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覗き

 宿へ入り、皆さんで打ち合わせも兼ねて休憩をすることにした。


 「お里殿、改めまして本日はご苦労様でございました」 と菊之助様が言ってくださった。


 「おぎんさんとおりんさんが気を使ってくださり、ゆっくりと進んでくださったので無事に到着することができました」 


 「今日はゆっくりとお休みください。お部屋は3部屋ですので、上様とお里様、おぎんとおりん、私は申し訳ございませんが一人でお部屋を使わせて頂きます」 と上様に報告された。


 「ああ わかった」 上様が頷かれた。


 「せっかくですので、菊之助様はおりんと一緒のお部屋でかまわないのでは?」 おぎんさんが言われると、上様が「そうだな」とおっしゃった。しかし、すぐに菊之助様が否定された。


 「私どもは、まだ婚姻前でございますから・・・今回は別々の部屋で休ませて頂きます。おりん、いいな」 と言っておりんさんを見られた。おりんさんは、菊之助様と目を合わされて「はい」と言われた。おりんさんは少し残念そうにされていたような気がしたけれど、そういう真面目な菊之助様を尊敬されているのだろうなと思った。

 夕食は、5人揃ってとることになっていた。今日の女3人での旅を上様にお話ししながらの食事となった。お蕎麦やさんで食べたお蕎麦がとても美味しかったことや、おじさんがおまけをしてくれたこと、お常さんが作ってくださったお団子を3人で休憩がてら食べたことなどをお話している間、上様は楽しそうに聞いていてくださった。


 「この後、女3人でお風呂にいきませんか?」 おりんさんが言われた。


 「そうですね、ここのお風呂は大きいらしいので3人でも充分に入れるそうですよ」 おぎんさんも言われたので、私は「まあ 3人でお風呂なんて楽しそうですね」 と嬉しくなった。

 「上様、よろしいですか?」 と上様の方を見ると、少し不満そうな様子だったけれど「ああ 行っておいで」 とお許しをもらえた。

 「上様、こちらは混浴ではございませんのでご了承ください」 と菊之助様がおっしゃると、「菊之助はいちいちうるさい、わかっておる」 と八つ当たりされるようにおっしゃった。

 私たちは、食事を終えそれぞれの部屋に一度戻ってから用意をして3人揃って浴室へと向かった。 

 お風呂場は広く清潔で、おぎんさんが言われた通り浴槽は3人で入っても充分くつろげるほど広かった。久しぶりにこんなに広いお風呂に浸かったので、とても気持ちが良かった。そのとき・・・


 「お里様・・・こちらへ・・・」 と小声でおりんさんが私を浴槽の端へ寄せられた。私は何のことかわからないまま従った。すると、今度はおぎんさんがサッと体にタオルを巻かれて桶にお湯を汲まれた。そして、そのお湯をお風呂場の入り口目掛けて勢いよくかけられた。

「うわあ・・・」 急にお湯を掛けられた人は、驚いて後ろに倒れた様子だった。一瞬でその人にタオルで目隠しをされると、今度はおりんさんが手を後ろに回してタオルで縛られた。私が、目を丸くして見ている間の一瞬の出来事だった。


 「お里様、覗きでございました。もうご安心ください。後は私に任せて、おりんと一緒にゆっくり風呂に入ってくださいね」 そう言うとおぎんさんは、風呂場から出られ脱衣場でサッと着替えをされると、縛られた人を連れて浴室から出て行かれた。


 「本当に男は馬鹿でございますね」 何事もなかったように、おりんさんは言われた。


 「私・・・まったく気が付きませんでした」 私は今更ドキドキしてきた。


 「お里様のことは、私たちがお守りするのですから・・・安心してお任せください」 そう言ってニコリと笑われた。


 「はい・・・」


 (そうよね。やっぱり、お二人は隠密なのだわ・・・きっと、覗きが脱衣場に侵入してきたときには、気配に気付かれていたのでしょうね・・・)


 気を取り直して、お風呂を楽しむことにした。ゆっくりと浸かり、その日の疲れも全て流されたようないい気分だった。

 部屋に戻ると、上様、菊之助様、おぎんさんが座っておられた。


 「上様、お風呂を頂いてまいりました」 私が座って、頭を下げようとすると「こっちへきなさい」とご自分の横を差された。私は、言われた通り上様の隣に腰を下ろした。


 「お里、大丈夫であったか? 驚いたであろう」 上様が手を取って心配そうにおっしゃった。


 「はい。おぎんさん達が素早く気付いてくださったので、大丈夫でございます」 と笑顔を向けて言った。


 「不届きものめ! 懲らしめねば、気が済まない!」 上様は相当怒っていらっしゃるようだった。


 「上様、ここで事を荒立ててはなりませぬ。おぎんが、宿の者へ突き出し、番所へ届けるそうですから、今回のことはここまでで・・・」 菊之助様がなだめる様におっしゃった。


 「上様、私たちも警戒しておりましたので早めに気付くことができました。お里様のお肌ひとつ見られることなく、捕らえましたので」 とおぎんさんがおっしゃった。


 「そうなのか?」 上様は私の方を見られた。


 「はい、私はおりんさんに浴槽の隅に隠して頂いていましたので・・・」 そう説明した。


 「そうか・・・わかった」 上様は少し納得されたようだった。


 「おりんも大丈夫だったのだな?」 横から菊之助様がおりんさんに聞かれた。


 「はい、私も大丈夫でございます」 と顔を赤らめておりんさんが答えられた。


 (菊之助様もおりんさんを心配されていたのだわ。こんなふうに、私たちの前で心配を表に出されることなんてなかったから・・・なんだか新鮮・・・)


 「ということで、今回は番所に任せるということでよろしいですか?」 菊之助様が上様に確認をされた。


 「ああ」 上様は渋々ながら承諾された。


 「それでは、私たちはそろそろ・・・明日は、朝食の際にお声をかけさせて頂きます」 そう言って3人さんはお部屋を出て行かれた。


 「お里、何ともなくて良かった・・・」 上様は手を取られたままおっしゃった。


 「ご心配をおかけいたしました」 私が言うと、「いや、お里が悪いわけではないから」 と言って抱きしめてくださった。


 「お里、よく浸かったのか? 顔が火照っていて、色っぽいな」 と上様がおっしゃったので私は一気に顔を一段と赤くした。上様はもう一度私を抱き寄せてくださり「見られなくて良かった・・・」 と耳元で囁かれた。


ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

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