観劇
芝居が始まると、そちらに夢中になった。上様は私の手をずっと握っておられたけど・・・
舞台で繰り広げられる華やかな世界にうっとりして見惚れていた。お昼くらいに一旦休憩となると、お膳が運ばれてきた。
「お昼から贅沢でございますね」 私が上様に言うと
「せっかくだから、今日は目一杯贅沢すればいい」 とおっしゃった。
「ありがとうございます」 そう言うと、おぎんさんとおりんさんも
「私たちまで、ありがとうございます」 と言われた。
「ああ、お前たちにもいつも世話になっているからな。今日はゆっくりせよ」 とお二人におっしゃった。
お昼からの公演も、あっという間に時が過ぎるほど食い入るように見た。全ての公演が終わり、客がほとんど出ていく頃に私たちも出て行くことにした。私は夢中になって体勢を変えていなかったので、足が痺れていた。上様が立ち上がられたので続こうと思ったけれど、足がいうことをきかなかった。
「うえ・・・旦那様?」 私は恥ずかしかったが、上様を呼び止めた。
「どうした?」 と、上様が振り向かれた。
「あの・・・足が痺れてしまって・・・うまく立てなくて・・・」 そういうと、上様が優しく笑われて私をヒョイと抱えられた。
(これって、お姫様抱っこですよね。恥ずかしい・・・上様のお顔が近すぎる・・・)
上様は嬉しそうに微笑まれていた。
「ゆっくり下ろすから、無理をするなよ」 と言って、私の頬にキスをされてから立ちやすいようにゆっくりと下ろしてくださった。
「ありがとうございます」 立つには立てたが、まだ足が痺れていた。
「ああ、大丈夫か? 痺れがとれてからゆっくり歩けばいい」 そう言って、今度は手を取って支えてくださった。ゆっくり、痺れが取れるのを感じてから歩き出した。
芝居小屋を出て、すぐのところに料理屋があった。そこも、とても敷居の高そうなところだった。私たちは座敷に案内されて5人揃って食事をとった。どれもこれも、見た目から綺麗で上品な味をしていた。私は、1皿ごとにその盛り付けに見とれ、味の感想を言い、食リポのようなことをしていたみたいだった。その様子を隣で上様は、微笑んで見ておられた。
「お里は本当に美味しそうに食べるな」 そう言われてから、自分が料理にがっついていたことに気付いた。
「申し訳ございません。はしたなかったでしょうか?」 私は、恥ずかしくてまた顔が赤くなってきた。
「いや、とてもかわいかったよ」
「・・・・」
(皆さん、無言で食事を進めるのはやめてください)
食事が全て終わると、菊之助様がおっしゃった。
「私たちは少し、外を散歩してまいります」
「ああ、そうか」 上様はそう言われるのをわかっていたかのように、平然とおっしゃった。
3人さんが部屋を出て行かれるとすぐに上様は横になられ、私の膝の上へ頭を乗せられた。私も、少し膝を崩して上様の体勢がしんどくならないようにした。
「上様、今日はありがとうございました」 上様は、少し拗ねられたような顔をされた。
(???)
「お里。今日は、上様とは呼ばないのではなかったのか?」 そうおっしゃった。
(二人だけだから、上様の方がいいと思ったのに・・・)
「だ、旦那様。今日はありがとうございました」 私はもう一度言い直した。
「私の方こそ、お里と一緒に楽しめて嬉しかったよ。ありがとう」 とおっしゃり、起き上がられて、抱き寄せられた。
「旦那様?」
「ああ、幸せだ」 そう言って、頬に軽くキスをされた後、唇へキスをされた。
少し、顔を離したときに「私も幸せです」 と言った。
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