表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/233

嫉妬

今回は、少し長めのお話になってしまいました。

最後まで読んでくださると、うれしいです。

 籠が動き出すと、それまでの余裕がなくなった。結構揺れるもので、どこにバランスをおいていいか狭い籠の中で試行錯誤していた。上様は先の方でもう出発されているということだった。


 (朝は、上様にお会いできなかったな)


 と、少し寂しく思った。

 

とても長い時間が経ったような気がしたが、お昼の休憩をいたします。と、外から菊之助様が言われた。

 

 (まだ、お昼…日が高くなり少し暑くなってきたなと思っていたけど…新幹線ならとっくに着いているよね。本当に、昔はこうやって全て徒歩で進んでいたんだわ。文明の利器ってすごい)


 あらためて、昔の世界へ来たことを実感していた。


 籠がおろされると、戸が開いた。菊之助様が、跪かれて私の手を取ってくださった。


 「慣れないので、しんどかったでしょう? 大丈夫でしたか?」


 「はい。ありがとうございます。菊之助さ…菊之助」


 (やっぱり慣れない…)


 座っていた体を移動させ、履き物を履いて立ち上がろうとしたとき、一瞬フラッとした。あっ! 転んでしまう! と思った時、菊之助様が支えてくださった。ずっと、揺られていたので、まだ体がフワフワとしているかんじだった。


 「大丈夫でございますか?」


 「はい…なんとか」


 「移動はすぐそこまでなので、どうぞ私におつかまりください」


 と言われたので、ここはこけてしまってはいけないと思い、遠慮せずつかまることにした。菊之助様も私を気遣ってくださり、両手でしっかりと支えてくださった。

 少し歩いたところに、上様が座っておられた。私は、お声をおかけした。


 「上様…お待たせ致しました」


 「ああ…食事の準備が整っているようだ…」


 (ちょっと素っ気ないけれど…他の皆様がいらっしゃるから仕方ないですよね)


 「はい。ありがとうございます」


 そう言って、上様の後ろについていった。用意された部屋に入ると、食事を用意されていたのは2人分だけだった。私は菊之助様に支えられたまま席まで行くと、ゆっくり座った。

 上様も席に着かれた。すると、すぐに


 「菊之助、さがってよい」


 と、おっしゃった。菊之助様も


 「かしこまりました」

 

 と、すぐに部屋を出て行かれた。


 上様が私の方をみて、「疲れたであろう。少しの時間だがゆっくりするとよい」とおっしゃった。


 (いつもの上様だわ) 私は少しホッとした。


 「ありがとうございます。初めてのことで、あんなに揺れるものだと思いませんでした」


 「担ぎ手に問題があるのではないか? もっと揺らさぬよう丁寧に担げと言っておこう」


 「!!! いえ、上様…担ぎ手の方の問題ではないと思います。籠などに乗せて頂くことが初めてだったので、慣れないだけで…少しずつですけど、慣れていくと思いますので、このままで大丈夫です」


 「お里がそういうなら…何かあれば言うのだぞ」


 「はい。ありがとうございます」


 (あぶない あぶない…こんなことで、担ぎ手の方がクビになったら大変です。気を付けなければ)


 と、冷や汗をかいた。


 あまり食欲のなかった私を上様は心配してくださり、食事を終わられてからは私の隣に座って、

 「もたれるとよい。少し楽になるぞ」


 と、肩をかしてくださった。私も素直に甘えることにした。まだまだ始まったばかりの旅だから、少しでも休んでおこうと思った。


 休憩が終わり、部屋を出て玄関の軒下で上様と一緒に籠を待った。上様は心配そうに私を見られていた。


 「お里、大丈夫か?」


 「はい。だいぶ楽になりました。ありがとうございます」


 私の籠の方が遠いので、先に歩くことになった。すかさず、菊之助様が来てくださった。


 「お方様、まいりましょう」


 と、手を差し出してくださったので

 

 「ありがとうございます。菊之助…」


 と言ってから立ち上がった。


 「では上様、お先に行かせて頂きます」


 「ああ、また後ほどな」


 と、素っ気ない態度だった。


 (やはり、二人きりでないときはあのようにされるのだわ)


 籠まで、菊之助様に連れて行って頂き、先ほどと同じように乗り込んだ。昼からの移動は、少し籠の揺れにも慣れてきたことと、菊之助様が、籠の小窓を開けておいてくださったので気が紛れて楽になった。


 (初めて見る、大奥以外の景色…本当に山と川と田んぼばかりなのね。癒される…)


 さすがに、今日一日では到着しないことは私にもわかっている。夕方になると、もう少ししたら宿に到着いたしますと、菊之助様が教えてくださった。宿に到着すると、籠の戸が開いた。菊之助様に履き物を用意していただき、籠からおりた。


