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お傍に・・・

私は上様の方を向き直り姿勢を正した。


「う・・・」


「お里、すまなかった。このように大事なことをお前に何も言わずに決めてしまった。きっと呆れているだろう・・・私のことを・・・」  上様は私が口を開こうとする前に、両手をつかれ頭を下げられた。


「上様、そのように謝られてはいけません。頭をお上げください。私は呆れも怒りもしておりません」 私も急いで上様に頭を上げて頂くように言った。上様は、そっと頭を上げて私を見られた。私は上様と目が合うと微笑んだ。


「お里、怒っていないのか?」 上様はそう尋ねられた。


「怒っておりませんよ。先ほど、御台所様にも事情をお伺いして参りました。ここのところ上様が私に何か言いたそうにされていた原因は今日のことだったのですね」 と言って私はフフッと笑った。


「私はそんな顔をしておったか?」 


「ええ」 私がそう言ってもう一度笑うと「そうか、やっぱり上手くは隠せてなかったのだな」 と苦笑いをされた。


「でも、これからは何でも話すと約束を破ってしまったのは事実だ・・・本当にすまなかった」 上様はそう言って私を見られた。


「今日のことはとても驚きました。御台所様から事情を聞くまでは、お受けするべきなのか色々と考えました。御台所様とお話をさせて頂いている間に自分も覚悟が出来たようでございます。上様もそう望んでくださるのなら、私は頑張ろうと」 上様は私が話している間、ジッと私の目を見て話しを聞いてくださっていた。


「本当にいいのか?」 上様は確認されるようにおっしゃった。


「はい 私も上様とどんなことがあってもお傍にいさせて頂くとお約束いたしましたから。それに、私自身がお傍にいたいのでございます」 そう言って上様のお顔を見て微笑んだ。上様は私の傍まで来てくださり、ギュッと抱きしめられた。


「お里、ありがとう。これから、きっと大変なことがあるかもしれない・・・でも私が絶対にお前を守る」 上様は耳元でそう言ってくださった。


「はい ありがとうございます」 私はそう返事をした。上様は一度体を離されて嬉しそうに笑われると、今度は私の手を取られた。


「御台所との話はどうであった?」 上様はそう尋ねられた。


「はい・・・御台所様がこの大奥で今まで一生懸命にお働きになられたこと、とても尊敬しております。ご自分は養生を兼ねてとおっしゃっていましたが、きっと私たちのこともお考えくださったのだろうと思いました」 私は一瞬どこまで話していいものか言葉に詰まったけれど素直に思ったことを言った。


「そうだろうな・・・御台所は私が辛い思いをしている間も心配してくれていた。私も御台所の気持ちがわかったから、夜の勤めも御台所とお清の言うがままこなしていたつもりだった・・・」 上様はそうおっしゃると少し下を向かれた。


「御台所様は上様のことが気がかりだとおっしゃっていました」 私がそう言うと上様は顔を上げられ頷かれた。


「御台所には養生を兼ねて、自由に過ごしてみて欲しい。それで、もしこの大奥に戻って来たいというならば、そうさせてやりたいと思う・・・それではお里を利用しているみたいだが・・・」 上様は少し気まずそうなお顔をされて私を見られた。


「いえ もしそうなればそれで私はかまいません。この大奥はそもそも御台所様が今まで作られてきたのでございます。私はお留守を預かるつもりでおります」 私はそう言ってもう一度上様にそんなことはお気になさらないように言った。上様はありがとうと言って微笑んでくださった。


「上様? 私はこのお部屋をお引越ししなければならないですよね?」 私は部屋の中を一度見回しながら聞いた。


「ああ すまない・・・ 今の御台所の部屋に行ってもらわねばならない」 上様はまた落ち込まれたようにおっしゃった。


「上様、もう謝られるのはおやめください。上様が何か悪いことをされた訳ではございません。このことは、私も納得したのでございますから、二人のことではございませんか? あまり落ち込まれる上様は嫌でございます」 私は少しハッキリと言った。


