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守護

 外が明るくなってきた・・・横を見ると上様はまだぐっすり眠っておられた。私は、少し喉が渇いたので台所へ向かった。

 台所に人影が映ったので、そっと近付くとおりんさんだった。


 「おりんさん!」 


 「お里様、おはようございます。少しお腹が空いてしまって・・・早く目覚めてしまいました」 いつものおりんさんの笑顔だった。


 「昨日、おぎんさんが食事を作ってくれたのですが・・・それでもよろしいですか? 私が準備いたします」 私はそう言いながら、台所へと向かった。


 「お里様、自分でいたしますから」 とおりんさんが言われたので 「今日だけは言うことを聞いてください」 と言い準備にとりかかった。おりんさんに、昨日おぎんさんが作ってくれたものを並べてから、お茶を淹れた。おりんさんは美味しいと言いながらお箸を進められた。


 「おりんさん、もう大丈夫なのでございますか?」 私はおりんさんに聞いた。


 「はい もうすっかり。菊之助様も一晩中ついていてくださったようで、お疲れになられたのか、まだグッスリ眠っておられます」 と嬉しそうに言われた。


 「あの・・・私、何も知らず・・・上様に昨日、毒見の件を聞きました。申し訳ございません」 私はおりんさんに頭を下げた。


 「お里様、私に謝ることなどされておられないでしょう? 私は、上様とお里様の命を守ったのだと、少し鼻が高いのです。それに、さほどきつい毒ではありませんでしたので、おかげでゆっくり眠ることができて今日はとてもスッキリしています」 と笑顔でおっしゃった。


 「でも・・・」


 「お里様、私を可哀想だとお思いですか?」


 「そういうわけではございません。ただ・・・何も知らずにのん気にしていた自分が恥ずかしくて・・・」 


 「何も知られていなかったのなら、私は立派な隠密だということです。お里様がご自分を責められても、私はこれからもお里様をお守りするのです。素直に守られてくださると、私は嬉しいのですけど」 と強気に言われた。


 「そうおりんさんがおっしゃるのなら・・・そういたします」 


 「はい そうしていてください」 そこでニコッとされて、お箸をもう一度進められた。


 (きっと、私を守りたいというのは本心で言ってくださっている。私が出来ることは限られているけれど、何かの時には私もおりんさんを助けられるようになりたい)


 「おりんさん、おかわりされますか?」 私は笑顔で聞いた。


 「はい お願いします」 そう言って、お茶碗を差し出された。私は、それを受け取り台所へ向かった。


 「二人とも起きていたのか」 上様が居間へ来られた。


 「上様、おはようございます。昨日は、ご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした」 おりんさんが一度姿勢を正されて、頭を下げられた。


 「ああ もう大丈夫なのか? それだけ食べられるのなら、大丈夫だな」 上様はその場に腰を下ろされた。


 「上様、おはようございます。もしかして起こしてしまいましたか?」 私は話し声が大きかっただろうかと思った。


 「いや、目を覚ましたらお里がいなかったから心配になってな。話し声がしたから、こっちにきてみた」 

 「申し訳ございません」 私は頭を下げた。


 「いいんだ。おりんと話して元気になったようだな」 上様は優しく微笑みながらおっしゃった。私はおりんさんの方を見ると、おりんさんが笑顔で頷かれた。


 「はい ご心配をおかけしました」 私は上様に笑顔で言った。上様も、それは良かったと笑顔を返してくださった。


 「おりん!!」 そこへ、菊之助様が慌てられたように入ってこられた。私たち3人に気付かれて、恥ずかしそうにされた。


 「ここにいたのか・・・なら、いいのだが・・・」 と気まずそうに頭をかかれた。


 「菊之助様、おはようございます。菊之助様、おりんさんが心配で起きてこられたのですね」 私は笑いながら声をかけた。


 「いや・・・あの・・・はい」 菊之助様が困った顔をされた。


 「お里、私もこのまま食事を済ますよ。菊之助も食べてしまおう」 上様がおっしゃった。


 「はい 承知しました」 私はそう言うと、台所へ行き食事の準備をした。いつもより、だいぶ早い食事になったけれど、おりんさんの元気な顔を見て食事が出来ることが嬉しかった。

 寝間着のまま食事をしたので、それぞれが一度部屋に戻り着替えてから居間へ戻った頃に、おぎんさんと平吉さんが来られた。


 「おりん、大丈夫か?」 平吉さんはおりんさんに聞かれた。


 「はい もうすっかり元気になりました」 笑顔で返されると、後ろにおられたおぎんさんもホッとされた様子だった。


 「それで、少し昨日の話をしたいのだが・・・お里、大丈夫か?」 上様が心配そうに私の方を見られた。


 「はい 大丈夫でございます」 私は一度、おりんさんの方を見て笑顔を確認してから返事をした。


 「昨日、料理をされたのは・・・誰かからの差し入れでございますか?」 菊之助様が尋ねられた。


 「はい 昼に、蓮根など土の中にあるものは税として持っていかれないからと、奥様方何人かでお野菜を持って来て頂きました。それと、昼過ぎに今日は川で魚が沢山釣れたと男の方何人かがお裾分けをくださいました」 私は昨日のことを思い出しながら話した。


 「それらを煮炊きいたしました。食べてからしばらくして具合が悪くなったので、何に毒が入っていたのかまではわかりません。どれも、食べたときに違和感があるものはございませんでした」 おりんさんが続きを話された。


 「それでは、誰がということまではわかりませんな・・・」 平吉さんが考えながら言われた。


 「ああ だが、念のため村人たちには申し訳ないが・・・これからは、城から届いたものだけを使って料理をしてくれ。もらったものは、とりあえずは怪しまれぬために受け取ってくれてかまわない」 上様がおっしゃった。


 「わかりました」 私とおりんさんはそう言って、口元を引き締めた。


 (上様が私に何もなくて良かったとおっしゃったように、上様に何もなくて良かった・・・そのときは、あまり考えられなかったけれど今さらながら痛感してしまう)


 「庄屋は一度に大量の毒を飲まされたのではなく、何回かにわけて毒を飲まされたのでしょう。怪しまれぬように・・・」 菊之助様がおっしゃった。


 「ああ 領主が、私が米を配ったことを、あんなに早く知ったということから村人の中に領主と通じているものがいるのだろう・・・そいつをどうやって見つけるかだな。毒のことは表に出さず、私たちがピンピンしているのを見て次の手段に出てくるかもしれぬ。今まで以上に用心してくれ」 上様がみんなに言い聞かせられた。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

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