私は、諦めて話した。


 「御鈴廊下で立ち上がるときに、着物を踏んでしまい、膝を少し打ったのでございます」 そう言うと、上様はすぐに着物をめくって私の膝を確認された。両膝が布でグルグル巻きにされているのをみて、


 「おりん?」 と、おりんさんの方を向かれた。おりんさんは、私の方を一瞬見られてから


 「その通りでございます」 と言ってくれた。


 「そうか・・・もっと冷やしておいた方が良さそうだな」 と、上様は膝に巻いてある布を一度ほどこうとされた。


 「上様、自分で出来ますので大丈夫でございます」 そう言って、上様の手を私の膝からはずそうとした。すると上様は「お里は、大人しくしておれ」と、反対に私の手を払いよけられた。「申し訳ございません」 と、私は黙って従った。


 「おりん、冷やすものを用意せよ」 とおりんさんに指示された。その時、襖の向こうで声がした。


 「お里、入りますよ」


 (お清様だわ! この状況・・・どうしたらいいのかしら)


 返事をまだしていないのに襖が開いた。お清様は、私たちの光景をみて一瞬固まられたようだったが、お夕の方様の姿を見て目を一段と見開かれた。


 「!!! うえ・・・」そう声を出しそうになられたところで、止められて後ろにおられたお付きの方たちに部屋へ戻るように指示された。そして一人になってから部屋に入られ、襖を閉められた。


 「お里の部屋へ、お夕の方様がいらっしゃるとお仲に聞いたので様子を見にきたのです! 上様? でございますよね?」 お清様は半信半疑で確認された。上様は私の膝に触りながら、


 「ああ いかにも」 と平然とおっしゃった。


 「あの? えっと・・・」 お清様は少し頭が混乱されてきたようだった。


 「私は、お夕の方様は、上様が寵愛されている方様がいれば私たちが少し大人しくなると思って作られた架空の人物かと・・・そこでお里と出会い、ちょうど良かったので何かの時はお夕の方様を語らせているのだとばかり・・・まさか、本当に上様がお夕の方様として存在されているとは思いもしませんでした」 お清様はそこまで早口で言ったあと、大きく息をつかれた。


 「ああ お里に会うまでは、あの部屋でちゃんと着替えもしてお夕として過ごしていたのだよ」 上様は、私の膝の布を全て外された後、赤くなっている膝を撫でながらおっしゃった。


 「まあっ!」 お清様はもう一段高い声を出された。


 「お里、痛いであろう?」 上様が、心配して私に聞いてくださった。


 「いえ。赤くなっているだけで、それほど痛くありません」 私は、これ以上心配をかけたくなかったのでそう答えた。お清様は私たちの真ん中で、大きくため息をつかれた。


 「上様、私がお里には見習い期間中二人で会うのはおよしくださいと言ったとき、わかったと納得していただいたかと思っておったのですが」 少し咎めるようにお清様が言われた。


 「だから、それは了承したであろう? 私はお夕としてお里に会いに来ているのだ」 平然とおっしゃった。


 「そういうことでございましたか。どんな形であれ、お会いに来られるだろうとお里を一番隅の部屋にしておいて正解でした。まさかこんな形でとは想像もしておりませんでしたが・・・」 お清様は怒るどころか呆れておられた。私もこの状況で上様に手当をして頂いているのが心苦しかった。


ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

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