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一緒

 優は色んなお店に興味を持ったのか、指を差しては「なに?」 と上様に質問しっぱなしだった。上様は丁寧に「あれはご飯を食べる器だよ」 とか 「あれは野菜だ」 と答えられていた。ひと回りした後、お仲様のお店を遠くから見てみると先ほどよりも人が少なくなっているようだった。


 「行ってみるか」 と上様が言ってくださったので、私たちはお仲様のお店の方へと向かった。お店の前まで行くと、お仲様は私たちにすぐに気付いてくださった。


 「まあ う・・ 旦那様とお里様」 と言って近づいてこられると、優の顔を見て一段と笑顔になられた。


 「優ひ・・・優様でございますね。本当にお可愛らしいわ」 そう言われると優の前にしゃがまれて挨拶をしてくださった。優は、お仲様が頭を下げられると一緒に頭を下げた。お仲様はその姿を見て一段と明るい笑顔になられた。


 「お仲・・さん。お子を負ぶわれているのですね。お顔を見させて頂いてもよろしいですか?」 私がそう言うと「もちろんでございます」 と言って背中を向けられた。お仲様の背中で赤子はグッスリと眠っていた。上様も横から覗かれるようにして見られた。


 「お仲さん、良かったですね。無事にお子が産まれて」 私はもう一度お仲様の顔を見て言った。


 「はい ありがとうございます」 


 「お仲、おめでとう」 上様もそうおっしゃったので、お仲様は頭を下げてお礼を言われた。


 「お里様、旦那様、よくお越しくださいました」 そう言って中から千太郎さんが出て来られ挨拶をされた。千太郎さんはご自分が今話されているのが上様だとはご存知なかった。上様は笑顔で会釈をされた。


 「良かったらお店を見ていってください」 お仲様がそうおっしゃったので、私たちは並んでいる商品を見せてもらうことにした。優は、すでに並んでいるものに興味津々で必死で背伸びをして棚を見ようとしていた。上様は優を抱っこされ、優が見やすいようにしてくださった。優は端から端まで目を輝かせて商品を見ているようだった。そして、赤いお花のついたかんざしに目を止めると「うえ、うえ・・・これ」 と言って指を差した。


 「ん? これがいいのか?」 と上様が聞かれると うん と大きく頷いた。


 「まあ 優様のお気に入られたものがございましたか?」 お仲様はそれを取って優に渡された。優はそれをギュッと握ってからもう一度それを眺めていた。


 「優、気に入ったのか。なら、父上が買ってやろう。お仲、これをくれるか?」 上様がお仲様におっしゃった。お仲様は首を振って、優の顔を見られた。


 「優様、これは私からの贈り物でございます」 そう言って微笑まれた。「いや、でも・・・」 と上様がおっしゃると、お仲様は 「ご迷惑でなければ、私から贈らせてください」 とおっしゃった。上様はそれ以上は言われず「ああ ありがとう」 とお仲様にお礼を言われてから「優、良かったな。お礼を言いなさい」 と優におっしゃった。優は「ありが・・ます」 と言ってお仲様に頭を下げた。


 「本当にお可愛らしい」 お仲様はそうおっしゃった。


 「お仲、申し訳ないがこれと同じものをもうひとつもらえるか? それのお代はきちんと取ってくれ」 上様がお仲様にそうおっしゃると、お仲様はニコリと笑って応じられた。上様は私に優を預けらて、お金を支払われるとかんざしを私に渡してくださった。


 「これは私からお里への贈り物だ」 とおっしゃった。私は、お仲様の前で恥ずかしい気持ちと嬉しい気持ちでそれを受け取り「ありがとうございます」 と言った。優は自分と一緒だというみたいに自分のかんざしを私に見せた。


 「一緒ですね」 私も優にかんざしを見せてそう言った。


 帰路につく頃、優は上様に抱っこされたまま眠ってしまった。人気が少なくなった道まで来ると、後ろから菊之助様が追い付かれ、優を抱っこしてくださった。上様は優を預けられると、今度は私の手を取られた。


 「お里、こうやって歩くのもいいだろう?」 上様が微笑みながら私を見られたので私も微笑んでから頷いた。


 「上様、今日は本当に楽しかったです。ありがとうございました」 私は歩きながら上様にお礼を言った。


 「優も本当に楽しそうだったし、お里も喜んでくれたなら来てよかった」 上様はそうおっしゃりながら、握っている手に力を入れられた。私もその手を握り返した。ふと恥ずかしくなり、後ろをチラッと見ると平吉さんとおぎんさんも追い付かれていて平吉さんが彦太郎さんをおんぶされていた。おぎんさんとおりんさんは並んで歩かれていて、私と目が合うとニッコリと笑われた。


