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初日

 次の日は、上様がまだ眠られている間に朝の食事の用意をしようとそっと布団から抜け出し台所へ向かった。すでにご飯が炊けるいい匂いがしていたので、台所を除くとおりんさんとおぎんさんが用意をされていた。


 「おはようございます」 私は遅れを取ってしまったお詫びを言って、お手伝いを始めた。


 「お里様、昨日はお疲れだったのですからゆっくりお休みになっていてくださって良かったのですよ」 おぎんさんが言われた。


 「はい でも早くに目が覚めてしまったものですから」 と言うと、「まだ慣れないところで、ゆっくりはお休みになれなかったのですね」 と心配そうに言われた。


 「いえ 私はどこでも眠れるようですので、すぐに慣れると思います」 心配をかけないように笑顔で言った。私は、お味噌汁を作ろうとお湯をわかしだしをとり始めた。


 (以前も健康のために自分でだしを取っていたから、同じようにしてみようかしら)


 煮干しの頭を取っていると、お二人が不思議そうに見られた。


 「お里様? 頭を取るのですか?」 おりんさんが聞かれた。


 「はい 頭を取ったほうが苦みや臭みがなくなりますので・・・勿体ないでしょうか?」


 「いえ この頭の部分は庭に出しておきましょう。猫か鳥が食べてくれるでしょう」 おりんさんは取った頭を横に集めてくれた。ご飯も炊きあがり、お味噌汁とちょっとしたおかずが出来たところで菊之助様も起きてこられた。


 「おはようございます。菊之助様」 3人で挨拶をした。


 「お、おはようございます。なんだか、慣れませんね・・・」 そう言って少し照れくさそうにされた。私たちは菊之助様の様子を見てクスクスと笑った。


 「私は上様にお声をかけてまいりますね」 そう言って、部屋へと向かった。上様はまだぐっすり眠られているようだった。その寝顔をしばらく見つめてから「上様、朝でございますよ」と声をかけた。


 「ああ・・・うんん・・・」 まだ少し寝ぼけられているのが、可愛らしかった。上様は眩しそうにされてから目を開けられると、「ああ おさと」 と言って私を抱き寄せられた。私は座ったままだったので、体勢を崩しそのままゴロンと布団の上に倒れてしまった。


 「上様、まだ寝ぼけておられるのですか?」 


 「いや 目覚めたらお里がいたから、思わずな」 そう言っておはようといいながらキスをされた。


 「んん・・・上様、皆様お揃いになり朝食の準備も整っていますよ。さあ、起きてお着替えをなさってください」 私は、嬉しかったけれど皆さんをお待たせしているので、口を塞がれながらそう言った。


 「わかった・・・」 上様はそうおっしゃると大きく伸びをされてから、布団から出られた。


 朝食を済ませ、私たちも台所を片付け終えた頃、弥助さんが来られた。


 「皆さま、おはようございます。間もなくこちらの家に村の者が順番に挨拶に来させて頂くことになっております」 弥助さんは、昨日初めてお会いしたときより少し顔色も良さそうだった。


 (上様が来られたことで、少しは安心なさったのかしら・・・それなら良かった)


 「ああ わかっている。こちらは準備出来ているからいつでもかまわない」 上様がそうおっしゃると菊之助様も弥助さんに向かって頷かれた。

 私たちは玄関まで出ておこうと、全員で外に向かった。菊之助様と平吉さんが大きな荷物を家から運び出されていた。


 (上様が昨日、村の方に米と野菜を配るとおっしゃっていたからこれがそうね)


 「これをお配りになられるのですか? 私もお手伝いします」 私は上様に言った。


 「頼んだぞ」 上様は笑顔でそうおっしゃった。少しすると、村人たちがこちらへ向かって歩いてこられた。家族連れで来られる方がほとんどだったので、家族ごとに挨拶をされた。


 「私は、八兵衛と申します。どうぞよろしくお願い致します。」 世帯主の方が挨拶されると、後ろにおられるご家族も一緒に頭を下げられた。


 「これから、しばらくこの村に留まることになるのでよろしくな。これは、少しだが持っていってくれ。それから、何かあれば私かこちらにいる菊之助に言ってくれればいいからな。女同士の悩み事があれば、こちらにいる私の妻に言ってくれ」 上様は皆さんからのご挨拶を受けられ、一人一人に笑顔で接しられた。


 (誰もこの方が将軍様だなんて思いもしないでしょうねえ。上様に妻と紹介されて・・・恥ずかしいけれどうれしい・・・)


 私も横で、挨拶をしながらお野菜をお渡しするお手伝いをした。皆さん、お米を手に取るととてもいい笑顔をされた。


 「こんなにたくさんのお米・・・久しぶりだなあ」


 「子供たちに早く食べさせてやりたいねえ」


 「これで爺が少しでも元気になってくれるだろうか・・・」


 皆さん、口々に感動を口にされていた。改めて、この村が大変な状況なのだと知ることができた。村人たちの挨拶が終わり、家の中に入った私たちは休憩をした。


 「お里、疲れは出ていないか?」 上様が気を使って聞いてくださった。


 「私は皆さんとお会いすることが出来て、楽しかったです。上様こそ慣れないことをされてお疲れなのではないですか?」


 「私も、役人以外とこうやって近くで話をするのは初めてだったからな。でも楽しかったよ。この者たちが、平和に暮らせることを改めて願ったりした」 上様がしみじみとおっしゃった。


 「今回渡した米でしばらくは暮らせるでしょうが、今後のことも考えなくてはなりませんね」 菊之助様がおっしゃった。


 「ああ 明日からは村へと歩いて回りたいと思っている」 上様がそうおっしゃったので、「私もお供してもよろしいですか?」 と聞くと「もちろん」 と笑顔で答えてくださった。

上様が言われていた通り、次の日から午前中は村を歩いて回った。挨拶をしてくれる村人の方がいれば、少し立ち止まって話をしたりした。どの方も気さくで、明るく話をしてくれるので長い時間話すことも多くあった。


ここまで読んでくださり、 ありがとうございます。

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