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久しぶり

 夜遅く上様と菊之助様が帰って来られた。平吉さんも一緒だった。


 「おかえりなさいませ」 私たちは頭を下げて出迎えた。


 「ああ お前たち、今日以上に遅くなることもあるのだから先に休んでいてもいいのだぞ。特にお里、お前は体をいたわらないといけない」 上様は少し厳しくおっしゃった。


 「休もうと思いながら、3人で話をしているとつい楽しくて・・・」 と私が言ったのを、上様は呆れたように笑われた。


 「またそうやって言うのだな? お里、お前の考えはわかっている。だけど、本当に先に休んでくれてかまわないのだぞ」 上様は今度は優しくおっしゃった。


 「はい」 私たちは笑いながら返事をした。


 上様は、お部屋に入られるとすぐにお着替えをされた。きっと、お疲れなのだろう・・・私は布団をめくりすぐに入られるように用意した。上様はすぐに布団に入られた後、私を抱き寄せられた。


 「ああ 今日は疲れた・・・」


 「お疲れ様でございます」


 「お里に癒されながら寝ることにする」 とおっしゃり、少し力を入れられて抱きしめられた。私はフフッと笑って、上様の頬をなでた。上様は気持ち良さそうにされ大きく息を吐かれた。


 「お里は今日は一日、何をしていた?」 上様が尋ねられた。


 「今日は彦太郎様と遊んでおりました・・・それから、お昼からはおにぎりを沢山作りおぎんさんに近くの方に配ってきて頂きました」


 「そんなことをしていたのか・・・お前たちらしいな。菊之助にまた米をこっちへ持って帰るように言っておこう」 上様は怒られることなくおっしゃった。


 「ありがとうございます」


 「私も一日色々と段取りをしたよ。役人たちをある程度動かして町が一日でも早く元に戻るようにしたいと思っている」


 「素晴らしいことだと思います。上様がそのように動いてくださることを、町の皆さんはきっと感謝されることだろうと思います」 私は上様が困っている方のために動いておられることが頼もしく嬉しかった。


 「ああ ありがとう」 今度は上様が私の頬を撫でられてキスをされた。上様はそのまま眠られたようだった・・・それから5日間ほど、上様は遅くに帰って来られた。いつもお疲れのようで、布団に入られてはすぐに眠られるというかんじだった。眠りに落ちられる前には必ず今日あったことを報告してくださった。寺をお匙が回り治療をしてくれていること、米や野菜を手配し被害のあった各集落ごとに配られたこと、ほとんどの仮の建物が完成しつつあること・・・など。

 その日も寛ちゃんは遊びに来ていた。最近は、私と寛ちゃんと彦太郎さんの3人で遊ぶことが増えた。寛ちゃんはいつも笑顔で私にも話しかけてくれた。その日は、彦太郎さんが愚図っていたので眠たいのかと思い、膝の上において寝かしつけていた。寛ちゃんもその横に寝転んで彦太郎さんをあやしてくれていた。しばらくすると、同時に二人ともが寝息を立て始めた。おりんさんはクスクスと笑われ、近付いて「お里様、お疲れでございましょう? こちらに」と彦太郎さんを受け取ろうとしてくれた。


 「いえ、せっかく眠ったところですからこのままで大丈夫でございますよ」 と私が言うとおりんさんは頷いて掛けるものを持って来られ、彦太郎さんと寛ちゃんにそれぞれかけられた。寛ちゃんは、安心しきった顔で寝ていた・・・その寝顔はとても可愛かった。私は寛ちゃんと彦太郎さんの背中を同時に両手でポン、ポンとリズム良く叩いていた。そのとき、玄関から上様と菊之助様の声がした。おりんさんが玄関まで飛ぶように行かれて、「今眠ったところですので・・・」と言われた。上様と菊之助様は声を発することなく居間に入って来られた。私の姿を見て、目を丸くして驚かれたのは上様だった。


 「この子は?」 上様が小声でおりんさんに聞かれた。


 「はい 近所の子でございます。時々遊びに来てくれるのですが、最近はお里様と彦太郎と3人で過ごして頂くことが多くて・・・今日は初めてあのように眠ってしまったのです。余程、お里様の横が居心地がいいのですかね」 とおりんさんが言われた。


 「素性もわかっております。家の手伝いもよくするとてもいい子でございます」 と菊之助様もその後に付け加えられた。


 「そうか・・・」 上様はブスッとしたお顔でおっしゃった。


 「上様、お疲れでございますか?」 私が小声で聞くと「いや そんなことはない」 とだけおっしゃった。私の声に気付いたのか、寛ちゃんが目を覚ました。そして、自分が寝ていたことに気付き「すみません。寝てしまいました」 と謝った。


 「そんなことは気にしなくてもいいのよ。あなたも疲れているのですね」 私は寛ちゃんの背中をさすりながら言った。


 「いえ 大丈夫です」 寛ちゃんはそう言って周りを見渡した。


 「お邪魔させてもらっています」 菊之助様に向かって挨拶をされた。


 「ああ かまわないよ。今日も彦太郎と遊んでくれていたのか?」 菊之助様は優しくおっしゃった。


 「はい、お里お姉さんに遊んでもらいました」 と笑顔で寛ちゃんは答えた。そして、上様のお顔を見られた。


 「はじめまして・・・寛吉といいます」 と言って上様に頭を下げた。


 「ああ」 上様はそれだけ言われた。


 「寛ちゃん、私の旦那様ですよ」 と私は寛ちゃんに言った。


 「そうなんですか」 寛ちゃんは笑顔で私と上様を順番に見ていた。


 「長くお邪魔してすみませんでした」 そう言って、寛ちゃんは帰ろうとしたので、私は「寛ちゃん、また遊びましょうね」 と笑顔で言うと「はい」 と笑顔で返事をしてから玄関に向かって行った。

