助言
上様は私から話すまで待っていてくださるおつもりなのか、次の日もその次の日も側室見習いの件には触れられなかった。
3日後くらいに、いつものように上様のお部屋へ行くと、お清様と菊之助様のお二人がおられた。
「菊之助様、お清様、おはようございます」
「お里殿、おはようございます。入ってください」 菊之助様がおっしゃったので
「失礼いたします」 と、中へ入りお膳を横に置いて座った。
「上様は後でまいられますので、その時に食事の準備を」 と菊之助様がおっしゃった。
「お里。今日は、私は上様のお許しを得てこちらに来ております」 と少し笑いながらお清様がおっしゃった。
「はい」 私も少し微笑んで返事をした。すると、お清様が話始められた。
「お里。上様から、あなたが側室になるかどうか迷っていると聞きました」
「はい」
「私にとっては、嬉しいことです。ご寵愛されている方が側室になられる・・・それが、大奥にとってもあるべき姿だからです。ですが、現在の大奥は側室の数は多いですが、みな子供を産むためだけに集められたと言っても過言ではありません。残念ながら、上様もそのお一人です」
「はい。存じているつもりです」 お清様は私の顔を見て頷かれた。そして、続けられた。
「あなたが迷っていること、それを上様がご心配されていることも聞きました」
「ありがたく、お時間を頂戴し考えているのですが・・・なかなか決められず申し訳ございません」
「お里? あなたが側室になったとしても、上様がやるべきことは変わりませんよ」
「はい。承知しております」
「ならば、あなたの気持ち次第ではありませんか?」
「・・・・」
(私は今まで、上様にお会いできないときは次お会いしたときに、上様が心を休められるようにしたいことなどを考えていたわ。今後もそれでいいということかしら)
「お里殿? 上様もおっしゃったと思いますが、無理をする必要はございません。ただ、上様があなたを大事にされていて、これからも大事にされることは、あなたが御膳所勤めでも側室になられても変わりません。上様を信じて差し上げてもよろしいのではないですか?」 それまで黙って話を聞かれていた菊之助様がおっしゃった。
「はい。ありがとうございます」
「もう一度、上様とお話をしてあなたの気持ちを正直に言いなさい」 お清様がおっしゃった。
「わかりました」 そう言って、私はお二人に頭を下げた。お二人が部屋から出られると、上様がお部屋に来られた。
「上様、おはようございます」 私は頭を下げた。
「お里、お清が話をしたいと言いおってなあ。私は席を外すようにと言われてその通りにしたが、気分を悪くしてはいないか?」 上様は私の方を心配そうに見ながらおっしゃった。
「ご心配頂いて、ありがとうございます。私は大丈夫でございます。それより、お腹がすかれたことでしょう? 先にお食事の準備をしましょう」 私は笑顔で上様に言った。上様はホッとされた様子で、「そうだな」とおっしゃった。
食事が済み、お茶をお出しして私は上様の向かいに姿勢を正して座った。
「上様? お話をさせて頂いてよろしいですか?」
「ああ」 上様は、少し緊張をされた顔をした。
「私は、ご側室の見習いの件お受けさせて頂こうと思います。自分が上様に望まれるだけでご側室になってもいいのかどうか、自分の目で確かめてみたいと思います」
「そうか・・・わかった」 上様は、納得されたような、どこか不安なような顔をされた。
「上様? 上様が私にいつも言ってくださるように、私もどのような立場になっても上様に対する気持ちは変わりません。ただ、私がご側室になることで、上様のご迷惑になることだけは避けたいのです。だから、それを確かめてみたいのです」
「お里・・・わかった。でも、もし辛いときや悲しくなってしまった時は、必ず私に言ってくれよ」
「はい。ありがとうございます」 私は、頭を下げた。
「お里、こちらへおいで」 上様は、優しく呼び寄せてくださった。「はい」と言って、私も上様の隣へ移動した。
「まあ、お清たちも今から人選をすると言っていたから、すぐのことではない。その時までに心変わりをしたならいつでも言うがよい」 そう言いながら、抱き締めてくださった。
「はい」 私は笑顔で返した。
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