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20XX年

 「お・・さん」「おか・・・」


 眩しくて目をしばたたかせながら目を覚ました。私を覗いていたのは・・・陽太だった。


 「おかあさん・・・良かった・・・」 陽太は以前お城であったときよりもずっと大きくなっていた。


 「陽太・・・また私に会いに来てくれたの?」 私は陽太の手を掴んだ。そして周りを見渡した。そこは、私が育った家の庭だった。


 「お母さんがこっちに来てしまったようだよ」 陽太は笑顔で私を起こしてくれた。


 「えっ? どうして・・・」 私はこの状況が呑み込めず色々と考えた。


 (私はあの世界でも死んでしまったのかしら・・・これは、最後に陽太に会わせてもらっているのかしら・・・でも、お城に戻ってももう私の帰るところはないのだから・・・それもいいのかもしれない・・・最後に上様のお顔を見たかった。どうせなら、怒ったお顔ではなく、優しく笑われたお顔を・・・)


 そんなことを考えていると、遠くから声が聞こえてきた。


 「ようちゃん、こんなところにいるの? さあ お花の植え替えをしましょう」 お母様の声だった。お母様と目が合っているような気がするのに、お母様は私がいることなど気付いていないようだった。


 「うん、すぐに行くから先に始めておいてよ」 陽太は母にそう言うと、わかったと母は庭の方へ歩いて行った。


 「おばあちゃんには見えていないようだね。まあ 見えてしまったらそれはそれで大変か」 陽太はそう言って私に笑いかけてくれた。


 「お母さん立てる?」 そう言って陽太は私を立たせてくれた。お母様が向かった方向を見ると、お父様と一緒にお花を見て笑って話していた。


 「お父様がお花を?」 私は始めて見る光景と、父の笑顔に呆然としてしまった。


 「おばあちゃんとおじいちゃんには見えていないみたいだから、一緒に行ってみない?」 陽太は微笑みながらそう言った。私は頷いて歩き出した。そのとき花を見て思った。


 「あの お花・・・」


 「うん、お母さんがベランダで育てていたお花だよ。おじいちゃんがそれを全部こっちに持ってきて植え替えたんだ。毎年、種を取ってあんなに増えたんだよ」 陽太は話しながら歩いていたので、父と母が不思議そうに陽太を見ていた。陽太は、ニコリと笑ってごまかしたようだった。


 「陽太、こんなかんじでどうだ?」 父が陽太に笑いかけながら話していた。


 「うん、いいと思うよ」 陽太は答えた。父は腕まくりをしながら、よし、始めるかと言ってスコップを持ち始めた。母も笑いながら、それを手伝っていた。私は、その横に腰を下ろししばらくその様子を見ていた。すると、涙が出てきた・・・


 「お母さん、きれいでしょ?」 陽太は私の隣に腰を下ろしてそう言った。


 「陽太、お母さんは喜んでくれるかな? こんなに綺麗に咲いているのだから喜んでくれているだろうなあ・・・」 陽太が自分に話しかけたのだと思った父が言った。私は、その言葉を聞いた瞬間、陽太にしか聞こえない声を出して泣いた。陽太は、黙って背中をさすってくれた。植え替えが終わると


 「さっ、 あなた、ようちゃん、お茶にしましょう」 そう言って母は家の中に入っていった。


 「陽太、行くぞ」 父が陽太に話しかけた。


 「うん、もう少しお花を見てから行くから先に行っておいて」 陽太はそう答えた。父はわかったと言って家の中へ入っていった。


 「おじいちゃんが、あんな風に変わるなんて・・・」 私は父の背中を見ながら言った。


 「おじいちゃんもね、お母さんが死んだときは一段と仕事をすることで忘れようとしたみたいだよ」


 「そう・・・」


 「でも、休みの日には僕を釣りに連れて行ってくれたり、山登りに連れて行ってくれるようになると、靖子とももっと遊びに行けば良かったって言うようになったんだ・・・靖子はおじいちゃんのことを嫌っていたからなかなか誘えなかったって・・・」


 「そんなことはないわ」


 「うん、ただ言えなかったんだよね。だから、僕はおじいちゃんにあれしよう、これしたいって言うようにしているんだ。おじいちゃんも喜んで、一緒に出掛けてくれるよ」


 「そうか・・・」


 「お父さんはね、新しい家族が出来たんだ。今は僕にも弟が出来た。僕も一緒に暮らそうって言ってくれているけれど、僕はここでおじいちゃんとおばあちゃんと暮らしたいって言って今は別で暮らしてる」


 「寂しくない?」


 「うん、二人とも大事にしてくれるしね。でも、お父さんもたまに遊びに連れて行ってくれたり、いつも僕のことを気にかけてくれてる」


 「そう・・・」


 「それにね、僕が小さいときってお父さんは夜遅く帰ってきてたでしょ?」


 「うん そうね」


 「今は仕事が終わるとすぐに家に帰るみたいだよ。新しいお母さんはあれをして欲しい、これをして欲しいって言うらしくて、お父さんの帰りを待っているみたい」


 「そうなのね」 私は想像できなさ過ぎて笑ってしまった。


 (私は父や主人にもっと言いたいことを言えば良かったのかもしれない・・・言う前に諦めて、私がこうしておけばいいのだと勝手に思い込んでしまっていただけかもしれない。私が動けば、もっと父にも主人にも近付くことが出来たのかもしれないわ。だって上様には思っていることを言うと、一緒に考えてくださり、ダメなことはダメだと言ってくださる。それは、私がちゃんと自分から気持ちを伝え、行動するから上様も答えてくださるのだわ。父や主人が変わって今が幸せなように、私も上様のもとで変わって幸せを手に入れた・・・はずなのに・・・)


 そんなことを考えていると、やっぱり上様に会いたくなった。寂しくて涙が次から次へと溢れてきた・・・


 「お母さん、そろそろ戻らないと上様が心配されるよ」 陽太が私を覗きこんで言った。


 「でも、お母さんもう帰るところがないの」 どっちが子供かわからないような言い方をしてしまった。


 「お母さん大丈夫だよ。ちゃんと正直に話してね」 陽太は私を抱き締めてくれた。以前は私の中にすっぽりとおさまった陽太だったけれど、今は私がすっぽりおさまりそうだった。


 「ありがとう・・・陽太。お母さん、頑張ってみるね」 そう言って陽太に笑顔を見せた。


 「こっちこそありがとう・・・僕に妹を会わせに来てくれたんだよね」 陽太も微笑んでくれた。


 「妹?」 そのとき、部屋の窓から声がした。


 「陽太、早くしないとお茶が冷めてしまうぞ」 父の声だった。


 「はーい」 陽太は大きな声で返事した。


 「陽太、最後に一つだけ教えて。家斉様の次の将軍は家斉様のご嫡男よね?」 私はそこだけがずっと気になっていた。上様の跡継ぎだけは知れるなら知っておきたかった。


 「そうだよ。今丁度、歴史でそこをやっているんだよ。あの肖像画よりもよっぽど本物の上様の方がイケメンだよね。それに、お里という名前の人はどこにも出てこないよ」 陽太はそこで声を出して笑った。


 「そう・・・ありがとう」 私も笑いながら言った。


 「お母さん、じゃあ僕は行くよ。僕は元気でやっているから、お母さんも元気で頑張ってね・・・」 段々と声が聞こえにくくなってきた。


 「元気な・・・うんで・・・・」 最後の方は声が聞こえなくなった・・・陽太の姿も霞んでいった・・・


 「お・・と」 「おさ・・」 今度は暖かくて優しい手の温もりで目が覚めた。


ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

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