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嬉しい再会

 城に続く坂を少し下ると、いくつかの橋を渡る・・・その度に何人かが車の後ろに回られ車を押されているようだった。


 「お里、優は眠そうだな」 上様が隣から優を覗きこまれておっしゃった。


 「揺れが気持ちいいのでしょうか・・・」 私も優がウトウトとする顔を見て言った。


 (子供って乗り物に乗ると眠たくなるみたいだわ。そういえば陽太も車に乗るといつも眠っていたわ)


 「私が変わろう」 上様はそうおっしゃると、優を預かってくださった。優は愚図ることなく、上様の腕の中におさまると更に気持ち良さそうにしていた。

 町の中に入ると、車は一定のリズムを刻み始めた。優は本格的に眠り始めたようだった。外を見ると、通りを歩いている人たちが見え始め車を珍しそうに見ると道の端へ寄られた。


 「どこかの大名様かしら?」

 「珍しい車だねえ・・・」

 「公家の方じゃないか?」 など口々に噂をする声が聞こえてきた。


 「ここら辺は以前の町と変わりないようですね」 私は上様に言った。


 「ああ 比較的大きな屋敷が多いところだからな。そんなに大きな被害はなかったようだ」 


 町を進み、狭い道の方から大工仕事をする音が聞こえてきた。カンカンカン・・・と金槌で釘を打つ音や、「もっとこっちだ!」 と指示する声が聞こえてきた。そちらの方へ目をやると、大きな戸板を運んだり、畳を運んだりしている人が目に入った。


 「ここらの細い通りには長屋が建っているんだよ。まだ住める状況にはなっていないようだが、間もなくのようだな」 と上様がおっしゃった。

 車でギリギリ通れるくらいの道の先には大きな広場のようなものがあった。そこには、大きな掘っ立て小屋のようなものがあり、その外で女性が火を焚き何か大きなお鍋で料理をしているようだった。


 「ここで、まだ家に住めない方が暮らしておられるのですね」 私は地震が起きたときに仮設住宅のようなものを作れば・・・と上様にお話をしたことがあった・・・上様は実現されていたようで嬉しかった。


 「ああ 始めはもっと沢山のものが住んでいたみたいだが、少しずつ自分の家が建ったものから出て行っているようだ。だけど、昼間はここへ来て、みなで集まって話をしたりして憩いの場となっていると報告を受けている」 と嬉しそうにその様子を見られておっしゃった。


 「みなさんで協力されているのは素敵なことでございます。上様のおかげでございます」 私はそう言って上様に微笑んだ。

 しばらく進むと、お店が並んだ通りに出た。ここには、お仲様のお店があるはずだと私は何度か通った道を思い返した・・・そう、上様の噂を確かめに一人で通った道でもあった。まだお店を開けていないところもあるようだけれど、町の人たちが買い物をしたり、道端で話をしたりする姿が目に入った。お仲様のお店を通る時には、何人かのお客を相手にされている千太郎さんの姿が見えた。お仲様の姿が見えなくて残念だったけれど、無事にお店を再開されていることを目にして安心した。


 「千太郎さんがいらっしゃいましたね」 私は嬉しくなり上様に言った。


 「ああ 無事に店も再開しているようだな。だいぶ、賑わいが戻っているようだ」 と微笑みながらおっしゃった。どこも、まだ復興途中のところもあったけれど、町は徐々に以前のような形を取り戻しているようで上様は安心したとおっしゃった。私も「そうでございますね」 と返事をした。


 「お里、そろそろ戻るぞ」 と上様がおっしゃったので、「はい、一緒に連れてきてくださりありがとうございました」 と言った。上様はニコッと笑われた。戻りの道の途中、川沿いを通っている時に塀側に車を寄せられて止まった。私は何かあったのだろうかと上様の方を見た。上様はまたニコッと笑われた。


