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反省

 次の日目が覚めると、上様と目が合った。


 「上様、もうお目覚めでございましたか?」 いつもは私が上様の寝顔を見ているのに、目が覚めていきなり目が合うと恥ずかしくなった。


 「ああ お里の寝顔を見ていた・・・」 そう言って、頬を撫でられた。そして、心配そうに私を見られ、「大丈夫か?」 と聞いてくださった。


 「はい、ぐっすりと眠れましたので大丈夫でございます」 私は、いつもと変わらないくらい良い気分だった。


 「そうか・・・何か食べることは出来るか?」 上様がそうおっしゃったので、私は昨日の夜から何も食べてなかったこともありお腹が空いていたので「はい」 と返事した。 上様は私の背中に手を添えて起こしてくださった。そして、立ち上がるときも体を支えてくださった。


 「上様、大丈夫でございますよ」 私は、そんなにして頂くほど気分が悪いわけではなかったのでそう言った。


 「いいから」 そう言って上様は手を取ったまま、向こうのお部屋へ続く襖を開けられた。そこには、おぎんさんがおられた。朝食のためのお膳を並べられているところだった。私たちに気付かれたおぎんさんはすぐに頭を下げられた。


 「上様、お里様、おはようございます」


 「ああ おぎん。来てくれていたのか」 上様はそうおっしゃった。


 「昨日の夜に、菊之助様の使いの方から連絡があり朝一番で戻ってまいりました」 おぎんさんがそう言われる間に、上様は私を席まで連れて行ってくださり座らせてくださった。


 「おぎんさん、お引越しの準備もありますでしょうに・・・申し訳ございません」 私はそう言って頭を下げた。


 「お里様・・・」 そう呟かれてからおぎんさんは座り直された。


 「上様、お里様、この度はおめでとうございます。私は本当に嬉しく思っております。引っ越しのことは、平吉にまかせ私は今日からお里様のお世話をさせて頂きたいと思いますがよろしいでしょうか?」 おぎんさんは頭を下げてそう言われた。


 「ありがとう、おぎん。お里のことと、おりんのことを頼んだよ」 上様は笑顔でおっしゃった。


 「はい、二人のこと・・・おまかせくださいませ」 そう言っておぎんさんは微笑まれた。


 「おぎんさん、こんなに早く戻って来て頂きありがとうございます。これからお世話になりますがよろしくお願いいたします」 私は上様に続いてお礼を言った。


 「お里様の一大事とあっては、私どこからでも飛んで戻ってまいりますよ。まだ、安静にしておかねばならないとのことでございますので、何なりとおっしゃってくださいね」 おぎんさんはそう言ってくれた。


 「はい、でも今日はとても気分が良く、普通に過ごしても問題なさそうですので・・・私が出来ることはさせて頂きます」 そうおぎんさんに言うと


 「お里、何を言っている。今は気分が良くても、お匙の許しがあるまではあまり動いてはならぬ。昨日約束したであろう? 無理はするなと」 上様が横からおっしゃった。


 「はい・・・わかりました」 私は無理をしているつもりはなかったけれど、ここで意見することもなかったので、今は安静にしていようと思った。


 「お里様、今は大事な時期でございます。しっかり休養されて、落ち着かれたらまた動けるのですから・・・今は上様の言うことを聞いてください」 おぎんさんがもう一度念を押すように言われた。


 「はい、そうさせて頂きます」 私はもう一度返事をして、上様を見た。上様は笑顔で頷いてくださった。


 「それから・・・上様、昨日のお里様の件でございますが、私が早くにこちらに戻って来ていれば、お里様をお一人で城から出て行かせてしまうことなどありませんでしたのに・・・申し訳ございません」 そう言っておぎんさんは頭を下げられた。


 「おぎん、そのことはもうよい。 みなが少しずつすれ違ってしまって起きたことだ。これからは、お里の悩み事を聞いてやってくれ」 上様は怒られることなく優しくおぎんさんにおっしゃった。おぎんさんも「はい」 とお返事をされた。

 朝食を食べている時も、上様はチラチラと私を見られていた。私は、何もおっしゃらずに視線だけを感じて少し恥ずかしかった。


 「お里様、食べられそうでございますか? まだ、お常さんに報告が出来ておらずいつもの朝食になっておりますが・・・昼からはもっと消化の良い食べやすいものをお願いしておきますね」 おぎんさんがあまりお箸の進まない私にそう言ってくれた。


 「いえ、食べられるものだけでも食べたいと思います。残してしまって申し訳ございませんが・・・」 私はそう言った。


 「お里、そんなことは気にするな。今は自分と子のことだけ考えてくれればいい」 上様がそうおっしゃったので私も頷いた。


 「上様? 今日はどのようなご予定でございますか?」 おぎんさんが上様に尋ねられた。


 「ああ 菊之助が段取りをして、こちらに知らせてくれるだろう」 


 食事が終わり、落ち着いた頃に菊之助様はやって来られた。


 「おはようございます。お里殿、お体の方はいかがでございますか?」 菊之助様が尋ねてくださったので「はい、大丈夫でございます」 と答えた。


 「上様、今日の段取りの前に昨日の件をお話させて頂いてもよろしいでしょうか?」 菊之助様がそうおっしゃった後、上様は私の方を見られた。私は上様に黙って頷いた。


 「ああ」


 「やはり、昨日お里殿に言い寄っていた男は、ここのところ上様の振りをして町で側室を探していると噂されていた者でございました」


 「そうか・・・」 上様は苦虫を噛みつぶしたようなお顔をされた。


 「振り?」 私はその言葉を繰り返した。


 「はい、あの男は上様の振りをして町で女子を引っかけていたのです。きっと、お里殿はその噂を聞かれたのだろうと思います。やつは、始めは見事に女が引っかかり楽しんでいたそうですが・・・最近はより綺麗な女をと探していたそうです。私も時々町に出掛けて見張っていたのですが、なかなか証拠が掴めずにおりました」


 「それで、菊之助様は町へよく行かれていたのでございますか?」


 「はい、奉行たちとあちらこちらを見回っておりました。やつが言うには、その頃なかなか自分好みの女子がおらず声をかけることを控えていたのだと・・・だが昨日、そこへお里殿が現れ一瞬で心が動いたのだと言っていました」


 「まったく・・・けしからん」 上様は吐き捨てるようにおっしゃった。


 「お里殿に何もなくて良かったですが・・・そのおかげでやっと、下手人を捕まえることが出来ました」


 「奉行に言っておけ! 充分に反省をさせろと」 


 「はい、承知いたしました」 菊之助様がおっしゃった。


 「お里、わかるか? 町にはいいやつばかりではないのだよ・・・残念ながら・・・だから、これからはどんなことがあろうと一人で町に行こうなどとしないでくれ」 上様は怒っておられる様子はなく、私にお願いするような言い方をされた。


 「はい、申し訳ございませんでした」 私はそう言って頭を下げた。


 「よし、この話はこれで終わりだ。あとは奉行にまかせる」 上様はさっぱりしたようにおっしゃった。私も今回のことは反省して、今は自分の身体を上様と子のために大切にしようと思った。


ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

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