告白③
今回の告白は・・・誰にでしょう・・・
次の日、お常さんを御膳所で捕まえた。
「お常さん、今日はお夕の方様からお常さんも一緒に部屋へ来るよう言付かったのですが・・・」
「私がかい?」
「はい。お話があるそうです。私も一緒にまいりますので、よろしくお願いします」
「わかった。でも、私はお夕の方様にお会いしたことがないんだけど・・・」
お常さんは、少し焦っているようだった。
昨日、上様にお願いしたのです。
「上様? お願いがあります」
「お里の願いなら、何だって聞いてやるぞ」
「では、お言葉に甘えまして・・・あの・・・お常さんには本当のことをお伝えしたいのですが・・・」
「お常にか?」
「はい。今回のことも、最後にはお夕の方様を信じなさいと言ってくれたのはお常さんなんです。それに、私が色々困っているときも、いつも何も聞かずに助けてくださいました」
「そうか」
「これ以上、お常さんに嘘をつくのは心苦しくて・・・」
お部屋に入って来られた菊之助様が付け加えられた。
「お常なら、私も信用しております。井戸で一番初めにお里殿に会ったのも、お常ですからね」
「はい。それからずっと、見守ってくださってました」
上様はそんなに考えることなくおっしゃった。
「お里が世話になっているのなら、私から話そう」
「えっ?」 私と菊之助様が同時に声を上げた。
「上様がですか?」
「そうだ!何か問題があるか?」
「いえ、ございません」
(お常さん、腰をぬかすんじゃないかしら)
部屋の前で、二人で並んで頭を下げた。
「失礼いたします」
「はいれ」
襖を開けて、部屋へ入ろうとしたときまず、お常さんが驚きの声を上げられた。
「上様!!」
お常さんはもう一度頭を下げられた。
「お常であるな。こちらへまいれ」
「は、はい」
(お常さんは、もう腰をぬかされそうだわ)
二人で、上様の前に座った。お常さんは、まだ頭を下げている。
「お常、そう固くなるな。おもてをあげよ」
「は、はい」
やっと、お常さんが頭をあげた。私は、その様子が少し面白かったのでニヤニヤして見ていた。でも、その様子を上様に見られていたらしく、目が合って二人でクスッと笑った。
「お常、まず報告しておくが・・・」と、まず菊之助様が話された。
「今日は驚くことばかりだと思うが、心して聞いてくれ」
「は、はい。もちろんでございます」
いつもの堂々としたお常さんの姿は、全く感じられなかった。菊之助様がお話をされた。
「私は、上様のお傍に仕えている、菊之助と申す」
「お初にお目にかかります。お常でございます」
「お常、それが初めてではないのだ」
「えっ?」
「私はお菊として、何度も会っているのだよ」
「えーーー!」
(お常さん、そうなりますよね。私もパニックでした)
「お常さん。それが本当なんです。私も始めは、驚きました」 私は、付け加えた。
「そうですか・・・そうですか・・・」
お常さんは自分で自分に言い聞かせているようだった。
「お常、驚かせて申し訳ないな」 上様が話された。
「いえ、とんでもございません」
「今まで、このことは部屋に出入りしているものしか知らないことだったのだがな」
「は、はい。もちろんでございます・・・」
(何だか、返事がかみ合っていない・・・お常さんが落ち着けるようにお茶でも淹れよう)
私はそっと立って、お茶の用意をした。
「お里が、お常には本当のことを話したいと申してな。こうやって、今日はここへ来てもらったのだ」
「お里が・・・上様に・・・そのようなことを」
「それから、まだあるのだが・・・大丈夫か?」
「は、はい。大丈夫でございます」
「この部屋は、お夕の部屋であることは知っているな」
「はい。存じております」
「そのお夕だがな、実は私であったのだ」
「えーーーー!」
「ちょっと、訳があってな、ここでお夕として過ごしているのだ。今は、訳があってお夕の格好をほとんどすることはないのだが」
そういって、チラッと私の顔を見られた。
「は、はい。そうでございますか」
私は、湯飲みをお常さんと菊之助様の前に置き、続いて上様にお持ちした。
「上様。そんなに一度に話されては、お常さんが気を失われます」
