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最後の告白 ①

 「私は上様がお過ごしのお部屋の前で・・・倒れていたらしく・・・それを上様に見つけて頂きました」 私は何とかそのように説明をした。


 「ええ それは私も知っています。その前のことを聞いています」 御台所様は少し問い詰めるようにおっしゃった。


 「私は・・・それ以前の記憶があまりなく・・・覚えておりません」 これは記憶がないということで通そうと思った。


 「お里? 先ほど正直に話すと私に言いましたでしょ?」 と御台所様がおっしゃったので、「はい 記憶がないのでございます」 ともう一度言った。


 「そう、なら問い方を変えましょう。何故私があなたを御台所にと思ったと思いますか?」 御台所様はフッと息を吐かれてからおっしゃった。


 「上様のお傍にいさせて頂いているからでございましょうか?」 私は思いつくことを言った。


 「ええ それもあるわね。上様にとっても、あなたが傍にいてくれることは何よりの喜びでしょうから・・・それだけではありません」 御台所様はそこで私をジッと見られた。


 「・・・」 私は御台所様から目が離せなくなった。


 「あなたが私と同じだからです」 御台所様はそうおっしゃると、ニッコリと微笑まれた。


 「同じ・・・でございますか?」 私は意味がわからず繰り返した。


 「ええ あなたが正直に話さないのなら、私から話をしましょう・・・」 そこで御台所様はお手元にあった湯飲みに口を付けられた。


 「私がこの世界に来たのは、今の私が将軍家に嫁ぐ少し前のことです」 とおっしゃった・・・!!??

「えっ?」 私は驚き過ぎてすごい顔をしていたのだろう。御台所様は私のお顔を見られるとプッと吹き出された。


 「そういうことです。続きを聞きますか?」 御台所様のお顔がいつもに増して柔らかくなられた気がした。


 「はい」 私はそう言うと一度頭を下げた。御台所様は頷くと少し姿勢を直されて話始められた・・・


 「先ほども言いましたが、私がこの世界に来た時にはもうすでに将軍家に嫁ぐということが決まっておりました。目を覚ましたのは布団の上でした。後から聞いたところによると、私の体の以前の持ち主は高熱に浮かされて、日に日に弱っていかれていたようです。皆さんがもうダメかもしれないと諦められたそのとき、私が急に目を覚ましたということでした。きっと、お亡くなりになると同時に私が転生してしまったのでしょう・・・」 御台所様はそこまでおっしゃるともう一度、湯飲みを手に取られたがそれを覗かれて下に置かれた。


 「御台所様、お話の途中でございますが、お茶を淹れ直させて頂いてもよろしいでしょうか?」 私がそう言うと 「ええ お願いするわ。あなたの分も淹れなさい」 と言ってくださった。私は立ち上がって、お茶のセットがあるところまでいきお茶をお淹れさせて頂いた。御台所様にお茶をお出しし、自分の元へと戻って湯飲みを置いて頭を下げた。


 「お待たせいたしました」 と私が言うと「ありがとう」 と言ってくださった。


 「あなたはきっと主婦だったのねえ・・・私はお茶を淹れたり食事を作ったりなんて出来なかったから、あなたと同じ御膳所に勤めることになっていたらきっと大変な思いをしたわ」 と独り言のようにおっしゃった。


 「あっ まだ話を始めたところでしたね」 とおっしゃると、もう一度話を戻された。


 「私はこう見えて以前は仕事一筋でしたのよ。男性と付き合う時間もないほど、毎日朝から晩まで仕事漬けでした。学生の頃から勉強も頑張ってきたので、何日か経つと私はこの江戸時代に来てしまったことを理解しました。そして、私は第11代将軍の正妻になるということも・・・その頃の上様は、とても気難しいかんじがして、私も話し方が慣れなかったものですから何を話していいのかわかりませんでした。上様は、病気が回復してから少し感じが変わったとおっしゃったけれど・・・それは仕方ないわよね」 そうおっしゃると御台所様はフフフと笑われた。私もお話のお邪魔をしないように、合わせて微笑んだ。


 「とりあえず、周りに合わす様にして不審に思われないように一生懸命振舞いました。上様はそんな私にそんなに頑張ることはないとおっしゃってくださるようになり、私たちも少しずつ打ち解けていくようになりました。私はこの世界に来て、初めて女性であるということを実感したのです。子を産み、このまま幸せになるのだろうと思っていた矢先、子供が早世してしまいました。上様も一緒に悲しんでくださいましたが・・・そこへご隠居様が私たちを呼ばれて話をされました」 そこで御台所様は悲しそうなお顔をされた。私が心配そうにすると、私の顔を見られて「大丈夫ですよ」 と微笑まれた。


