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庭の手入れ

 それからは、村の方達がお野菜やお魚を持ってきてくださってもお礼を言い受け取ったけれど、料理に使うことはなかった。外に捨てても、猫や鳥が食べてしまうことが心配だったので、おりんさんがまとめて焼却処分されていた。

 

 それでも、毎回おりんさんは毒見をされていた。


 「おりんさん? もう毒見の必要はないのではないですか?」 私が聞くと 「何があるかわかりません。私たちはそのための隠密なんです」 と言われた。私もそれ以上は言えなかった。

 最近では、上様と村へ出かけると、「多田様、今日もいい天気でございますね」 「多田様、もうすぐ子が産まれるのです。産まれたら是非見にきてやってください」 などと声をかけられることも多くなった。上様も、気さくに話されていた。そんな姿を眺めていると、ふと家の中で子供たちが一生懸命に何かに向かっている姿をみかけた。


 「あれは何をしているのですか?」 私は上様と話されていた、臨月の妊婦さんに聞いてみた。


 「ああ あれは内職です。お金になんてほとんどならないのですけれど・・・組紐を作っております。蚕を飼って糸をとっているのです。この山には、色んな種類の草花が生えていますのでそれらで糸を染めてから、あのように組んでいくのです」 妊婦さんは丁寧に説明してくれた。


 「そうなのですね。初めて見ました」


 「子供達も本当は寺子屋に行かせてやりたいんですけどね。少しでも金になるようにと今では子供達にも内職を手伝わせているのです」 妊婦さんはそう言って大きなため息をつかれた。


 「あの・・・よろしければ、出来上がったものを見せてもらうことは出来ますか?」 私は上様の方を見た。上様は笑顔で頷いてくださった。


 「ええ どうぞこちらへ」 妊婦さんは家の方へと案内してくれたので、私たちはついていった。家の中に入ると子供達が挨拶をしてくれた。私たちも笑顔で挨拶を返した。


 「さあ こちらでございます」 妊婦さんは色んな色の組紐を見せてくれた。


 「まあ 素敵な色ですね」 私は一つずつ手に取って見た。


 「刀の飾りなんかに使う程度で、あまり需要はないのですが・・・」 と妊婦さんは言われた。


 (大奥では帯締めに使われているけれど、まだ一般の方は組紐を使われることはないのかしら?)


 妊婦さんと私が話し込んでいると、横で上様は子供達に話しかけられていた。


 「お前たちは親孝行だな。これからも、家を助けて頑張るんだぞ」


 「はい」


 「今度、私の家の庭で焼き芋をしようと思うから、子供達みんなを誘っておいで」


 「本当に!? やったあ!!」 子供達は上様に抱きついて喜んでいた。その姿を私は微笑んで見つめていた。

 その帰り道、上様は焼き芋の件について話された。


 「ああやって頑張っている子供達を見ていると・・・何かしてやりたくなってなあ」


 「ええ 素敵なことだと思います」


 「帰ったら、おりんに城から芋を手配するようお里に段取りを頼んでいいか?」


 「はい もちろんでございます。子供達にお腹いっぱいお芋をごちそうしましょう」 私は上様の手を取って笑顔で話した。上様も嬉しそうにその手を握り返してくださった。

 

ある日、おりんさんと二人で掃除をしていると


 「ごめんください」 と一人の若者が来られた。おりんさんと一緒に手を止めて玄関まで行き、戸を開けた。


 「どうも あっしは村の者で、辰吉と申します」 私たちも挨拶を返した。何度か魚を持ってきてくれた方達の中にいらっしゃった人なので見覚えがあった。


 「いつも、差し入れをありがとうございます。今日はどうされましたか?」 私はお礼を言ってから、用件を聞いた。


 「はい あっしは今はここで農業をやっておりますが、以前に植木屋で奉公をしていたことがございまして・・・お世話になっている多田様のお庭を是非綺麗にしたいと思い、まいりました」


 (この方はご自分のことをあっしと言われるのね)


 「そうでございますか。ありがとうございます。ですが、今は旦那様は出掛けておりまして・・・戻りましたら聞いて、お返事させて頂きます」 


 「わかりました、それでは明日にもう一度来させて頂きます」 そう言うと頭を下げて帰られた。


 「とても爽やかな方でしたね」 とおりんさんが言われたので、私も「そうですね」 と言った。夕方、上様が帰って来られて今日訪ねて来られた辰吉さんの話をした。


 「そうか・・・ちょうど、焼き芋をするのに庭の落ち葉を集めねばならぬと思っていたので、手伝ってもらうとするか」 と上様がおっしゃった。


 「それでは、明日お返事をしておきますね」


 「ああ 私も時間があるときは手伝うとしよう」 上様はそう言ってニコリと笑われた。


 「お芋が届いたら、早速子供達を招待しましょうね。楽しみですね」 


 次の日、昼過ぎに訪ねてこられた辰吉さんにお庭のお手入れを頼んだ。上様も一緒にいらっしゃったので、一緒にお庭に向かった。


 「ここで、焼き芋をして村の子供達を呼ぼうと思っているのだよ。だから、落ち葉や枯れ木を集めようと思っていたところなんだ。助かるよ」 と上様が辰吉さんにおっしゃった。


 「そうでございますか・・・子供達も喜ぶことでしょう」 と辰吉さんも笑顔で言われた。それから毎日、辰吉さんはお昼から夕方まで庭の手入れに来てくれた。上様も時間のあるときは、一緒にお庭に出られた。


 「旦那様と奥様のお部屋はこちらのお庭に面されているのですか?」 辰吉さんが聞かれた。


 「はい そうです」 私が答えると 「それでは、ここに少し明るいお花を植えられてはいかがですか? お部屋からも見えるように」 と辰吉さんが言われた。


 「それはいいかもしれませんね」 私は笑顔になって言った。


 「また山の方で花を見つけてきます」 辰吉さんが言われた。


 次の日にはお芋が沢山届いたので、おりんさんと箱から出して焼き芋が出来るように準備を整えた。


 「それでは、明日早速子供達を集めようか」 上様が私たちの様子をみておっしゃった。


 「はい 辰吉さんのおかげで落ち葉の方も沢山集められましたからね」 私は子供達が喜ぶ様子を想像しながらワクワクしていた。


ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

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