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変化

 おぎんさんとお部屋へ戻ると、おりんさんがまだお部屋におられた。


 「おりんさん、もうお帰りになられる時間でございますのに。菊之助様に怒られますよ」 私は心配して言った。


 「大丈夫でございます。どうだったか、聞きたかったのです。お昼に菊之助様がこちらへ来られたときに、一緒に家に戻るから待っていてもいいとおっしゃってくれました」 おりんさんはニコニコとして言われた。


 「そうですか」 私は菊之助様がご存知なのであればとホッとした。


 「それで、どうでしたか?」 おりんさんは早く話してほしそうにされていた。


 「はい、お返事をするととても喜んでおられました。市が開かれるのは暑くなる前らしいので、時間をかけて少しずつ作っていけそうです」


 「そうなんですね・・・暑くなる前ということは、私は見に行けそうにないですね」 おりんさんは寂しそうなお顔をされた。


 「大きなお腹になっておられるでしょうし、さすがに人が沢山いるところは危ないですね」 私もどうにかしてあげたかったけれど、こればかりはおりんさんのために我慢してもらうしかなかった。


 「でも、いいものが出来るように私もお手伝いいたします」 おりんさんは、すぐに気を取り直された。


 「よろしくお願いいたします」 私は笑顔で頭を下げた。


 「お仲様の旦那様にはお会いになられましたか?」 おりんさんはそのことも気になられていたようだった。


 「はい、とても大きなお方で男前さんでございましたよ。お仲様と仲睦まじい様子を見せて頂きました」 私はお二人の様子を思い出しながらおりんさんに伝えた。


 「あのお仲様がですか? なんだか、想像つきませんね」 おりんさんは一度想像されたけれど、やっぱりわからないというお顔をされた。


 「私も、以前のお仲様と同じお人なのか、お里様に確認したくらいだったわよ」 おぎんさんがおりんさんが想像できないのも無理はないというように言われた。


 「それほど、今がお幸せなのですよ」 私はお二人に笑顔を向けて言った。


 「それでお里様? 村の方に組紐をお願いされますか?」 おぎんさんが尋ねられた。


 「はい、出来るだけ沢山の色をお願いします。春になって新しい色の草花が育ってきたら、またそれで組紐を作られるのでしょうか?」 


 「ええ。その季節に取れた草花で糸を染めているようですよ」 


 「まあ、どんな色があるのか楽しみですね。前回お願いしたときも、同じ色のものでも少し薄かったり、濃かったりでとても綺麗でございました」 


 「気に入って頂けたなら村の者も喜ぶことでございましょう。上様から、たっぷり代金の方も頂けたので、どんな方が買ってくれたのかと村の女衆が噂しておりました」 おりんさんはそう言いながら笑われた。


 「村の為にもなって・・・上様のおかげでございます」 私も一緒に笑いながら言った。


 「それでは材料が揃いましたら、またお届けにあがらせて頂きます」


 「はい、よろしくお願いいたします」


 「お里、もう戻っておったか?」 上様と菊之助様が戻ってこられた。


 「上様、お早いですね。今日はこちらでお食事をとられるのですか?」


 「ああ、久しぶりにこっちで食事をとってから総触れに向かうよ」


 「承知いたしました」


 「おぎん、ご苦労だったな」 上様はおぎんさんにおっしゃった。おぎんさんは上様に頭を下げられた。


 「今日は、菊之助がおりんと一緒に家に戻るというので、日が暮れるとソワソワとしだしおってのう・・・私も早々に切り上げたのだよ」 上様は意地悪そうに菊之助様を見ておっしゃった。


 「上様、別にソワソワなどしておりません」 菊之助様はムスッとしておっしゃった。


 「菊之助様の変わりようは伺っておりますが、自分の目で見るのは初めてでございます」 おぎんさんもからかわれるようにおっしゃった。


 「おぎんもやめてくれ。私は別に何も変わっておらん」 横でおりんさんがクスクスと笑っておられた。


 「おりん、帰るぞ」 菊之助様は仏頂面でおりんさんを呼ばれた。


 「はい」 おりんさんはそう言って立ち上がろうとされたとき、すかさず菊之助様が手を差し出された。私たちはその姿をみて、フフフと笑った。菊之助様は、気にしないというようにそのまま襖の方へ歩かれた。


 「お里様、それではまた明日まいりますね」 おりんさんも少し笑われながらおっしゃった。


 「上様、失礼いたします」 菊之助様は拗ねておられるらしく、上様の目を見ずにおっしゃった。


 「ああ 菊之助、ご苦労」 上様はニヤニヤしながらその背中を見ておられた。


 「上様、お里様、私も下がらせて頂きます。また、準備をしてお伺いいたします」 そう言っておぎんさんも頭を下げてお部屋から出て行かれた。

 二人きりになっても上様はまだニヤニヤとしておられた。


 「上様? あまり菊之助様をからかっては可哀想でございますよ」 私は菊之助様が少し可哀想になったのでそう言った。


 「菊之助は散々、私がお里を甘やかすのを冷たい目で見ておったのだぞ。これくらいかまわないだろう」 上様は悪びれることなくそうおっしゃった。


 「まあ でも、菊之助様が上様の言動に慣れられたように、私たちも慣れてくるのかもしれませんね」 私はフフフと笑った。


 「ああ そうだな・・・お里、今日はいい話し合いが出来たか?」 上様は私に隣に座るように目で合図をされてからおっしゃった。


 「はい、おぎんさんにも準備をして頂くようになりましたし・・・期間も2月ほどございますので、無理をせずゆっくりと作ろうと思います」 私は上様の隣に座って言った。


 「そうか・・・わかった」


 「それに、お仲様の旦那様にもお会いしました。お幸せそうでございました。おぎんさんなんて、こちらにいらっしゃったお仲様と今日お会いしたお仲様は同じお人なのかと疑っておられました」 私は思い出して笑うと、上様も一緒に笑ってくださった。


 「気持ちが通じ合い、お互い大切に思う者が出来ると変わるものなんだよ。私も・・・菊之助もそうだ」 上様はしみじみと言われた。


 「私もでございます」 


 「お里は、だんだん強くなっているからな」 上様はからかうようにおっしゃった。


 「そんなことはございません」 私は意地になって否定すると上様はギュッと抱きしめてくださった。


 「私の元で変わってくれるなら、どんなお里でもいいのだよ。強くなっても、弱くなっても・・・ずっと傍で見ていたい・・・」 上様は抱きしめられたままそう言ってくださった。


 「ありがとうございます」 夕食をとって、総触れに向かわねばならないのだけれどもう少しこうしていたいと思った。


ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

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