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怒り

 次の日から、朝と夕方以降の御膳所の仕事も普段通りにこなしそれ以外の時間はいつものように上様のお部屋を掃除したり、庭の花や野菜の手入れをして過ごした。


 午後になると菊之助様が毎日上様の様子を知らせにやってきて下さった。


 「今日も、もう起き上がってここへ来ると言う上様をなだめるのに苦労しました」 菊之助様がため息と同時にグチをこぼされた。どうやら、意識をしっかり取り戻された上様は毎日同じことを言われて、菊之助様を困らせておられるらしい。


 「そうでございますか」 私は想像して笑いながら言った。


 「はい。菊之助だけ毎日お里に会うのはズルいと・・・お里は私と会えないのに平気なのかとずっと同じことを・・・」


 「私も早く上様にお会いしたいです。とお伝えください」


 「それを伝えると、すぐにでもここへ行くと言ってきかなそうですね」と、二人で笑いあった。


 そこで襖が開いた!


 「二人で何を楽しそうにしているのだ」 上様が、息を切らして襖にもたれかかるように立っておられたのだった。


 「上様!!」 菊之助様と私は二人同時に声を出した。


 「何をしているのですか!」 菊之助様は、半分呆れ、半分怒った様子で言われた。そんな言葉を無視して上様は話された。


 「私がいない間に二人で仲良くしおって! お里は、私がいなくても菊之助と会えればよいのか! 菊之助もお里と二人で会うために私を寝所に閉じ込めておるのか!」


 「・・・・・」


 (何を言っておられるのかしら? 私のことはともかく、菊之助様はあれだけ上様のことをご心配されていたのに・・・) 


 「上様、菊之助様は上様のことを大変心配しておられます。そんな言い方をされるのはひどいのではないですか?」 と少しきつく言ってしまった。


 「お里殿も上様の心配をしながら、いつここへ戻られても快適に過ごせるよう準備されているのですよ」 菊之助様がおっしゃった。


 (菊之助様・・・今、私のことをかばうのはマズイです)


 「なんだ!  二人でかばいあうのか! もうよいわ!」 そこで上様は大きく息をつかれた。


 (やっぱり、拗ねられた・・・まだ具合も悪そうだし、このままではいけないわ。早くご寝所へ戻っていただかないと)


 「上様、いいかげんにしてください! そのようなことばかり言っておられては、治るものも治りません。 私は、上様がお元気になられるまでと思い寂しい気持ちを我慢して待っていたのですよ。 菊之助様も、私のことを心配して毎日上様のご様子を知らせにきてくださっているだけでございます。 お熱が下がらない間に、私たちのことが信用出来なくなってしまわれたのですか? 早くご寝所へお戻りください!」 私は上様が具合が悪くなられる前に、早く寝所へ戻って頂きたいと少し焦って言ってしまった。


 (しまった・・・)


 上様は下を向かれたままだった。


 「言い過ぎてしまい申し訳ございません・・・でも、はやくご寝所でおやすみに・・・」 私はすぐに反省し、頭を下げた。


 上様はまだ息を荒くして下を向かれたままだったが、ガクンと体をくずされてそのまま倒れられた。


 「上様!!」 二人でかけより、とりあえず上様を抱きかかえ部屋の中へと運んだ。すぐに布団を敷いて、横になれるよう準備をした。布団の上に横になられた上様は、眠られたようだった。特に熱が上がっているわけでもなさそうだったので、しばらくこの部屋で様子をみることにした。


 「上様、どうされたのでしょう?」 私は菊之助様に聞いてみた。


 「ほとんど、回復されていたので安心していたのですが・・・もしかしたら、あまり眠られておられなかったのかもしれません。私が夜中に様子を見に行くといつも、菊之助か?と問われたので・・・目を覚まされたのかと思っていたのですが、もともと寝ておられなかったのかもしれませんね」


 「そうでしたか・・・何か寝られない理由がおありなのでしょうか?」 私も菊之助様と一緒に考えた。


 「はい・・・思い当たることは一つだけです」


 「何ですか?」 私はすぐに聞いた。


 「お里殿です」


 「私ですか?」 少し意味がわからなかったので、問いかける声が裏返った。


 「はい。お里殿が傍におられないことが不安で寝付けなかったのではないでしょうか? それで、無理に起き上がってここへ来られた・・・で、私たちが笑いながら話しているのを見てあんなことを・・・」


 「まあっ そんな・・・」


 「とにかく、今日は寝所の方に誰も近付けないよう段取りをしてまいります。お里殿、今日はこちらで上様のことをよろしくお願い致します。 あとで、おぎんかおりんをこちらにやりますので、何かあればお伝えください」


 「わかりました。私もお常さんに連絡をと思うのですが・・・」


 「それも私の方でやっておきます。食事も運んでもらうよう手配しておきますので、お里殿はここから離れず上様のことをよろしくお願い致します」


 「わかりました」 そう言うと、菊之助様は忙しない様子で部屋から出て行かれた。


ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

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