 「お里様、こちらの扉を開けさせて頂きます」 と外からおぎんさんの声が聞こえた。もう一度上様を見ると、上様は頷かれたので私は「はい」 と返事をした。

 おぎんさんが「失礼いたします」 と扉をゆっくりと開けられると・・・そこにはお仲様が立っておられた・・・


 「上様、お里様、お久しぶりにございます。おかねさんがお声をかけてくださり、こちらまで連れてきてくださいました」 そう言ってお仲様は頭を下げられた。


 「お仲、くるしゅうない。お里もお前のことを心配しておったからな・・・」 とまず上様がお声をかけられた。


 「はい ありがとうございます」 お仲様が答えられた。


 「お仲様、お元気でございましたか?」 私はお仲様のお顔を見れたのが嬉しくて笑顔で聞いた。


 「はい 元気でございました」 お仲様も笑顔で答えてくださった。その時、優を抱っこされていた上様が私に優を預けられた。私は上様にお礼を言ってから、優をお仲様に見えるように抱っこし直した。


 「まあ よくお眠りでございますね。お可愛らしいこと・・・眠られていてもわかります。上様、お里様おめでとうございます」 優をじっくりと笑顔で見られてから、顔を上げてお祝いの言葉を言ってくださった。


 「ああ ありがとう」 


 「ありがとうございます・・・あの、私がお仲様に上様のお子を見せるのは少々気が引けるのでございますが・・・」 私は上様に続いてお礼を言ったのだが・・・よく考えれば、元側室のお方に子を見せてお祝いを言って頂いている状況が不思議な感じがした。


 「まあ お気になさらないでください」 とフフフと笑ってから、お里様は相変わらずでございますねと言われた。


 「私は今の生活が幸せなのでございます・・・それに私も・・・じつは・・・」 とお仲様は少し恥ずかしそうにされた。


 「もしかして? お仲様も?」 私はすぐにピンときた。


 「はい・・・以前子を産めなかったものですから、2度と授かることは出来ないと思っていたのですが・・・上様、お許しくださいませ」 お仲様は以前無事に子を産めなかったことを上様に謝られた。


 「お仲・・・今度は無事に子が産まれることを祈っている。体を大切にな」 上様は優しい笑顔でおっしゃった。


 「勿体ないお言葉・・・ありがとうございます」 お仲様は頭を下げられた。


 「お仲様、私も無事にお子がお産まれになることを祈っています」 私もお仲様に言った。


 「お里様、ありがとうございます。本当にお会いすることが出来て嬉しかったです。上様、ご配慮感謝いたします」 お仲様がそう言われたのを上様は笑顔で頷かれた。


 「では、そろそろ・・・」 とおぎんさんが言われたので私はもう一度「お仲様、お元気で」 と笑顔で言った。お仲様は幸せそうな笑顔を私に向けてくれた。

 扉が閉められ、車が動き出した・・・


 「上様、本当にありがとうございます。お仲様にお会い出来るなんて・・・嬉しかったです」 私は優を抱きながらお礼を言った。上様は、もう一度優を預かってくださった。


 「お里が喜んでくれたなら良かった・・・お仲も幸せそうで、良かったな」 上様が笑顔でおっしゃったので、私も「はい」 と言った。


 「始めから、お仲様に会わせて頂けるつもりで今日はお誘い頂いたのですか?」 と私は聞いてみた。


 「いや、本当に町は見にいくつもりだったのだよ。そのときに、丁度お仲から手紙が来てな・・・お里が優を会わせることは叶わないと言ったとき・・・私は咄嗟に叶えてやりたいと思った・・・」 上様はそこで私と目を合わせられると微笑まれた。


 「ありがとうございます」


 「それに・・・お里が優を会わせたいと急に思い立って城を抜け出されたらたまらんからな」 とおっしゃると今度はニヤッと笑われた。


 「そんなことはいたしません」 と私は即座に否定した。


 「ははは  わかっておる」 上様は声を出して笑われた。その声に優が少し動きだしたのを、上様は「優、驚かせたか? すまん」 とおっしゃり優の背中をポンポンと優しく叩かれた。私は急に上様にキスをしたくなり、そっと上様の方に近寄り頬にキスをした。


 「お里?」 上様は少し驚かれたように私を見られた。


 「上様のお気持ちが嬉しくて・・・」 と私はそう言いながら下を向いた。


 「そうか・・・」 上様も珍しく照れられたように下を向かれた。しばらくそうしていた後、私たちはそっと顔を上げて目を合わせてから声を抑えて笑いあった。


ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

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