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嫉妬の原因

 お清様はしばらくすると「それではまた段取りが整いましたらご連絡します」 とご挨拶をされてお部屋を出て行かれた。


 「優は婆が沢山おるのう」 上様がニコニコされておっしゃった。


 「婆とは、私も入っているのでございましょうか?」 ギロッとおぎんさんが上様を睨まれたので、上様は「いや、そういうわけではない・・・ほら・・・お常もそうであろう・・・」 としどろもどろになられた。おぎんさんはその様子を見てクスッと笑われた。


 「そういえば上様、先ほどお部屋に来られる前なのですが・・・彦太郎が優姫様のお手を取ったのでございますよ」 本当は怒ってなどおられないおぎんさんは思い出したように話題を変えられた。


 「ほう・・・どういうことだ?」 上様は興味を持ってきかれた。


 (このお話、すすめて大丈夫かしら? 上様が嫉妬をされるかもしれないわ)


 私は少しドキドキして話の成り行きを見守った。ここで、私が話を遮るのは余計にややこしくなりそうだったから・・・上様のフォローをする準備だけしておこうと思った。


 「彦太郎が優姫様を見て、手を妙に動かすものですから優姫様の元へ連れていったのです。すると、彦太郎は優姫様の手を掴み、手の甲に口を付けたのです。本当におどろき・・・」 おぎんさんはそこまで言うと、あっというお顔をされた。周りを見ると、菊之助様とおりんさんも顔面蒼白になっておられた。私は、上様の様子をそっと窺った。上様は無表情で何を考えておられるのか珍しくわからなかった。


 「そうか・・・で、お優はそのときどうしたのだ?」 上様が尋ねられた。


 「はい、嫌がる様子もなく彦太郎さんの方を見ているようなかんじでございました」 おぎんさんが黙ってしまわれたので、代わって私が答えた。


 「ほう・・・彦太郎はお里のお腹にいるときから優に話しかけておったからのう・・・やっと会えて嬉しかったのだな」 そう言って彦太郎さんの方を見て、微笑まれた。彦太郎さんは上様と視線が合うとニコッと笑った。


 「彦太郎、やはりそうか・・・これからも優と仲良くしてやってくれよ」 と笑顔のままおっしゃった。私たち4人は唖然として上様を見ていた。


 「どうした?」 上様が不思議そうなお顔をされて、私たちを順番に見られた。


 「あの・・・上様、彦太郎が勝手に優姫様に近付きお手を取ったなどと・・・失礼いたしました」 菊之助様がかしこまって頭を下げられた。


 「菊之助、何を気にしている。これから二人は一緒に過ごすことも多かろう。それくらい大したことない。いちいち気にしておっては、一緒に遊ばすことも出来ぬぞ」 と菊之助は何を言っているのだというかんじでおっしゃった。


 「はい・・・ありがとうございます。 上様は嫉妬をしてお怒りになられるのではと・・・」 菊之助様が私たちが唖然としている理由を話された。


 「私が誰に嫉妬をするのだ?」


 「あの・・・恐れながら、彦太郎に」 菊之助様は言いにくそうにおっしゃった。


 「優がもし泣いて嫌がったのなら咎めないといけないかもしれないが、優はどちらかというと嬉しそうだったのならいいではないか。何を嫉妬することがあるのだ」 


 「はあ・・・それでは上様? もし、彦太郎がお里様の手の甲に口を付けたとしたらどうですか?」 おぎんさんが尋ねられた。


 「それを咎めるわけにはいかないが・・・子供がすることだからな・・・2歳までなら黙っていよう」 と真剣なお顔でおっしゃった。すると、おぎんさんとおりんさんが声を出して笑われた。


 「上様、わかりました」 おりんさんがポンと手を打って言われた。


 「何がわかったのだ?」 


 「上様が嫉妬をして気分を害されるのはお里様が絡まれたときだけなのでございますね」 とおりんさんが言われた。上様はおりんさんにそう言われて、しばらく考え込まれた。


 「んー そうなのかもしれんなあ・・・お里が優の世話をしているときなんか、羨ましいと思うことがあるからなあ。私もお里にかまって欲しいと思いながら見ていることもある・・・」 上様がそうおっしゃると、おぎんさんとおりんさんは「まあっ それは大変でございますね。優姫様」 と私が抱いている優を見ながら言われた。


 「上様はそんなことを思っておられたのですか?」 私は驚いてそう言った。


 「ああ 仕方がないだろう、そう思うのだから・・・でも、優を世話しているお里を見ているのも癒されている」 そうおっしゃると私の方を見て微笑まれた。


 (久しぶりに皆さんがいらっしゃるところで・・・)


 「・・・・」 (やはり皆さんが無言です)


 「キャッキャ  アウー」 そのとき彦太郎さんが沈黙を破るように大きな声を出した。私たちはそこでプッと吹き出して大笑いをした。とても賑やかなひと時だった。


 (やはり、このお方たちと一緒にいると私は安心して過ごすことが出来るわ)


 夜、布団に入って私は昼のことを思い出し上様に尋ねてみた。


 「今日は、お清様はわざわざ御台所様に挨拶に行くかどうかを尋ねにきてくださいましたね。いつもなら、上様から予定をお聞きしますのに」


 「ああ お清もお里に会いたかったのだろう。優にもな・・・」 今はゆっくり優が寝ている時間なので上様は私を抱きしめながら話された。


 「それは嬉しいですが・・・私は変わらない、とはどういうことだったのでしょう」 私はお清様が呟かれた言葉の意味がわからなかった。


 「そのことか・・・実はな、側室たちは自分が子を産むまでは後継ぎになんて考えてもいない、この子が無事に産まれれば・・・と言うもの達もいる」


 「私もそう思っておりました。ですから、御台所様とお約束いたしました。政には関わらせないと・・・」


 「ああ でもな、無事に子が産まれるともしこの子が将軍になれば・・・将軍にはなれなくても少しでも名誉ある役職に就かせたい・・・などと思い始めるのだ」


 「そんな・・・」


 「お里にはわからないだろうな」 上様は微笑まれた。


 「それで子がいない御台所よりも自分の方が上だと思い、挨拶にいかなかったり・・・自分は私に寵愛されているのだから、是非私と一緒に御台所に挨拶にいきたいと言い出したりするものもいるらしい・・・まあ そういうやつはお清からこっぴどく説教をされるらしいがな」 今度は苦笑いをされた。


 「それでお清様はあのような聞き方をされたのですね?」 私は上様のお話を聞き納得した。


 「ああ お里は子が産まれても御台所を大事にする気持ちに変わりはなかったと・・・まあ初めからわかっていただろうが、一応聞いてみただけであろうな」


 「私はここで上様と優と一緒にいられる時間は御台所様に与えて頂いたものだと思って感謝しております。だから、今後御台所様のお役に立てる機会があれば精一杯つとめたいと思っています」 


 (私はここで好きにしてもよいと言ってくださった御台所様のお気持ちには頭が下がる思いでいつもいる・・・)


 「そうだな・・・その時はたのんだぞ」 上様は私の頬を撫でられて嬉しそうに笑われた。


 「お里は子を産んで母になっても、可愛いのだな」 上様はそうおっしゃるとそっとお顔を近付けて来られた・・・


ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

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