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特訓

 次の日もいつものように、お夕の方様(今は上様?)のお部屋へ向かった。


 「失礼いたします」


 と、襖を開けると……??


 上様と菊之助様…そして女中さんが2人?


 (女中さんが、こちらへくるなんて初めてだわ。何か大切な用事があったのかしら)


 「初めまして。お里と申します…お取り込み中でしたでしょうか?」


 と言うと、4人が顔を合わされて声を出して笑われた。


 (?????)


 すると、綺麗な女中さんが


 「お里様、()()()()でございます」と言われた。


 「あっ!」


 (私は何度、変装に騙されるのかしら)


 すると、少し背が高いおぎんさんが


 「さすがにいつもの格好では、目立ってしまいますからね。これからは、ここにいる間はこの格好でいさせて頂くことになります」


 「そうなんですね。よろしくお願いします」


 (どんな格好をされても、綺麗な方はお綺麗なままですね)


 「では、早速ですが、お食事の準備は私がいたしますので、お里様はお着替えをお願いいたします」


 と、今度はおりんさんが言った。


 「いえ…でもこれは私の仕事ですので…」


 「これからしばらくは、お里様のお仕事は訓練です。極力、そちらに集中してください。上様のお相手は私たちは代われませんけどね」


 「!!!」


 また顔が赤くなってしまう。それを見ていた上様が言われた。


 「そう意地悪をしてやるな。お里、そういうことだから二人に従ってなさい」


 「はい。わかりました」


 そう言って、奥の部屋へとおぎんさんに連行された。

 部屋の中に入ると、以前、上様が用意してくださった着物があった。


 「これを着るのですか?」


 「早く慣れて頂かないといけないので、まずは毎日着替えて頂きます。それから、お化粧も少ししましょう。今日は初めてなので、上様を驚かしてさしあげましょうね」


 (私はあまり化粧映えしない顔なので、ビックリするほど変わらないと思いますけど)


 それからは、おぎんさんに言われるまま立ったり、座ったりして着替えをしてもらい、お化粧もしてもらった。


 (この感覚、久しぶりだな。普通の着物は、例のカルチャーセンターで軽く習ったことがあるから、すぐに慣れたけれど…この着物は一人では着られないわ)


 そんなことを考えていると


 「はい。出来上がりました」


 ちょうど、おりんさんも部屋へ入ってこられたところだった。

 

 「まあ、お里様! とても綺麗ですよ」


 (お綺麗な方に言われても、かえって自信をなくします)


 「こんなに、動きにくいものなのですね」


 一歩、足を出そうとすると、裾を踏んで転びそうになった。


 「でしょ? だから、早く慣れておいた方がいいですよね」


 「はい」


 (本当にその通りです) 


 おりんさんが


 「上様、お支度が整いました」


 「そうか! ではこちらに」


 上様のお声は少し高かった。


 襖をあけてもらうと、上様と目が合った。上様は、目を見開かれて驚きの表情をされていた。

 

 「あの…いかがでしょうか…」


 私は上様に尋ねてみた。


 「いや…うん…とても似合っている…」


 (下を向いておられる…似合ってないと言いにくいのかな)


 「まあ、上様そんなに照れられなくても」


 と、少し笑いながら、おぎんさんが言われた。


 「こんなにきれいになるとは思ってもいなかったからな…ちょっと驚いているのだ。もちろん、普段の姿もとても魅力的だけど…」


 (!!!… なんて恥ずかしいことを言われるのかしら…みなさんの前ではやめてほしい!)


 「はいはい。では、お里殿、今日はまず着物で一日過ごすことから始めましょう」


 菊之助様が呆れ顔で話を変えられた。


 「はい。まず歩きにくくて…」


 私は転びそうになるので、動けず突っ立ったままだった。


 「それでは、まず足さばきの練習をいたしましょう。このように… 手はこちらの(つま)を持って…」


 と、おりんさんがゆっくりと教えてくれた。


 「こうですか?」


 しばらくすると、少しずつ歩きやすくなってきた。


 「さすがお里だ。覚えるのが早いな」


 (上様、これぐらいで誉められても恥ずかしいです)


 「上様、お里様の気が散りますので、お静かに願います」


 「すまない すまない」


 (おりんさん、お綺麗なだけじゃなく、お強いのですね…上様がタジタジになっておられる)


 少し慣れてくると、座るときの所作や立つときの所作なども教わった。何時間たっただろう…段々、体のいたるところが悲鳴をあげだした。


 「お里様、少し休憩をいたしましょう」


 そうおりんさんが言ってくれた。


 「はい。ありがとうございます」


 「やっと、休憩か。では、お里、こちらで休憩するとよい」


 上様は、となりの敷物をポンポンと叩かれた。


 (だから…みなさんの前では…)


 「いえ、私はこちらで…」


 するとおぎんさんが


 「私たちは、今の間にお庭のお掃除をしてまいりますので、ごゆっくり休憩してください。 あっ! もちろん襖は閉めておきますね。 フフフ…」


 (その言い方の方が、とても恥ずかしいんですけど…おぎんさん、面白がっていますよね)


 みなさん(菊之助様までも)出て行かれたので、私と上様の2人になった。


 「さあ、こっちへ」


 上様は、ニコニコしながらおっしゃった。


 「はい」


 私は諦めて、上様の隣に座った。すかさず、上様は私にくっつかれて


 「ああ こんなに綺麗なお里が目の前にいるのに、やっと近寄ることができた」


 「上様…みなさんの前で恥ずかしいことをおっしゃるのはおやめください」


 と、少し抵抗してみた。


 「何が恥ずかしいことなのかわからない。私は思ったことを言っているだけだからね」


 「……」


 (伝わらないってことか…)


 「綺麗なお里が一生懸命に教えを身につけようと頑張っている姿は、見ているだけでそそられるものだな」


 「……」


 (もう顔もあげられない)


 「それに…」


 と、さらに上様が何か言おうとされたとき


 「上様…もうそこらへんにしてくださいませんか?」


 と、顔をあげた。


 「お里、真っ赤だな」


 「上様が恥ずかしいことばかり、おっしゃるからです」


 「もう かわいいなあ」


 それからは、いつものお顔スリスリ、甘々の時間となった。


 お昼の食事は、上様と同じものを用意し、食事の作法を練習しましょうということになった。でも、私がこの格好のまま取りに行くことは出来ないため、菊之助様がお菊にならなければならない…菊之助様も奥の部屋で、おぎんさんとおりんさんに着替えをしてもらわれた。少々不機嫌なお菊さんは


 「久しぶりだな。この格好は…やっぱり落ち着かない」


 と、独り言を言われていた。


 「菊之助はその格好も似合うなあ」


 「上様!!!」


 怒った顔で、お菊さんは廊下を御膳所の方へと歩いていかれた。

いつも読んでくださり、ありがとうございます。

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