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寝不足

 二人になり、上様の寝顔を見ながら先ほどのことを思い出していた。


 (上様・・・やきもちにも程があります。あんな風に怒りながら言われるなんて初めてだったから、ビックリしたわ。いつもは拗ねられる程度だったのに・・・やっぱり、菊之助様が言われるように寝不足が続いておられたのかしら・・・)

 

 上様を見つめながら考え事をしていたのに、上様が目を覚まされたことに気が付かなかった。


 「おさと?」上様が私を呼ばれたのでハッとした。


 「上様? お目覚めですか? 具合はどうでございますか?」 私は、心配してお顔を覗きこんだ。上様が手を伸ばされたので、しっかりとその手を握った。


 「ああ、少し眠ったらスッキリしたようだ」 いつもの優しい上様のお顔だった。でも、お顔の色は悪かった。


 「そうでございますか。良かったです」


 「お里?」


 「はい。どうされました?」


 「怒っておるのか?」 上様は言いにくそうに言われた。


 (さっきのことかしら?)


 「いいえ、怒ってなどいませんよ。心配しているのです。あのようなこと、本心で言われたわけではないでしょう?」


 「ああ、熱は下がって体は回復していたつもりだったんだがな。 夜になると、寝付けなくてな・・・お里のことを考えると近くにいないことが不安で、どうしても寝られなくなってしまうのだ」


 (菊之助様の言っておられた通りなのかしら)


 「上様、今日はこちらで過ごせるよう菊之助様が手配してくださりました。ゆっくり休んでください」


 「そうか・・・菊之助にも悪いことをしたな」 少し気まずそうにおっしゃった。


 「菊之助様は、上様のことは何でもおわかりですから大丈夫でしょう」 私は上様の方をみて微笑んだ。


 「そうだな。お里、今日は手を握っていてくれるか?」


 「はい。私はお傍にずっとついておりますので、安心してお休みください」


 「ああ そうさせてもらうよ」 そう言ってしばらくすると、すぐに寝息をたてられた。夜に食事を運んできてくれたお常さんが部屋に入って来られても、様子を伺いに訪ねてきてくれたおりんさんが部屋に入って来られても目を覚まされることなくずっと気持ちよさそうに眠っておられた。私は、用事があるときだけ手を離したけれど、それ以外のときは上様の手をずっと握っていた。お常さんが部屋を出る前に、上様の横にもう一組布団を敷いてくれたので、朝方にはそこへ横になり少しだけ休むことにした。

 朝、目を覚まして上様のおでこを触ると熱もないようだったので一安心した。今の間に布団をたたもうと握っていた手をそっと離そうとすると、上様の手に力が入った。


 「上様? 起こしてしまいましたか?」 私は振り返って聞いた。


 「いや、勝手に目覚めただけだ。なんだか、とてもすっきりした気分だ」


 「そうでございますか。それは良かったです。何か欲しいものはございますか?」


 「ああ 水をくれ。それと、少し腹が減った」


 「では、すぐに御膳所にて用意してまいりますので少しお待ち頂けますか?」 私は、食欲が出てこられたことが嬉しかった。


 「わかった。待っているから早く戻ってきてくれよ」 そう言う上様がすごく可愛かった。


 「はい」 私は笑顔で答えた。


 御膳所へ行き、出来るだけ消化の良いものをとお常さんにお願いした。お常さんは、いつものお膳とは別にお粥や軟らかく煮たお野菜などを作ってくれた。私は、桃などの果物を用意した。


 (もし、食べられるようなら後で剥いてさしあげよう)


 一通り準備をして、お常さんにお礼を言ってからお部屋へ戻った。お部屋へ入った瞬間上様が笑顔で迎えてくださった。


 「上様、食べられるだけでかまいませんので、ゆっくり食事を取りましょう」 そう言うと、上様は自分で体を起こされた。私は、お粥を一すくいスプーンにとってから、ふーふーと冷まして、上様のお口の前へ持って行った。すると上様は、照れたように下を向かれた。


 (あっ! 子供にしていたのと同じことを普通にしてしまっていたわ)


 「申し訳ございません。ご自分でお食べになられますよね」 私は急に恥ずかしくなって、真っ赤になった。


 「いや、食べさせてもらえるとありがたい」 上様も少し赤くなっておっしゃった。私は、そのままスプーンを上様のお口の中へ入れた。


 「うまいな」 上様がそうおっしゃったので、「しっかり食べてくださいね」と言った。


 上様はお粥のほとんどと、お野菜の煮物を全部食べられて満足そうだった。私は、お茶を用意して飲みやすいよう少し冷ましておいた。


ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

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