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作業

 おりんさんが髪飾りの材料を届けてくださった。村の方が作られた組紐の色は様々でとても可愛らしい色が多かった。私とおりんさんはお昼の時間、それらを縫ったり、布で花を作ったり少しずつ準備を進めていた。


 「私はやはり、このような細々したことは苦手のようです」 おりんさんは、ため息をつかれた。


 「無理をしては体に障りますからね。休み休みやってください。でも、段々とうまくなってこられていますよ」 私はストレスが溜まるのではないかと心配した。


 「本当でございますか? こういうことも多少出来るようになっておかなければいけないので、いい勉強になります」 おりんさんは笑顔で言われた。


 「だったら良いのですが・・・ 少し休憩して、甘いものでも食べましょうか? 菊之助様が町へ行かれたときに買って来てくださったお団子でも食べましょう」 私はお茶の用意をしようと立ち上がった。おりんさんも、少しお腹が目立つようになってきたのでそのお腹と一緒によいしょと立ち上がられた。


 「おりんさん、私が用意しますのでいいのですよ」 私は座っているように言った。


 「お里様、あまり私を甘やかさないでくださいませ。少しでも動いておかないと、どんどん体が重くなってしまいます」 おりんさんはお腹をさすりながら言われた。


 「それもそうでございますね。適度に動いておいた方が、お産が楽だともいいますし・・・」 私はおりんさんのお腹を見つめながら言った。


 「はい。お天気のいい日には、菊之助様がお散歩に一緒に出掛けてくださるのです」 おりんさんは嬉しそうに言われた。


 「それはいいですね。外を歩いて色んな景色を見ると、おりんさんの心も清々しくなるでしょう」


 「はい」 おりんさんは元気に返事された。


 (本当におりんさんが母上様になられるのね・・・なんだか、信じられないけれど楽しみだわ)


 「そうだ、この余った布でお子のために何か縫われてはいかがですか? 産着もいいですね」 私は思いついて言った。


 「それは嬉しいです。でも、産着など縫ったこともありませんし・・・」 おりんさんは考えられていた。


 「そうだわ、おぎんさんにお手伝いしてもらわれたらいかがですか? おりんさんならきっと縫われたことがあるかもしれません」 私も産着を縫う自信はなかったのでそう言ってみた。


 「そうですね、今度おぎんさんが来られたときにでも聞いてみようかしら?」 


 「それがいいです。自分のお子のためなら、楽しく縫物も学べるでしょうから」 私は笑顔で言った。おりんさんも、どの布で産着を縫おうかと楽しそうに布を広げられていた。

 以前は上様が戻られる頃まで作業をしていたけれど、今回はお昼にゆっくり時間が取れるので上様がおられる時間に作業をすることはなかった。


 「お里、髪飾りの方は順調に進んでいるのか?」 上様は私が作業をしているところを見ておられないので、尋ねてくださった。


 「はい、今色んなお花を作っているところです。それが出来上がったら一度お仲様のところへ行って、お話合いをしたいと思っています」 私はまたお仲様のところへ行くことをお許し頂けるか聞いてみた。


 「そうか・・・わかった」 上様はすぐにお許しをくださった。


 「それで・・・何度もおぎんさんについてきてもらうのは申し訳ないので、私一人でも・・・道も覚えましたし・・・」 と話の途中で


 「それはならぬ」 すぐに話を制された。大きな声を出されたので、私はドキッとした。


 「お里、お前が一人で出歩くなど絶対にだめだ。何かあったらと思う私の身にもなってくれ。お里がおぎんに遠慮するなら、私が一緒に行く」 上様がそうおっしゃったので、それは困ると思って「申し訳ございません。おぎんさんにお願いしてみます」 と言った。上様は満足そうに頷かれた。

 というわけで、その後何度かお仲様のところへ行く時には、おぎんさんについてきてもらった。


 「おぎんさん、いつもお忙しいのに申し訳ございません」 私はおぎんさんに申し訳なく思った。


 「私はお里様のお付きが出来て嬉しいのでございますよ。今まではほとんどおりんに全て任せていましたからね。私もお里様と色んなお話が出来て楽しいのでございます」 おぎんさんは笑顔で言ってくれた。


 「でも、その度に村からわざわざお越し頂いているので・・・」


 「私は隠密でございますよ。村からここまで、馬を走らせればあっという間でございます」 そう言って笑顔で頷かれた。


 「ありがとうございます」 私はお礼を言った。


 お仲様の打ち合わせも順調で、だいたいどのようなかんじで髪飾りを仕上げていくかも決まった。あとは花と組紐をバランスよくつなげていくだけであった。ここからは、私一人の作業となったので、おりんさんはおぎんさんに産着の縫い方を教えてもらわれながら3人でお部屋で過ごすことが増えた。


 「ところで、おぎんさんと平吉さんはどこでお知り合いになられたのですか?」 私はおぎんさん夫婦の馴れ初めを聞いたことがなかったので聞いてみた。


 「私のことはいいのでございますよ」 おぎんさんは照れられたように作業を続けられていた。


 「でも、私やおりんさんをずっと見守ってくださっているおぎんさんのことを私が知らないのは寂しいです」 私はもう一押ししてみた。


 「私たちはお里様やおりんのように、大人になって出会った間柄ではないのですよ。実家同志が隠密だったこともあり、小さい頃から知っている仲で・・・自然と一緒になったのでございます」 おぎんさんは少し手を止めて、言われた。


 「幼馴染みということですね」 横からおりんさんも興味深々で聞かれた。


 「ええ だからお話しするようなことはとくにありませんよ」 おぎんさんは私に微笑まれた。


 「いえ 昔からお互いのことをよくわかっておられるから、おぎんさんも平吉さんも信頼し合っておられるのですね。素敵でございます」 私はお二人がイチャイチャされているところを見かけたことはないけれど、いつも平吉さんが前に出られるときはおぎんさんは後ろで控えられ、おぎんさんが表立って動かれるときは平吉さんが後ろで見守られるという姿を何度も見てきたので、素敵だなと思っていた。


 「ありがとうございます」 おりんさんは少し恥ずかしそうに頭を下げられた。


 おりんさんの産着が仕上がる頃、私の髪飾りもほとんど完成した。


ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

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