そう言いながら、湯飲みを置いたとき、上様が私の手を握られた。
「上様!!」 私は、こんな時に手を取られるなんてと思い、ビックリして声を出した。
その様子を、お常さんは口を開けて見られていた。
「あ、あの・・・」
お常さんがいよいよパニック寸前です。
「お常、実はな、この部屋で私が可愛がっているのはお夕ではなく・・・もちろんお夕は私だからな・・・お里なんだよ」
「お、お里が・・・上様にご寵愛を・・・お里様・・・色々とご無礼を・・・」
そう言われて、お常さんは後ろへ倒れてしまった。丁度、頭を打ちそうになるところで菊之助様が受け止めてくださった。
気を失ったお常さんを、扇子であおぎながら上様に話した。
「上様! もっとゆっくり話されることは出来ませんでしたか? お常さんがかわいそうでございます」
「そう 怒るな お里。お常の反応が面白くてな。つい意地悪をしてしまったわ」
「まあ!」
と、私はそっぽを向いた。
「悪かったと言ってるだろう」
そう言って、上様が後ろから抱きつかれた。その時、お常さんが目を覚まされ、急いで起きられた。
「失礼いたしました。ご無礼を、お許しください」
「お常さん、そんなに急に起きてはいけません」
そう言った私の後ろに抱き付かれている上様がいる・・・
「上様! 離れてくださいませ」
私は、上様から離れて座り直した。菊之助様はずっと笑っておられる。
「菊之助様! 上様をどうにかしてください。今日は特にどうかされています!」
「お里殿。それは無理でございます」
その様子を見ていたお常さんは、少し落ち着かれたのかクスッと笑われた。
「お常さん・・・」私は、真剣な顔でお常さんをみた。そして、話した。
「お常さん、今まで嘘をついていてごめんなさい。私は、今はここで上様に大事にされて過ごしています。先日、私が落ち込んでいたのも上様のことでした。その時もお常さんは何も聞かず、私をなぐさめてくれました。本当に感謝しています。だから、お常さんに嘘をつき続けることが心苦しくて、上様にお願いして本当のことを話すことを許して頂きました」
「そうでしたか・・・お里‥様。私はあなたを見続けてきて、前向きに頑張っているあなたを知らない間に応援するようになっていたんですよ。あなたの強さは、上様から頂いたものだったのですね。私は、このことを聞けてとても幸せです」
お常さんが、穏やかに言ってくれた。それを聞いて、上様が話された。
「お常、お里からいつも助けてもらっていると聞いている」
「もったいないことでございます」
「慣れない環境の中、一生懸命働いているお里の姿に心を寄せたのは、私もお常と同じだ。お里はお常の事を本当に信用している。今は、私もお里もこの部屋での時間を大切にしようと決めている。だから、このまま今まで通り過ごしていく。お常も今まで通りお里と付き合ってやってくれないか? お里を急に『様』で呼んだり、気を使ったりするのではなく、御膳所勤めのお里として接してやってくれ。それが、お里の願いでもあるのだ」
「上様・・・」
(上様はこのことを言うために自分が話すとおっしゃってくださったのだわ)
「はい。もちろんでございます。お常にお任せくださいませ」
そう言って、お常さんが胸をポンっと叩かれた。いつものお常さんに戻られたようで安堵した。
「私もお菊でお願いしますよ」
後ろから菊之助様が言われた。
「はい」
そちらもお任せくださいというように、お常さんが頷かれた。 私たちは、すこし雑談をしてから部屋を出た。
御膳所までの廊下でお常さんが急に立ち止まられた。私も何事かと思い立ち止まって、お常さんをみた。 すると、お常さんは私をジッと見つめられて
「お里、良かったね。上様は、あんたを大切にしていることを私に知らせるために、きっといつもより人前で触れ合おうとされたのだと思うよ。」
と言ってくれた。私は、涙をこらえて「はい」とだけ言った。
「さあ 仕事が溜まってるだろうから、戻ってサッサと片付けるよ」
お常さんが、そう言って小走りになられたので、私も遅れないようについて行った。
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