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障子

 次の日からは、新しく庄屋になられる息子さんが帰ってこられるように掃除をしっかりすることにした。今まで使っていなかったお部屋も、すぐに使えるようにと思った。しかし、おぎんさんは相変わらず忙しそうで、あまり顔を見せられることもなく・・・菊之助様とおりんさんもお昼以降は外に出て行かれ上様と二人で過ごすことが多くなった。


 「お里、こっちはこれで拭いていけばいいのか?」 上様がたすき掛けをされ、障子を拭こうとされていた。


 「上様、私がやりますので座っていてください。上様にお掃除をなんてさせられません」 私が持っておられる雑巾を取り上げようとすると、上様はそれを私の手の届かないところまで上げられた。


 「私一人で座っていても暇であろう。お里と一緒に掃除をしている方が楽しい」 そう言ってにこりと笑われた。


 「でも・・・」


 「私がそうしたいのだから、お里は私に指示してくれればいい」


 「わかりました。それでは、こちらのはたきでまず埃を落としていってください」 私は上様から雑巾を取り上げて、はたきをお渡しした。


 「わかった。任せておけ」 上様は張り切ったようにはたきをかけられた。すると・・・ズボッ・・・上様のお力が強すぎてはたきは障子紙を突き破ってしまった。


 「まあ 上様・・・」 私は口を押さえて驚いた。


 「すまん・・・力強くした方が、埃が落ちるのかと思って・・・」 上様は下を向かれ、反省している子供のように謝られた。


 「大丈夫でございますよ。こうなったら、障子紙も綺麗に張り替えてしまいましょう。上様、一度障子を外してお庭まで持っていっていただけますか? これは、私には重労働ですので、上様にお願いします」 私はそう言って立ったまま頭を下げた。


 「ああ 任せておけ! 庭に出せばいいのだな」 上様は腕まくりをしてとりかかられた。お庭に障子を出して、全ての障子紙を剥がし水で綺麗に洗った。寒空の中で水は冷たかったけれど、上様と一緒に作業をするのはとても楽しかった。上様も楽しそうに「これでいいのか?」 と私に確認をされながら作業してくださった。

 障子を洗い、乾かすために日当たりのいいところに置いたところで私たちは休憩をすることにした。


 「お里、仕事を増やしてしまってすまなかったな」 上様は縁側で庭を見ながら、私の膝の上に頭をおいておっしゃった。


 「いえ、これで障子も綺麗になったら庄屋さんが戻られたとき、気持ちよく過ごされますでしょう? なら、良かったではないですか。 どうせなら、全ての障子を貼り替えたいくらいでございます」


 「お里はいつも前向きだな。私はそういうお里に癒される・・・ありがとう。なら、私も手伝うから障子を全て張り替えることにしないか?」


 「いいのでございますか? ありがとうございます」


 「この後に障子紙を貼るのか?」 上様は乾かされている障子の枠を見ながらおっしゃった。


 「はい、そうでございます。ですが、今は替えの障子紙がございませんので明日にでも菊之助様かおりんさんに買ってきて頂きますか?」


 「そうだな・・・今日の夜にでも頼んでみよう。もし、忙しそうなら二人で買い物にでも出かけるか?」


 「それも楽しそうでございますね」 私は笑顔で答えた。


 夕方に菊之助様とおりんさんが帰って来られた。


 「あの・・・お里様? どうして障子が干してあるのですか?」 おりんさんが聞かれた。


 「・・・」 上様が気まずそうなお顔をされた。


 「どうせなら、障子もすべて張り替えて庄屋さんが帰ってこられた時に気持ちよく過ごしていただこうと、上様に手伝って頂いたのです」 私はそう言って上様を見て微笑んだ。上様は、申し訳なさそうに微笑み返された。

 

 「まあ それはお喜びでしょう」 おりんさんは笑顔で言われた。


 「それで、もし明日お時間がございましたら新しい障子紙を買ってきて頂きたいのですが・・・」 私は菊之助様に聞いてみた。


 「それなら明日丁度、町の方へ行く用事がございますので一緒に買ってまいりますよ」 菊之助様がおっしゃった。


 「それは良かったです。ところで、お二人で町へ?」 


 「ああ・・・はい・・・」 菊之助様が言いづらそうにお返事をされた。


 「明日、新しい家の工事の具合を少し見に行こうと思っているのです」 おりんさんが言われた。


 「そうですか・・・ずっとこちらにおられてなかなか見に行けてなかったですものね。楽しみでございますね」 私は笑顔で言った。


 (菊之助様、ご自分の用事でお城へ戻られることに気を使っておられるのかしら?)


 「菊之助、おりん、気を付けて行くのだぞ」 上様がお二人におっしゃった。


 「はい」 お二人は頭を下げられた。


 次の日、朝から菊之助様とおりんさんは出掛けられたので上様と障子を庭へ出し、昨日と同じように綺麗に水洗いをして天日干しをした。そうしている間に、あっという間にお昼が過ぎてしまった。


 「今日は障子がなくて、少し寒いかもしれないですね。明日には綺麗に貼ってしまえると思うのですが・・・」


 「ああ でも、布団に入ってお里を抱きしめていれば暖かいから大丈夫だ」 上様はそう言って優しい顔をされた。私は、久しぶりの上様のこういう言い方に顔を赤くしてしまった。上様はフッと笑われて私の手を取られ、下から顔を覗きこまれた。


 「最近のお里はたくましかったので、久しぶりに顔を赤くするところを見られた。たくましいお里も好きだが、こうやって顔を赤くして照れているお里もかわいくて好きだ」 


 「・・・」 私はますます顔を赤くしてしまった。


 「お里様、ただいま戻りました」 そこへおりんさんが帰って来られた。上様は 「いいところだったのに・・・」 と呟かれたが私はこれ以上顔を赤くするところを見られたくなかったので聞こえない振りをした。


 「おりんさん、早かったのでございますね。夕方になられるものだと思っていました」


 「今日は馬をとばして行きましたので・・・それに、障子も早く張り替えられた方がいいかと思って・・・菊之助様は少し遅くなられますが」 おりんさんはそう言って、障子紙を私たちの元へ持ってきてくれた。


 「助かります。すっかり障子を外してしまいましたので、今日は少し家の中が冷えてしまうかもと心配していたところです」 私はそう言って上様をチラッと見た。上様は、苦笑いをされた。

 それから、日に当たってすっかり乾いた障子から新しい障子紙を貼っていった。上様は一度やり方を説明すると、次からはどんどんと進んでやってくださった。


 「やはり上様は器用でございますね。私なんかより、とても綺麗に貼られておられます」 上様の手つきに見とれながらそう言った。


 「やったことがないことをするのは楽しいものだ。お里に教えてもらわなければ、このようなことをすることなど一生ないだろうからな。これからは、城の障子も私が張り替えようか」 上様は楽しそうに笑いながらおっしゃった。


 「それはダメでございます」 おりんさんと私は口を揃えて言った。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

そろそろ、大掃除の時期ですね。この章を読んで、そう思われた方もおられるのでは?

早めに済ませたいものですね。

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