密談
上様の独占欲の一部を追加しました。
最近は御膳所の仕事の合間に、週に1度、中奥の近くまで行き奥内への手紙や書物などお役人様から預かるという仕事をしている。そして、御目見得以上の方のものはお清様に、御目見得以下の方の分はそれぞれの役職の方にお配りする・・・いわば庶務のようなお仕事です。
お清様から、側室にはならなくても少しは大奥のことをわかる方がいいだろうと言われお受けした。だから、今まで入ったことのない場所や、他の方のお仕事を覗けて少し楽しいと思っていた。
お役人様に、天気の話や、最近町で流行っている歌舞伎のお話などを聞くこともでき、歌舞伎は何度か見に行ったことがあるので、質問をしたりなどした。
(上様や菊之助様以外に男の方とこんなにお話をするのは、久しぶりだわ)
だからどうというわけではないけれど、新鮮なかんじだった。
ところが2ケ月ほどでお清様から、その仕事はもうしなくていいと言われた。私は
「何か、粗相がありましたでしょうか?」 と尋ねると、お清様がため息をつかれてから
「そういうことではないから、気にしないように」
と言われた。と、言われても・・・と思ったが、それ以上は何も聞かなかった。
《 上様と菊之助様の話 》
「上様。報告した方がいいのかどうかは・・・」
「なんだ菊之助。はっきり言え」
「はい。この間、中奥で小耳に挟んだことがありまして」
「中奥で?」
「はい・・・そこで働いているものたちの会話を耳にしたんです」
「で?」
「最近、奥から週に1度御用を伺いにくる奥女中にとてもかわいい子がいると・・・」
「そうなのか」
「はい・・・いままではどの女中も、とても気が強い感じで近寄りがたいというか、話にくいというか・・・そういう印象なのに、今度の子は、愛想も良く、話をしていても優しく返事をしてくれて、とても可愛らしいとか・・・今では、御用を伺いに来る日に、誰がその担当をするか取り合いになっているそうです」
「なんだ、珍しい。菊之助も惚れたのか?」
「いえ。そういうわけでは・・・ただ、その女中の名前が お里 と申すそうで・・・」
「!!!!」
「お清殿に確認したところ、今はそのお役目もお里殿がやっているとのことです」
「なに! お清、勝手にそんなことを!」
「お清殿もお考えがあってのことだとは思いますが、そんな評判になっているとは御存知なかったみたいですよ」
「・・・だから、人前に出したくないのだ! 特に男の前になんぞ」
「どうされますか? お里殿は喜んでお仕事をされているとのことですが・・・」
「お里は自分の魅力に疎すぎる。普通にしているだけで、男を虜にするのだ」
「はあ・・・」
「菊之助。お清に伝えておけ・・・お役をとくようにと」
「はい。承知しました。」
と、こんなことが裏側であったことは、お里は知らないままだった。
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