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再来

ツバメのエピソードを追加してみました

  暖かさを感じるようになってきた朝、私はいつものように上様のお部屋へと廊下を歩いていた。すると、上様がお庭におりられていた。私は廊下からお声をかけた。


 「上様、おはようございます。こんなところまで出てこられては・・・誰かに見られては大変でございます」


 上様は振り返って、ニッコリ笑われた。


「お里、おはよう。大丈夫だ。今は、おぎん達がどちらの入り口も見張っておる。それより、お里もこちらへおいで」


「はい。それでは、お膳をお部屋に運んでまいります」


 私は、お膳を部屋に置き、縁側から履き物を履いて上様のおられる庭に出た。上様は、私が隣に立ったのを確認されてからおっしゃった。


「ほら!見てごらん」 と、小屋の方を示された。私は、そちらの方を見上げた。


「あっ!」


 そこには、すでに卵を産んだツバメの巣があった。そして、親鳥がその上で大事そうに卵を温めていた。


 (庭のお掃除はほとんど毎日していたのに、全く気付かなかったわ)


 上様は、私の方を向いておっしゃった。


 「そろそろ巣作りの季節だなと思って覗いてみたのだよ。すると、やっぱり作っておってな・・・お里にも早く見せたいと、ここで待っていたのだ」


 「そうでございましたか。ありがとうございます。また、去年のツバメが戻ってきてくれたのでしょうか」


 「ああ、そうかもしれないな。今年は、無事に卵がかえって巣立ってくれるいいんだが」


 「はい。そうですね」


 私たちはしばらくツバメの巣を眺めた。去年は、カラスに襲われてかえることさえ出来なかった卵が、今年は雛になって巣立ってくれることを心から願った。


 「上様、そろそろお食事にしましょうか」


 「ああ、そうだな」 そう言って、お部屋へ戻った。

 


 それからも、おぎんさん達が見張りに立てるときは、二人で巣を眺めた。


 (私が一人で庭に出るときは、その様子を上様にお伝えした)


 しばらく経った朝、その日は上様の方が遅く部屋に来られるとのことだったので、私は先に食事の準備をしておこうとお部屋に向かった。上様のお部屋に通じる廊下に入った瞬間、チュンチュンと騒がしい鳥の声が聞こえた。私は胸が弾んで、先にお膳をお部屋へ運ぼうと、襖を開けたとき


 「お里、もう来ておったのか」 と、上様がお部屋に来られるところだった。

 

 「上様、小屋の方で雛の鳴く声がしているのです!」 私は、上様への挨拶も忘れて、急いで報告をした。


 「そうか!」と、上様も喜んで言われた。


 「今は・・・お庭に一緒におりても大丈夫でございますか?」 私は、上様に聞いた。上様は菊之助様を見られた。


 「まあ、少しの間だけならいいでしょう。すぐに、お戻りくださいね」


 「ありがとうございます」


 と言って、私は上様の手をとり、はやく!はやく!と急き立てた。上様は、「わかったから、そうあせるな」と言いながら、私に合わせて一緒に急いでくださった。


 !!!!


 「わあっ! 雛がいますね」


 私は、嬉しくて興奮したまま、元気に親鳥から餌を催促する雛たちを見た。上様は、巣をご覧になり「よかったなあ・・・」とおっしゃった。そして、私から繋いだままの手に力を入れられた。視線をかんじ、上様を見ると目が合った。私は急に恥ずかしくなり


 「申し訳ございません。興奮してしまいました」


 「いや、かまわない。お里のとてもかわいい姿を見せてもらえてよかった」


 そう言われて、さらに顔が赤くなってしまった。


 「お二人とも、そろそろお戻りください」


 そう菊之助様に言われ、上様の手を離そうとすると、上様はさらに手に力を入れられ、そのままお部屋まで連れて行かれることになった。

 

 それからしばらく、庭から賑やかな声を聞きながら癒された。雛も少しずつ成長し、親鳥は一日中飛び回って、雛に餌を運んでいた。3週間くらい経ったとき、突然巣の中がもぬけの殻となった。


 (ああ 今年は巣立ってくれたんだな。少し寂しいけれど、嬉しさの方が大きい。上様と一緒に見守れたことも嬉しかった)


 「お里、巣立ったようだな」


 「はい。良かったですね」


 「また、来年も見られるといいな」


 上様が、笑顔でそう言われた。


 「はい」


 (また来年もと言われたことが嬉しかった。まだ、上様と一緒にいてもいいのだと言われているようで)





読んでくださり、ありがとうございます。

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