 「上様、こういうふうに皆さんで一緒に笑っていたいですね」 私は今後ろを歩いておられる方々に守られていることを改めて感じながらそう言った。


 「ああ そうだな」 上様は優しいお顔で笑われた。


 菊之助様のお屋敷まで着くと、優が起きるまで少し寝かせてもらうことにした。優と彦太郎さんを並べて寝かせても、二人とも起きる気配が全くなかった。


 「余程、疲れているのかしら? よく眠っていますね」 私がおりんさんに言うと「本当に。彦太郎もはしゃいでいましたので・・・ 楽しかったですね」 とおりんさんが言われた。


 私たちが居間の方へ移動するとおぎんさんがお茶を用意してくれていた。


 「どうだ? よく眠っているか?」 上様が尋ねられた。


 「はい はしゃいで疲れているのでしょう」 と私が言うと「初めて見るものに興奮していたからな」 と上様は何かを思い出されたのかクスッと笑われた。


 「お里は疲れていないか? 足は大丈夫か?」 と上様が心配そうにされたので「はい 私は大丈夫でございます。上様の方が優をずっと抱っこされていてお疲れになられたのではないですか?」 と聞いた。


 「私も大丈夫だよ」 優しくおっしゃった。私が微笑んで頷くと、周りの皆さんの視線に気が付いた。


 「あっ 二人で話をしてしまいました。最近は、上様と二人きりのことが多くて・・・」 と私が少し俯くと皆さんがクスクスと笑われた。


 「上様とお里様はいつまでたっても変わられないですね」 とおりんさんが笑顔でおっしゃった。


 「そら そうだ。お里はますます綺麗で可愛くなっていくのだから心配なくらいだ」 と上様がおっしゃった。私は何も言わずに下を向いておくことにした。


 「いやあ 本当にお二人のお傍にいると、心が穏やかになるとおぎんがいつも言っているのがわかります」 と平吉さんが言われた。その横でおぎんさんが微笑まれていた。


 「お二人はきっとこの先も変わられませんよ。私たちもお二人のお傍でずっとつとめていきたいです」 と菊之助様がおっしゃると、皆さんが頷かれた。


 「ああ これからも頼んだぞ」 と上様が皆さんにおっしゃると、皆さんは黙って頭を下げられた。なんだかしんみりとした空気の中、張り裂けるような泣き声を出したのは彦太郎さんだった。


 「まあまあ」 と言っておりんさんは走ってお部屋を出て行かれた。きっと、優もすぐに起きてしまうだろうと私もおりんさんの後を付いて行った。

 二人が寝ている部屋に行くと、優は起きていた。どうやら、彦太郎さんを起こそうと体を揺すっていたみたいで、眠たい彦太郎さんは機嫌を悪くしたようだった。おりんさんが彦太郎さんを抱き上げられると、私も優を抱き上げた。


 「優、彦太郎さんに意地悪をしては駄目よ」 と私が言うと、優はニッコリと笑った。


 「優姫様は彦太郎を起こそうとしてくださったのでございますね」 とおりんさんが優に話しかけられると優は うん! と大きく頷いた。

 私たちが居間に戻ると上様は優をご自分の膝の上に乗せられた。


 「どうやら、優が彦太郎さんを無理に起こそうとしていたみたいで」 と私が言うと「それは彦太郎に悪いことをしてしまったな」 と上様が彦太郎さんの頭を撫でられた。


 「お里殿お気になさらないでください。これくらいで泣いてしまうとは、彦太郎もまだまだでございます」 と菊之助様がおっしゃった。


 「菊之助は彦太郎に厳しいのう」 と上様はもう一度彦太郎さんを見られた。彦太郎さんは何を言われているのかわかっていないようで、上様の笑顔につられて機嫌を直したようにニッコリとした。


 「うえ うえ」 と優は上様に呼びかけ、帯にさされていた先ほどの赤いかんざしを指さした。優が寝てしまったとき、手に持っていては危ないので上様がご自分の帯にしまわれていたのだった。


 「おお これか」 上様はそのかんざしを優に手渡された。優は満足そうにそのかんざしを持って眺めていた。そして私の方を見て「おと いっしょ」 と言って、かんざしを私に見せた。私もかんざしを取り出して「一緒ですね」 と言った。


 「なんと 可愛らしい」 私たちの様子を見て平吉さんがそう言われた。


 「平吉、それは優がか? お里がか?」 と上様がおっしゃった。平吉さんは「えっ?」 と言われ何と答えていいかわからないようなお顔をされた。横でおぎんさんが笑われて「上様、そのようなことをおっしゃるのは菊之助様だけにしてくださいませ。平吉は上様の嫉妬には慣れておりませんので」 と言って軽く頭を下げられた。


 「はい・・・勘弁してください」 と平吉さんも言われた。


 「別に私は慣れてなどおりませんが・・・」 と菊之助様がおっしゃると、皆さんが一斉に笑われた。優も彦太郎さんも大人たちが一斉に笑い出したので、つられて一緒に笑っていた。


ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

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