 「上様はもう、お部屋の方へ入られております」


 とおっしゃった。そのまま、宿の中に入り、上様のいらっしゃるお部屋と通された。

 部屋の襖を開けると、おぎんさんとおりんさんがおられた。

 

 「お里様、お疲れになられたでしょう?」


 「さあ、早くお座りになっておくつろぎください」


 と、お二人が労ってくれた。


 「ありがとうございます」


 と、席まで菊之助様に手を取って頂いたまま移動した。


 「上様、本日のご移動お疲れさまでした。後ほど、お食事を運ばせて頂きます。本日は、この後お二人でごゆっくりお過ごしください。明日はまた早朝に出立致したいと思います」


 と、菊之助様が報告された。


 「お前に言われなくても、二人でゆっくり過ごすわ」


 「はい」


 (なんだか今日は上様はいつもとちがうな)


 「用がなければ、さがれ」


 「承知しました」


 菊之助様は、私にも一礼してくださり部屋を出られた。


 上様は疲れておられるのだろうかと思い、尋ねた。

 

 「上様、お疲れでございますか?」


 「いや、そんなことはない」


 と、言われたので


 「そうですか…」 と、言っておいた。


 (いったいどうされたんだろう?)


 と、考えていたら、おぎんさんが


 「さあさあ、お里様このお着物ではゆっくりおくつろぎになれないでしょう?あちらで、もう少し楽なお着物に着替えましょう」


 と、隣の部屋に連れて行かれた。

 部屋の襖を閉められて、着替えをしてもらっているとき、おりんさんが


 「上様、こちらのお部屋に入られて、お里様を待っている間、ずっとぼやかれていらっしゃいましたよ」


 「???」


 私は何のことかわからず、おりんさんの顔を見た。


 「自分は、今日はお里に触れていないのに、菊之助はずっとお里にくっついているのか…手をずっと握っておったぞ! しかも、お里は菊之助と呼んでいた」


 と、上様の言い方を真似して言われた。


 (!!!!)


 機嫌が悪い原因はそれだったのかとわかった。


 「でも…それは…」 と、私が言いかけたとき


 「その理由もちゃんとわかっておいでですから、ハッキリと言われないのでございます。お里様も大変ですね。放っておかれればよいのですよ」


 と、おぎんさんに言われた。

 着替えが終わり、上様がおられるお部屋に戻った。


 「お待たせいたしました」


 「上様、私たちはこれで下がらせて頂きます。ごゆっくりされてください」


 「ああ、ご苦労」


 お二人は部屋から出て行かれた。


 (あの…さっきのお話を聞いてからなので、とても気まずいのですが…)


 私は座ったままどうしていいものか、オドオドしていると


 「お里、こちらへおいで」


 上様が優しくお呼びになった。


 「はい。失礼いたします」


 上様の隣に座ったが、何故か緊張してしまう…


 「お里とはいつもの部屋でしか会わないから、落ち着かないな」


 「はい。私もです」


 上様は、私の方を見てニコッと笑われた。私は、気になって仕方がないので、上様にお話しすることにした。


 「上様?」


 「なんだ?」


 「あの…昼間は慣れないことばかりで、菊之助様に助けて頂きました。でも、それで上様が気分を悪くされているのなら…」


 「そんなことか。お里が気にすることではない。私がただ勝手に拗ねているだけだ。菊之助も私の不機嫌の原因をわかった上で、サッサと下がったのだ」


 「はい…」


 「私もわかってはいるが、目の前で見るとな…」


 上様は、少し顔をしかめられてから、笑われた。


 「お里は、菊之助に手を取られて嬉しかったのか? また、こんなことを聞くと、子供みたいだな」


 「いいえ、そんなことはございません。私は、上様に手を取られたときだけ舞い上がってしまうのです」


 私は急いで言った。でも、すぐに顔を伏せた。


 (また、顔が赤くなってしまっている)


 「そうか。やっぱり、お里の手を取るのは、私だけがいいな」


 そう言って、片手で私の手を取られ、もう一つの手で抱き寄せられた。私は俯いたまま


 「はい…」


 とだけ言ったが、すぐにあごに指をかけられて、上様の方を向かされた。


 「お里は、ますますかわいくなるのか? それ以上かわいくなられては困る」


 私は、頭が沸騰しそうになったので


 「私にはわかりません」


 と、少し素っ気ない言い方をした。


 「ああ、今日は夕方になったからといって、中奥へ戻れという者もいないから、お里と朝までゆっくり過ごせるのだな。こんなに嬉しいことはない」


 と言いながら、私の膝の上へ頭を乗せられた。私も「そうですね」と言って、上様の頬に手をおいた。


 

ここまで読んでくださった方、評価をくださった方、ブックマークをしてくださった方、本当にありがとうございます。励みになっています。ほのぼの溺愛、時々トラブルをお楽しみ頂けるようがんばります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