 寛ちゃんを見送って戻って来られたおりんさんが、彦太郎さんを受け取ってくれた。私は改めて上様の前に座り「上様、おかえりなさいませ」 と頭を下げた。


 「ああ 今日はひと通り段取りが済んだので、ゆっくりと過ごそうと思って早くに帰ってきた」 とおっしゃった。


 「そうですか。それは嬉しいです」 私が笑顔で言うと、上様は微笑んでくださった。おぎんさんは食事の支度に取り掛かっておられたので、私も手伝いに台所まで行った。


 「お里様、今日はせっかく上様が早くにお戻りなのですからお傍にいて差し上げてください」 とおぎんさんが言われたので、私はそうすることにした。上様の隣に行って、お茶を淹れた後横に座らせて頂いた。


 「ひと通り段取りが終わられたのですね」 私は上様に話しかけた。


 「ああ 後は役人たちが先頭に立ってやってくれるだろう。私は報告を聞いて、必要なときだけ指示を出す」 上様が説明をしてくださった。


 「とりあえず、今までの段取りお疲れ様でございました」 私はそう言って改めて頭を下げた。


 「ああ ありがとう」 上様はそう言ってニコリと笑われた。すると、おりんさんから菊之助様に預けられた彦太郎さんが泣き出し始めた。菊之助様は何とかあやして泣き止まそうとされたけれど、泣き声は大きくなりつつあった。私は菊之助様から彦太郎さんを預かり、上様の横まで戻ってあやし始めた。すると、ゆっくりと泣き声が止んだ。


 「もうお里様にすっかり懐いているのですね」 と菊之助様が頭を掻きながらおっしゃった。


 「ええ 私と言うよりはこのお腹の子と仲が良いのです」 そう言って、彦太郎さんを私のお腹の前まで持って行くと「ほら、彦太郎さん。遊びましょうか」 と言った。すると彦太郎さんはいつものように私のお腹に口を付けて、ゴニョゴニョと何か言ったかと思うとキャッキャと声を立てて笑った。しばらく、上様と菊之助様はその様子を見られていた。


 「何か会話をしているようでございますね」 と菊之助様はおっしゃった。


 「そうでございましょう?」 私はそう言って、彦太郎さんと一緒に笑った。上様はその様子をジッと見られていたけれど特に何もおっしゃらなかった。

 その夜は久しぶりにみんなで食事をとることが出来た。話題は主に町の様子やお城の中の様子のことだったけれど、全員で揃って食事を出来たことが嬉しかった。途中で平吉さんも合流された。

 食事を終え、今日は早めに休もうということになった。おぎんさんは久しぶりに家に戻って休むようにと上様がおっしゃったので、平吉さんと一緒に家の方へ戻られることになった。

 上様と私はお部屋で二人で過ごした。


 「上様、今日はゆっくりとお休みくださいませ」 そう言って先に布団に入られていた上様に頭を下げた。すると上様が私の膝の上に頭を乗せられた。


 「お里、少しだけいいか?」 上様がおっしゃったので「もちろんでございます」 と言って足だけ崩した。私が妊娠をしてから上様は膝枕をして欲しいと言われなかった。きっと、私の体を気遣ってくださったのだろうと思っていた。だから、今日は珍しいなと思っていた。

 私は上様の頬をゆっくりと撫でた。上様はその手を取って尋ねられた。


 「お里、私は変か?」 


 「変? というのは?」 私はどういうことかわからなかった。


 「家に戻ったとき、寛吉という子がお里の横にくっついて寝ているのを見て腹が立ったのだ」 上様は少し拗ねたようにおっしゃった。


 「まあ 寛ちゃんは子供でございますよ」 


 「ああ わかっている。でも腹が立ったのだ。それに、彦太郎がお前のお腹に口を付けているのを見ても、胸がモヤモヤしたのだ」


 「えっ?」 私は驚いた声を出した。


 「やっぱり変か?」 上様は少し落ち込まれたように言われた。


 「変かどうかはわかりませんが、それが上様ですから仕方ありませんね」 私は少し笑って言った。


 「そうか・・・だからと言って、それを辞めてくれと言うわけではないんだよ」 


 「はい わかっております」 私はそう言ってもう一度上様の頬を撫でた。


 「きっと、最近お里と一緒にいることが少なかったらかもしれない・・・」


 「そうでございますね。上様は町の皆様のために頑張っておられましたから、今日は久しぶりに長い時間を一緒に過ごせて嬉しく思います」


 「そうか・・・お里もそう思ってくれるか?」


 「はい もちろんでございます」 私がそう言うと上様は起き上がられ私を布団にゆっくりと寝かせられた。そして、ゆっくりと優しくキスをされた。


 「おさと・・・」 そうおっしゃりながら、何度もキスをされた。久しぶりに甘い甘い時間となった・・・


ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

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