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初日

 お清様は私の方を向いて話された。


 「お里、本当は上様のお望みであればこのようなまわりくどいことをしなくても、すぐに側室になれるのですよ。でも、あなたは側室になりたくて上様のお傍にいるのではないことは承知しております」


 「はい」


 「ですから、沢山のことをこの機会に勉強してみるのもいいでしょう。辛いこともあるかもしれませんが、上様を信じて頑張ってみるといいかと思っております」 お清様はそう言って、お茶を口にされた。


 「はい。ありがとうございます」 


 「ところで上様? 一通りの着物などは、御中臈たちは持っておりますので特に用意することもございませんが、お里の場合は一から揃えねばなりません。こちらで用意致しますか?」


 (そうか・・・この格好ではさすがに無理ですものね)


 「いや、こちらで用意いたす」 上様は少し楽しそうにおっしゃった。


 (上様にお任せするより、お清様にお任せした方がいいのでは? 上様のことだから、私の為にとても高いものをご用意くださるようでこわいんですけど・・・)


 「念の為申しておきますが、お里の立場上あまり派手なものは、返ってお里の印象を悪く致します。よくお考えになってお選びくださいね」 お清様が念をおされた。


 (そういうことですよね。お清様、さすがです)


 「ああ わかった」 上様は少し残念そうに返事をされた。しばらくして、菊之助様がお部屋へ入って来られると入れ替わりにお清様は出て行かれた。


 「見習いの件でございましたか?」 菊之助様は上様に問われた。

 

 「ああ、準備が整ったから始めるそうだ。お里の着物などの準備はこちらでするように言ってあるから、菊之助準備を頼むぞ」


 「はい。承知しました」


 「菊之助様、よろしくお願い致します」 私は菊之助様に頭を下げた。


 「お里殿、いよいよでございますね。そんなにご心配されることはないと思いますよ。いざとなれば、私も裏で動きますので」 菊之助様が少し悪そうなお顔をされておっしゃった。


 「はい・・・出来るだけご迷惑をおかけしないようにしたいと思います」 私は曖昧に返事をした。


 「菊之助、侍女を一人付けるのだがおぎんかおりんの予定はいかがか?」


 (お二人のどちらかが一緒にいて頂けるなんて、なんて心強い!)


 「そちらの方は調整してみます」 菊之助様も当たり前のようにおっしゃった。


 「ああ 頼む。お里? 他に何か不安なことはないか?」 上様が、優しく私に問いかけられた。


 「はい。全て準備を整えて頂きありがとうございます」


 「お里の為だ。何でもしてやるから、遠慮なく言いなさい」 上様は微笑んでおっしゃった。


 (私の為にわざわざ沢山の人が協力してくださっている。しっかり頑張ってみよう)


 いよいよ、今日から見習いとしての日々が始まります。昨日は、2週間会えなくなるから上様は私を沢山甘やかせてくださったので、気合を入れて頑張ろうと思います。

朝一番に、お常さんのところへ挨拶に行った。


 「お常さん、本日からご側室見習いの方へ行かせて頂きます。勝手をしますが、よろしくお願いします」 そう挨拶をした。


 「お里、私は心配だけどね。いつでもここへ戻ってこられるのだから、無理だけはしてはいけないよ」 と言って、肩をさすってくれた。


 「はい。ありがとうございます」 笑顔でそう言った。すると、まわりにいる先輩たちが何人か私の傍へ寄ってきてくれた。

 

 「お里、御中臈と一緒にご側室見習いなんて、すごいじゃない」

 「もし、御膳所からご側室になんてめったにないことだから、頑張ってくるんだよ」

 「お里様と呼ぶ日がくるかもね」

 「今度は、お夕の方様に恥をかかせないようにしないとね」 皆さん、口々に励まして?くれた。私は、少し嬉しくもあり勇気をもらえた気がした。


 「みなさん、ありがとうございます」 そう言って、頭を下げた。お常さんが小声で「もうお里様だけどね」と言って、クスッと笑われた。私も一緒に少し声を抑えて笑った。

 御膳所を出て、奥内へ入っていく扉の所で女中さんが立っていた。


 「お里様、おはようございます」


 「おりんさん!おはようございます。これから、2週間よろしくお願い致します」


 「こちらこそ、よろしくお願いいたします。では、参りましょうか?」 そう言って、扉を開け、廊下を進んだ。


 (何回か通った廊下だけど、今回は一段と緊張するわ)


ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

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