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心配

 ある日、いつものように上様のお部屋へ行くと菊之助様がお一人でおられた。


 「おはようございます。菊之助様。本日は、上様は後ほど来られるのですか?」


 「お里殿。おはようございます」 菊之助様は少しお疲れのご様子だった。


 「菊之助様。お疲れでございますか?」


 「いや、私よりも上様が・・・昨晩より熱を出されまして臥せっておられるのです」


 「まあっ! 大丈夫なのですか?」 私が上様と過ごすようになってから、初めてのことだったので驚いた。


 「お匙にも看てもらっているのですが・・・熱がとても高いようで、今朝も全く下がる様子がないのです。お匙の話では、風邪であろうということなのですが・・・」


 「そうですか・・・私も看病に行って差し上げたいのですが・・・それは出来ませんので」


 「はい。寝所には、御台所様や御側室が順番に来られますので、それは難しいかと思います」


 「そうですよね・・・」


 「ただ、本当にうなされている時には『おさと・・・』『おさと・・・』とお呼びになられるので・・・少し意識が戻られている時にしか、御台所様や御側室はお部屋にお通ししてないのです」


 「そうでございますか・・・」


 「上様もとても心細い思いをされていると思います。私も、付きっきりで看病させて頂きます。何かございましたら、すぐにご連絡させて頂きますのでお里殿はこちらに泊まり、待機しておいて頂けますか?」


 「はい。では、お常さんに言ってこちらにいられるようにしておきます」


 「よろしくお願い致します」


 「もし、お話が出来るなら『お里は待っておりますので、早くお元気になってください』とお伝えください」


 「承知しました。では、私も早速戻らせて頂きます」


 「はい」 菊之助様はすぐにお部屋を出て行かれた。私もすぐに、一旦お部屋を出てお常さんに事情を話した。


 「それは大変だわ。事情はわかったから、お里はお部屋で待機しておきなさい」 そう言って、部屋で寝泊まり出来るよう段取りをしてくれた。

 

 お部屋で一人で過ごす夜は、とても長く感じた。心配で心配で仕方がなかった。何より、私がお傍で看病出来ないことが不安だった。

 

 (こういうとき、側室であればお近くで上様のお世話が出来るのだわ。私の立場では、ここでこうやって上様の無事を祈ることしか出来ない・・・上様のお近くにいきたい)


 私は、少し起きては縁側に出たり、部屋の中でもジッと座っていることが出来ず寝られない夜を過ごした。

 次の日の朝、おぎんさんとおりんさんがお部屋にいらっしゃった。

 

 「上様のお加減はいかがですか?」 私は早速聞いた。

 

 「はい。あまり変わらずで・・・お熱の方が下がらないようです」


 「そうですか・・・」 私は、とてももどかしかった。でも、自分がこの立場を選んだ以上、上様にお会いさせてほしいとは言えなかった。俯いている私におぎんさんが言われた。


 「お里様、夜中の時間は菊之助様お一人で看病をされています。ですので、その時間であれば、お里様を上様の寝所へお連れすることができます」


 「本当ですか?」 私は、すがるようにおぎんさんに確認した。


 「しかし、もちろんお里様のお姿では寝所にはいけません。お夕の方様になっていただかないと」


 「わかりました」


 「それと、お時間も夜更けから明け方までのお時間になります。お里様にとってもご負担がかかるお時間になりますが、よろしいですか?」


 「そんなことは気になりません」


 「それからもうひとつ、もし、どなたかにお会いしてしまう覚悟はして頂かないといけません。私たちも全力でお守りいたしますが」


 「はい。それよりも上様にお会いしたいと思っています」 お二人が、頷かれた。


 「では、今日の夜更け前にもう一度私たちはやってまいりますので、お里様は今の間に休んでおいてください」


 「ありがとうございます。よろしくお願いいたします」


 そう言うと、お二人はすぐにお部屋を出て行かれた。私も、寝られないだろうけど今のうちに少しでも体を休めておこうと畳の上に横になった。


ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

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