 「父上様は今後このようなことがあっては跡取りを作れない。側室を沢山持ち、出来るだけ子を産ませることだけ考えよ・・・と。その時の私はショックでふさぎ込んでしまいました。上様もそんな私を心配されていましたが、やはり父上のお言いつけには従わねばならないとおっしゃいました。上様のお言葉を聞いて、私は吹っ切れたのか何だかやる気が沸いたのです。私が後継ぎを作れないのなら、上様に沢山跡継ぎを持ってもらえるようにしてみせようと・・・それからの私は、側室にふさわしそうなものをお清と相談して見つけ、上様のお役目が滞りないよう進むように計画をしました。やはり私は仕事があると、やりがいや情熱を持てるのだと・・・もちろん女としての幸せをと思った時期もありましたけど、私には仕事の方が向いているようでした」 御台所様はそこで一度、一服された。私も一緒にお茶を飲ませて頂いた。 


 「お里、私の話を信じられるかしら?」 御台所様は湯飲みを置かれると私に尋ねられた。


 「はい もちろんでございます」 と私が言うと「そう」 と笑顔で微笑まれた。そして、お話に戻られた。


 「お楽のことがあった後、上様はひどく落ち込まれました。私は上様にお楽のことを忘れて頂こうと、今まで以上に夜のお務めに励んで頂きました・・・それが、かえって上様をお辛くさせていたなんて気付きませんでした。そして、あなたとお会いされた頃から上様は私が初めて見るような笑顔を見せられることが増えたのです。私と上様はその頃には信頼し合う社長と秘書のような関係とでもいうのでしょうか、上様にはもちろん男性としても幸せになって頂きたかった・・・その相手が私でなくても良かったのです。初め、私は正直また上様が落ち込まれることがあったら・・・と考えていました。ですが、表の仕事に対しても取り組まれるようになり、人と接する時も人間らしい優しさが垣間見えるときがありました。私は、上様に寵愛を受けている者がどんな人物なのか興味を持ちました。ですが、これは以前も言った通りなかなか情報が手に入らなかったのです」 そこで御台所様はフフッと笑われたので、私は苦笑いをした。


 「あなたが御中臈の見習いとして、この大奥の中に入ってくることを私は楽しみにしていました。いい意味でも悪い意味でも・・・あなたは、上様のことを一番に考えて大切にしているということがわかるにつれて、私はあなたが羨ましいと思い始めました」


 「御台所様・・・」


 「私は上様の辛さを理解し、解放して差し上げることは出来なかった・・・あなたは、正面から上様に本音を言い、上様のお心を和らげていって・・・」 御台所様は少し沈んだお顔をされた後、パッと明るく笑われて私を見られた。


 「あっ だからといって、今さら上様と愛し合う仲になりたいわけではないの・・・今度、そんな方と出会うことが出来たなら、私もあなたのようにしてみたいと思っただけですよ。ただ、やはり差配を振るうことの方が向いているのかもしれませんが・・・」 御台所様の本音がどこにあるのか私はわからなかった・・・御台所様自身もおわかりではないのかもしれない・・・と私は頭の中で考えていた。


 「お里、あなたがここへ来た時のことを教えてくれないかしら? 私は少し話疲れてしまったみたいだわ」 と御台所様がおっしゃった。


 「気付きもせず、申し訳ございません。失礼ながら、私の話をさせて頂きます」 私がそう言って頭を下げると、御台所様は「楽しみだわ」 とおっしゃった後、笑顔で私の話を聞く体勢に入られた。

 私は自分がここへ来る前のことを順を追って話した。父のこと・・主人のこと・・ママ友のこと・・御台所様は時には一緒に辛そうなお顔をしてくださり最後まで話を聞いてくださった。


 「こちらの世界に来たことを理解するにつれて、私は自分を大切にして、自分らしく生きていきたいと思いました。その後、上様に見守られていたことに気付いたのです」 と私は話を締めくくった。


 「そう・・・何となくわかった気がします。上様とあなたはどこか境遇が似ているのね。上様はきっとあなたに自分を重ねておられた部分があるのでしょう。そして、愛するあなたが強くなる分、上様も強くなられたのかもしれません」 御台所様は、なるほどとうんうんと頷きながらおっしゃった。


 「ところで御台所様? いつから私が違う世界から来たことをご存知だったのでしょうか?」 と私は尋ねた。御台所様はニヤッとされて、今度はまた私が話す番だというように姿勢を正された・・・


ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

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