「わかった・・・もうウジウジと考えるのはよそう」 上様はそうおっしゃると笑顔になられた。私は上様を見て微笑んでから頷いた。


「このお部屋で過ごした日々はとても中味の濃いものとなりましたね」 私はしみじみと言った。


「ああ」 上様も色々と思い出されたのかギュッと私の手を握り直された。


「なあ お里?」 上様が私の方を見られた。


「はい?」 私も上様のお顔をジッと見つめた。


「ここには、また二人が色んなことが落ち着いたらゆっくりと帰ってこよう。きっとその頃には優も大きくなり、私たち二人だけで静かに過ごそう」 上様はそうおっしゃると優しく微笑まれた。


「素敵でございます・・・長い楽しみが出来ましたね」 私も上様に微笑んだ。


「お里が今後も傍にいてくれると言ってくれて嬉しかった・・・ありがとう」 上様は少し照れながらおっしゃった。


「私のいるところは上様のお傍しかございませんと何度も申し上げております。これからもよろしくお願い致します」 私はそう言ってから少しだけ頭を下げた。


「ああ」 上様はそうお返事されると、握られていた手にもう一度力を入れられ反対の手で私の顎をそっと持ち上げられた・・・そしてやさしくキスをしてくださった。


「そうだ、お里。御台所となったら、お前とも堂々と旅に行くことが出来る・・・遠いところへは優がもう少し大きくなってからの方がいいだろうが・・・お里はどこに行きたい?」 上様はお顔を離されると明るい顔でそうおっしゃった。


「それは楽しみでございますね。京都に行く道中で上様と見た海がとても綺麗だったのを覚えております。海が見えるところに行ってみたいですね。優にも見せてやりたいです」 と私が言うと上様は嬉しそうに笑われながら「海か・・・いいなあ」 とおっしゃった。私たちはそれから、京都へ行ったときの思い出話をしながら穏やかな時間を過ごした。


 夕方になるとおぎんさんが優を連れて帰って来られた。


「おかえり、優。楽しかったですか?」 と私の胸に飛び込んできた優に尋ねると優は満面の笑顔でうんと大きく頷いた。


「おぎん、ありがとうな」 上様がおぎんさんにお礼を言われた。おぎんさんは黙って頭を下げられた。


「おぎんさん、ありがとうございました。おかげさまで、上様とゆっくり話をすることが出来ました」 私はそう言って頭を下げた。


「それは良かったことでございます。私たちとお話をしていたときの上様は大変落ち込まれていたようでございましたので」 とおぎんさんはそう言われて上様を見られた。上様はそれをごまかすように優を抱き上げて遊び始められた。私はおぎんさんと目を合わせ、微笑んで頷いた。おぎんさんも笑顔を返してくれた。


「おぎんさん、明日から優を連れて時間があるときは御台所様のお部屋に行かせて頂くことになりました。私と優だけで行きますので、その間はおぎんさんも自由に過ごしてくださいね」 私がおぎんさんにそう言うと「えっ? そうなのか?」 と上様が返事をされた。


「はい まだ今日の所はお話が少ししか出来ませんでしたので・・・引き継ぎなど、御台所様にお教え頂きたいことも沢山ございますので・・・」 と私は言った。


「私も行こうかな?」 上様はそうおっしゃったので、「それは・・・ちょっと」 とやんわりとお断りした。上様は少し寂しいお顔をされたけれど、ここは譲れなかった。


(御台所様のお部屋に上様と一緒になんて・・・やはり、御台所様は大丈夫とおっしゃっても・・・それに、転生したもの同志他にもお話したいこともありますし・・・)


「上様がお仕事に行ってらっしゃる時間に行かせて頂きますので」 と私が言うと「いや 大丈夫だよ」 と上様は言ってくださった。

私は御台所様がいつまでこの大奥にいらっしゃるのかはわからないけれど、それまでに色んなお話が出来ることを楽しみに思った。


ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

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