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提案

第2章が始まります。

変わらず、お楽しみ頂ければうれしいです。

 ここは江戸時代、現将軍様は第11代 徳川 家斉様です。

 そこで、上様からご寵愛を頂いている私、お里は2020年の世界で平凡に専業主婦として生活していたのだけど、友人の裏切りや主人の不倫に絶望して、マンションの屋上で景色を眺めていたところ足を滑らせて・・・突然この世界に来てしまった。

 最初は何もわからないまま、ただただ御膳所のお常さんの元で働いていたのだけど、そのうちにお夕の方様というご側室の雑用係になった。お夕の方様と心を通わせられるようになったころ、重大な事実を打ち明けられた。

 なんと、お夕の方様は上様が変装されていた姿だった。その姿で、実は私を見守ってくださっていたのだった! そして、この世界へきたときに最初に見つけてくださったのは、上様だった。

 秘密を打ち明けられてからは、もともとのお夕の方様のお部屋で上様の姿で過ごされ、私はそれまで通り、雑用係としてここへ来て上様に大事にして頂き毎日幸せに暮らしている。(たまに、トラブルありですけど・・・)

 もちろんこのことは、一部の方にしか知られていない秘密です。

 少し前には、息子がこの世界に現れ、以前の私は死んでしまったのだと聞かされた。私は、その真実を受け入れ、もうこちらの世界には来られなくなるという息子とお別れしたところだった・・・


 息子とお別れをしてからは、上様は私が寂しくなっているのではないかと今まで以上に少しの時間でも会いにきてくださるようになった。

 

 「上様。あまり無理をされなくても、私は大丈夫でございます」

 

 「私がお里に会いたくて来ているのだ。お里が気にすることではない」


 「はい。ありがとうございます」


 上様は膝枕をしている私を下からジッと見られた。そして、手を伸ばして頬に触れられてからおっしゃった。


 (上様は膝枕がお好きで、ゆっくりされるときにはいつもこの体勢なんです)


 「お里、私が傍にいるからな。お里も私の傍にいてくれよ」 私は、上様の目を見て頷いた。


 急に起き上がられた上様が、何か思い出されたようにおっしゃった。


 「そうだ、お里、お前もそろそろ休みがもらえるようになったのではないか」


 奉公をしている女中も、ある程度の月日が経てば実家へ帰れる休みがもらえるのである。


 「はい。でも、私は戻る実家もありませんので、お休みをとる予定もありません」


 (休みをもらっても、行くところもないですからね。私はこの世界では家族もなく、昔からの知り合いもいませんので・・・そもそも大奥の中以外ほとんど知らないですから)


 「いや、休みを取って私と一緒に歌舞伎を観にいこう」 上様は、どうだ? 良い考えだろう?と言わんばかりのお顔でおっしゃった。


 「上様。いくらなんでも、それは無理でございます」


 「なぜだ? 京都でしたように、私がまた若侍になればよいではないか。いや、今度は商人にでもなろうか?」


 上様はとても楽しそうに話された。私はどう答えたらいいものか、わからなかった。


 (以前、私が側室のお夕の方様に扮して、上様の京都訪問に同行した時は二人でお侍と町娘の姿で京都の町を散策したけれど・・・商人姿の上様も見てみたいような気が)


 「よし! 菊之助に聞いてみよう」


 菊之助様とは、上様のお付きのお役人様で上様の一番の理解者であり、私たちのことを最初から見守ってくださっています。時々、私たちの間で右往左往されています。


 (菊之助様はきっとダメと言われるはずですが・・・それで、上様の気がお済みになるのなら)


 「わかりました」 とりあえず、そう言っておいた。


 その日は、いつもお迎えに来られると不機嫌になられるのに菊之助様を待ち構えたように迎えられた。


 「おお、菊之助。はいれはいれ。待っておったぞ」


 菊之助様は部屋に入ってこられ、とても不安気な顔をされた。


 「上様。何かございましたか?」


 (明らかに不審がっておられるわ)


 「今度、お里に休みをとらせて歌舞伎を観に行こうと思うのだがな。若侍になるか商人になるか迷っておるのだ」


 (えっ! そこですか?)


 「しょっ、商人!? それは、ちょっと無理でございます」


 (菊之助様もそこですか?)


 菊之助様は、ため息をついて冷静になられてから話された。


 「上様。上様が街に出られるということは、多くの警護を付けて籠に乗って頂くのが習いでございます」


 「・・・・・」 一瞬で上様の機嫌が悪くなった。


 「平和な世になったといっても、町中では何が起こるかもわかりません」


 「それはわかっておる」 私も菊之助様が反対されることに納得しながら聞いていた。


 「しかし、町中に出て民たちがどのような生活をしているか見るのも、上様にとってはいいことかもしれません」


 (えっ?)


 「ですから、私の話すことをしっかり守って頂けるというのなら今回は歌舞伎を観に行ってもよいのではと思います」


 「まことか?」 上様は一気に笑顔になられた。


 「はい。京都の時のように見境をなくして、お里殿のところへ駆けつけようとなされたりしないのであれば」


 「しない しない! 今度は大人しくしておる」 上様は子供のようにおっしゃった。


 (こういうときの上様は本当に可愛く思える)


 「では、後日おぎん達も交えて日程などを決めたいと思いますが、よろしいですか?」


 「ああ、菊之助、頼むぞ」


 上様はそう言われてから、私の方をみて「お里、よかったな」とおっしゃった。


 「はい。上様、菊之助様ありがとうございます」と言って、頭を下げた。


 「上様は、以前から歌舞伎を観に行くことに拘っておられましたからね。いつ言い出されるかと思っていたのですよ」 菊之助様がおっしゃった。


 (そういえば、以前そのようなことをおっしゃっていたような・・・)


 「それでは上様、そろそろ戻りましょうか」


 「ああ そうだな」 上様は、上機嫌のまま菊之助様に従われた。


 (歌舞伎を観られるのは嬉しいけれど、本当に大丈夫なのかしら)


 私は、少し不安に思いながら上様を見送った。


ここまで読んで頂きありがとうございます。

これからもよろしくお願いします。

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