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一緒に

 御台所様がお座敷から出て行かれると、お清様が声をかけてくださった。


 「お里、体の方は大丈夫ですか? あまり長時間の正座はいけませんよ」 


 「はい 大丈夫でございます。それよりも、少し緊張が解けてまいりました」 私はお清様を見てホッとした顔をした。お清様も笑顔で頷いてくださった。


 「あなたと上様がそのお腹の子をどのように育てるのかは、これからじっくりと考えればよいのです。御台所様は上様が家臣の方や大奥の中の者たちへ優しく気遣いをされるようになったのはあなたのおかげだと感謝されています。ですから、今まで通り上様が心を健やかに過ごされるようつとめなさい」 口調は厳しかったけれど、とても心のこもったお言葉だった。


 「はい」 私はお清様のお言葉を改めて心に刻みながら返事をした。


 「お里は私預かりということになりますから、私も時々様子を見に行かせて頂きますからね」 お清様はニコリと笑っておっしゃった。


 「ありがとうございます。よろしくお願いいたします」


 「それから、跡取りとは関係がないと言ってもあなたが上様のお子を身ごもったということは他の側室に知られることとなります。くれぐれも、周りには注意をするように・・・まあ 上様が一人で行動をするなど許されるはずはないとは思いますが・・・」 お清様はそうおっしゃると苦笑いをされた。

 お清様は私はここで失礼しますとのことだったので、帰りはおぎんさんと二人で廊下を歩いた。


 「お清様が私が待っている方の障子を少し開けておいてくださいましたので、お話を聞くことが出来ました」 おぎんさんは歩きながら言うと、私に笑顔を向けてくれた。


 「そうでしたか」 私は部屋に戻ったらもう一度話をするつもりだったので、手間が省けて正直助かった。自分の口からだと全てを話せるか自信がなかったから・・・


 「戻ったら少し休憩をされてから、お昼の食事にいたしましょう。朝は緊張からかあまり食がすすまれておられなかったみたいなので・・・」


 「はい 緊張が解けて安心したらお腹も空いてきたようです」 と私が言うと、おぎんさんは笑われた。


 部屋に戻って足を崩して座ると、大きなため息が出た。


 (自分でも知らないうちに、余程緊張していたみたいだわ)


 おぎんさんは、クスクスと笑いながら打掛を脱がせてくれて帯も緩めてくれた。


 「上様は本当にお里様にどうするおつもりかお話されていなかったのですか?」 おぎんさんが聞かれた。


 「はい いつもなら私にどうしたいかと聞いてくださるのですが・・・今回は御台所様と話すようにとおっしゃっていましたので・・・」 


 「そうでございますか」


 「でも それは御台所様に対しての上様のお気持ちなのだと知ることができました」 私は上様のそういうところを改めて見直したのだった。


 「お里様? お昼に上様はお戻りになるとおっしゃっていましたか?」 おぎんさんがお昼の用意をされながら聞かれた。


 「いえ、今日はお昼の食事は表で取られるとのことでした」 私は朝に上様がそうおっしゃっていたのを思い出して言った。


 「そうでございますか・・・でしたら、お昼を食べられたらすぐお部屋に来られるでしょうね」 おぎんさんはそうに決まっているという言い方をされた。


 「そうでしょうか?」 私は不思議に思って聞き返した。


 「はい 上様はお里様がどのようなお返事をされたのか、気になって仕方がないはずですもの・・・絶対に早くに戻って来られますよ」 そう言ってニヤリとされた。


 私がお腹が空いていたのをご存知だったおぎんさんは少し早めに昼食を用意してくれた。緊張から解放されたからか、私はいつもよりも多く食べておぎんさんを驚かせたほどだった。食事が終わり、お茶を飲みながら一服していると廊下から足音が聞こえてきた。


 「ね 言いましたでしょう?」 おぎんさんはそう言われて笑われたので、私も「ほんとうですね」 と言って笑った。


 「おお お里、食事は終わったか?」 上様は入るなりそうおっしゃってから、私とおぎんさんが笑っているのを見て ん? というお顔をされた。


 「上様、おかえりなさいませ。お昼はどうされたのですか?」 私はあまりにも早い上様のお戻りにお食事がまだなのではないかと思い聞いてみた。


 「ああ 済ませてきたよ」 上様はそう言いながら席に着かれた。


 「上様、私はおりんの様子を見てきたいと思いますのでしばらく席をはずさせて頂いてもよろしいですか?」 おぎんさんがそう言われた。


 「ああ たのむ。夕食はこちらで取るからゆっくりしてきてもいいぞ」 と上様がおっしゃった。


 「承知しました」 そう言いながらおぎんさんはフフフともう一度笑われた。そして、私に頷かれてからお部屋を出て行かれた。


 「何だか、楽しそうだったなあ」 上様は何がそんなにおかしかったのかと尋ねられた。


 「上様はきっとお昼過ぎに急いで戻って来られますと、おぎんさんが言われていた通りでしたので・・・」 私はもう一度笑いながら言った。


 「そうか・・・おぎんにはわかっていたのか・・・」 上様は少し照れながらおっしゃった。


 「はい、でも私は嬉しいです」 そう言って微笑んだ。


 「お里? 早速だが・・・どうであった? 御台所と話は出来たか?」 上様は窺うように尋ねられた。


 「はい、御台所様からこのお腹の子が今後政に一切関わらないというのであれば、今の生活を続けても良いとおっしゃいました」


 「ああ それで、お里はどのように答えた?」


 「はい、私は上様のお傍に今まで通りいられるのならその方がいいと申しました」


 「そうか」 上様はそこで頷かれた。


 「ですが、上様は本当にそれでよろしいのでございますか? 一人でも多くお子を持ち、周りの方に知らせないといけないのではないですか?」 私は上様に確認をした。


 「お里、私はお前と同じようにここで一緒に子を育ててみたいと初めて思った・・・でも、お前が側室となり、跡継ぎとしてその子を育てたいというならそれでもいいと思ってな・・・御台所にはお里が出した答えの通りしてくれと言っておいたのだよ」 上様は私の目をジッと見ておっしゃった。


 「ありがとうございます。私は幸せでございます」 上様はそこでもう一度頷かれた。


 「なら、今後もここで暮らし一緒に子を大事にしていこう」 上様は手を取って言ってくださった。


 「はい」 私も上様の手を握り返して、目を見て返事をした。上様はその手をご自分の方へ引き寄せられてから、私を抱きしめてくださった。


 「お里の思うようにすればよいと思っていたものの、お里が私と同じ考えでいてくれたこと・・・良かったと思っている」 上様は一度体を離して私の両肩を持たれて、そうおっしゃった後、優しくキスをしてくださった。私もですと言いたかったけれど、口を長く塞がれていたので、言葉にすることは出来なかった・・・


 (改めて、ここで上様と一緒に過ごしおぎんさん、お常さん、お清様に見守られて子を育てていけることを思うと嬉しさでいっぱいだわ)


 そんなことを考えながら、上様から伝わるお気持ちを受け止めていた・・・


ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

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